アニメ「Dr.STONE」(毎週金曜夜10:00-10:30ほか、TOKYO MXほか)が放送中。

【写真を見る】稲垣理一郎×熊谷和海、2人のトークは大盛り上がり!

同作は、「週刊少年ジャンプ」で連載中の人気漫画をアニメ化したもので、文明が滅んだ“石の世界”を舞台に石器時代から現代文明までの科学史200万年を駆け上がる前代未聞のクラフト冒険譚。

今回、漫画の原作者・稲垣理一郎とアニメのオープニングテーマ「Good Morning World!」を歌うBURNOUT SYNDROMES(バーンアウトシンドロームズ)のVo/Gt熊谷和海に対談形式のインタビューを行った。

中編では、熊谷にとって「Dr.STONE」の刺さるポイントや稲垣が受けた「Good Morning World!」の印象などについて語ってもらった。

――熊谷さんにとって「Dr.STONE」の一番刺さるポイントはどこですか?

熊谷:時流にすごく合った作品だなって思っているんです。この作品の一番おいしい部分ってやっぱりクラフトの部分なんじゃないかって思っていて、作る喜び、作る面白さにスポットを当てている。

戦う場面もあるけど、バトルものではないし。世間的にこのクラフトにスポットが当たり出したのは実は最近で、古くはゲームの「アトリエシリーズ」の“戦うより武器を作る方が楽しい”というのもあったけど、やっぱり「ドラクエ」のような“敵を倒す方が楽しい”という方が主流だったと思うんです。

そんな中で最近、「マリオメーカー」に端を発して、「製作者側って面白いんじゃないか」という空気が出てきたような気がして、それを受けるように「モンスターハンター」がドカンと受けて…といった感じで、“敵を倒す”というより“作る”という方がフォーカスされてきた気がしていたんです。

そういう空気の中でこの「Dr.STONE」が出てきて、すごく今っぽいなと。そこに着目した漫画作品ってあまりなかったですし。

他にもあったかもしれないけど、それをこの「週刊少年ジャンプ」というフィールドでやれるっていうのは本当にすごいなと。

稲垣:サバイバル漫画は結構あったかもしれないですけど、クラフトはそんなになかったかもしれないですね。この漫画を始める時に、「あまりサバイバルの方に行かないようにしよう」というのは割と早い段階で決めていました。

サバイバル漫画って昔から結構あって、面白いんですけど手垢が付くほど描かれてきたことなのであらためて描いても新しいエンタメにはならないだろう、というのがあったので。

ただ、ゼロから文明を立ち上げるっている話をしているのにサバイバルを書かないわけにはいかないから、当初はその矛盾に突き当たって、(サバイバル的な)立ち上げを描かなきゃいけない、でもそこを軸にしてしまうのは違う、ということで、1巻2巻でテクニカルな始め方にしたんです。

熊谷:なるほど! だから最初の最初で中盤の記憶として始まっているんですね。

稲垣:そうです。本当の1話は千空が目覚めるところなんです。当初のプロトタイプではその始め方になっているんですけど、「サバイバルを期待されちゃうのは違う」と。

「これは科学とクラフトの漫画なんだ」というのを見せなきゃいけなかった結果、テクニカルに(時系列が)逆さになっていったんです。

熊谷:確かに時系列は不思議な感じはしました。それって連載前から考えていらっしゃったんですか?

稲垣:そうですね。やっぱり最初の方はどういうキャラクターを配置するかっていうのがすごく大事になってくるので。

心が強過ぎる千空が目覚めて一人で黙々とやっていくというのではちょっと読者が入れないだろうと。だから、ちょっとテクニックでがちゃがちゃと入れ替えて…。

熊谷:じゃあ、連載前から1巻2巻くらいまでは構想は出来ている感じで?

稲垣:ぼんやりとは出来ていましたね。

熊谷:アニメを見ていて思ったんですけど、千空が意識を失っているところで最初の最初をやっているというのはテンポとしてすごく良いなと。

稲垣:コミック版では、「あそこで一旦序章終わり。ここからスタートだよ」とはっきり明示しているんですけども、アニメでは演出の都合でああいう形になったんですけどね。ストーンワールドの時系列的にも、千空の復活シーンが本来の第一話なわけです。

■ 稲垣「地道さのカッコよさを描きたくて…」

――科学とクラフトをテーマにした作品は革新的だったと思うのですが、その着想のきっかけはどこだったのですか?

稲垣:科学とクラフトをここまではっきりとかみ合わせるっていうのは、実は当初からあったものではないんです。

どちらかといえば、科学で発展させていくというところが肝で。そもそもこの千空というキャラクターでやりたかったことは、「すごく地味な作業ってカッコいいじゃん」ということなんです。

本当のゼロからめちゃくちゃ地道にちょっとずつ文明を上げていってすごいところまでたどり着くって、とんでもなく気が遠くなる作業じゃないですか。

でも、それを一歩一歩できるやつがいたらカッコいいよなって。その地道さのカッコよさみたいなものを描きたくて描いたものなので、重要なところは一歩一歩進んでいくところなんです。

だから、物をクラフトするっていうのは当初そこまで考えていなくて、逆にちょっと難しいかなと思ったんです。滑車を作るとかならまだしも、特に化学(ばけがく)の方になるとなかなか難しいので。

それで実は、2話目が試金石だったんです。ナイタール液とか硝酸とかって、もう意味分からないだろうと。

熊谷:ぶっ飛んでいますよね(笑)。

稲垣:そもそもアルコールの蒸留ってことだけでも難しい(苦笑)。“蒸留”も多くの人は分からないと思うので。だから、2話目は本当に人気の試金石だったんです。

「これで(人気が)やばかったら、もうちょっとバトル寄りにしなきゃいけないな」と思っていたのですが、ふたを開けたらすごく人気があって! 

それで、千空が復活した後の2話目で、エネルギーと質量の話とかすっごく難しい話して(読者の反応を)探ったんですけど、それでも人気があって「この漫画イケんじゃねぇ!? クラフトしてもいいんじゃねぇ?」って。

その後も複雑なクラフトをして、やるたびに「今回はやばいだろう」って思うんですけど毎回大丈夫で。だから、やってみないと分からないこともあるんですよね。

熊谷:僕も読んでいて、「すっごく面白い! これこそ男のロマンだ」って思いながらも、「果たして(読者の)子どもたちはどうなんだろう?」って最初に思ったんですよ。

稲垣:ちょっとずつチャレンジを繰り返していって、勝負に出たのが“サルファ剤完成の回”。(千空のせりふの中で)すごいことやってるんですけど、もうギャグにするしかないなと(笑)。

熊谷:バランス感覚がすごいですよね。精製の過程を生真面目に化学式で描くとすごく読みづらい中、ギャグとしてバツンとすっ飛ばしちゃうというギリギリのせめぎ合い!

稲垣:もうそれしかなかったので。「この回こそやばいだろう」って思っていたのが、人気がドンッと上がって、「あ、イケたわ」と(笑)。

熊谷:僕だったら全部描くか全部ギャグにしちゃうと思うので、そのバランス感覚はすごいです。本当だったら一つの部品を作るのに1話使っちゃうところを1コマでやっちゃうというのが、漫画家さんだなぁって!

稲垣:難しい言葉を出すのが単純に怖いというのもあります。読者が離れちゃうんじゃないかという。歌詞を書いていてそういう思いとかってないのですか? 結構難しい言葉も使われていると思うんですけど。

熊谷:もちろんなくはないんですけど、僕は日本語っていうものを信じていて、みんな何年も日本語に触れて生きているわけで、文法とか単語って意識してなくても頭に入って来ているものだから、ある程度難しい言葉を使っても文脈が本当にしっかりしていればニュアンスで意味が伝わると思っているんです。

そういう意味で、聴いてくれている日本人を信じているという感じです。だから、難しい言葉を使うんですけど、決してエゴ的な使い方はしないようにしています。

稲垣:それは大事ですよね。「(難しい言葉を)知っている俺、カッコいいだろう」みたいなのが透けて見えちゃったら、もう終わりですもんね。

熊谷:それは本当にマズいやつです(笑)。平易な言葉だけで書くとちょっとつまらないから、スパイスみたいな感じでパラパラっとハバネロみたいな感じでパンチを効かすイメージですね。

稲垣:所々で出てきますよね。“霊峰”とかも普段使わない単語だし。

熊谷:実はゲームでは結構出てくるんですよ。

稲垣:そうか! なるほど!

熊谷:結局、自分が受けた感動を横流ししているというか、感動のロンダリングをしているだけ…(笑)。

稲垣:それがエンタメの基本ですよ。自分が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見て、「『楽しかった』というこの感じなんだろう?」と自分なりに咀嚼して、横にパスしていくというのが“作り”の基本なので。

逆に「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいなのを作りたい」ってなっちゃ駄目なんですよ。それは完全に劣化コピー

劣化コピークリエイトの違いって本当にそこで、「これを作りたい」「こんなのを作りたい」というのは劣化コピー

そうじゃなくて、「これを見て受けた僕の感情ってなんだろう?」と感情を表現するにはどうしたらいいだろうかというのが創作なので。(互いに)通ずるものがありますね!

熊谷:オープニングテーマもすごく書きやすかったです。漫画でもらった感動をそのままポイッと!(笑) 

アニメスタッフの方々から歌詞の直しも一つもなくて。元々、直しはあまりない方なんですけど、アニメサイドから歌詞について何にも言われないっていうのは珍しいみたいで。

■ 熊谷「原作と被り過ぎないようにしたいなと」

――稲垣先生はオープニングテーマの「Good Morning World!」を初めて聴いた時の印象はいかがでしたか?

稲垣:「カッコいい!」という印象に加えて、内容に沿っていたのがすごくうれしかったですね。(作品の内容と)全然関係ない歌詞のオープニングテーマもあるじゃないですか。「見てないだろう!」みたいな(笑)。そういうのはつらいなって思っていたんですけど、ちゃんと沿っていたので。

仮に沿ってなくても「素晴らしいですね!」とは言いますが、やっぱり内心は悲しいので(笑)。

あとは、僕がうれしかったらファンの方もうれしいはずなので、読者も「(内容と)合ってる!」って思ってくれていると思います。本当にありがとうございます。

熊谷:ありがとうございます! 僕がアニメのタイアップで曲を書く時に意識しているのは、ファンの方々に向けてというよりはアニメ制作の方々であったり、原作者の方だったりに向けて書こうと。

ファンの方々ってその(スタッフ、原作者)先にいらっしゃるんじゃないかと思っていて、漠然とした遠くにいるファンの人たちを狙うよりは、近くの人に向けた方がファンの人たちにも届くような気がしていて。

稲垣:割とそこは直結していますからね。

熊谷:だから、作り手の人たちに「良い!」って言われるのはうれしいです。

――「Good Morning World!」の中でこだわった部分は?

熊谷:こだわった部分といいますか、原作と被り過ぎないようにしたいなと思いました。

この原作に対する歌詞って “科学科学する”か“それを外す無限大の何か”のざっくり2パターンだと思って、そこは最初にどちらにするか迷いました。でも、科学をオープニングに持って来るのは固いかなと。

インテリ過ぎて暗くなっちゃう気がして、「オープニングの仕事ってそこじゃないな」と。第1話のラストで千空が「ファンタジーに科学で勝ってやんぞ」と言うのですが、科学とは正反対の部分、科学が出来る以前のファンタジーだった世界を“打倒すべきラスボス”としてのファンタジーの部分を書くのがオープニングとしての仕事なんじゃないかと思って、「まだ神々がいた時代」というふうに。

ただ、科学の部分もすっ飛ばしたくないので、そこも拠ってあげながら書いた感じです。

稲垣:カッコいいです! 壮大な感じが出ていました。(ザテレビジョン・取材・文=原田健)

終始楽しそうに対談インタビューをしてくれた稲垣理一郎と熊谷和海(写真左から)