「せっかく出られるようになったのに」そんな風に私が残念がっていたのは金曜日、この夏から、レアル・マドリーからリーガ1部チームにレンタル移籍した選手にはclausula de miedo/クラウスラ・デ・ミエードー(恐怖の契約条項/レンタル元チームとの対戦試合に出場できないよう、高額の違約金を課す条項)がなくなったと知った時のことでした。いやあ、最初は木曜にマジョルカ入りが決まった久保建英選手を始め、ウーデゴール(レアル・ソシエダ)、ボルハ・マジョラル(レバンテ)、オスカル(レガネス)、レギロン(セビージャ)、ルニン(ビジャレアル)がたとえ、試合に出ても決して、かつてのムニティス(2002年ラシン)やエトー(2004年マジョルカ)らのようにマドリーに害なすプレーはしないだろうという確信でもあるんだろうかと、不思議に思ったんですけどね。

丁度、その日、私が練習見学に行ったバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場で会ったマルカ(スポーツ紙)の顔馴染みの記者に訊いたところ、他のクラブから文句が出たためで、別に何かの法的規制がある訳ではないと言うんですが、折しもこの週末、マドリーリーガ2節はバジャドリー戦。つまり、しばらく前に噂になっていた通り、元マドリーのブラジル人FW、ロナウド会長の願いが叶い、久保選手がそちらへ行っていれば、早くもサンティアゴ・ベルナベウ・デビューとなったかもしれないんですよ。

翻ってマジョルカと対戦するのは10月20日の週末とかなり先でしかもアウェイ戦。ベルナベウ来訪は来年4月まで待たなければならないとなれば、悔しい気がしないでもありませんが、大丈夫。今季はラージョが2部に最速Uターンしてしまったため、マドリッドの1部勢は4チームに減ってしまいましたが、それでもチャンスは4度あるということ。ええ、9月22日正午には弟分ヘタフェのコリセウム・アルフォンソ・ペレスで、10月27日の週末にはそのお隣さんのレガネスのブタルケでマジョルカ戦というのはこれから、マドリッド観光旅行を予定しているファンはチェックしておくべきかと。

ただ、ジダン監督の「Espero que juegue en el Mallorca para seguir creciendo/エスペロ・ケ・フエゲ・エン・エル・マジョルカ・パラ・セギール・クレシエンドー(成長し続けるため、マジョルカでプレーしてほしい)」という願いとは裏腹に、この週末、日曜午後5時(日本時間翌午前0時)からソン・モイクスにレアル・ソシエダを迎えるビセンテ・モレノ監督はやはり、同日に入団が決まったフランス人のサイドアッタカー、サリブル(ギャンガンから移籍)と共に久保選手に関して少々、素っ気ない対応。

ええ、先週はRMカスティージャ(マドリーの2部BでプレーするBチーム)の親善2試合にフル出場し、木曜に現地に到着した当人も「Estoy preparado para debutar este domingo/エストイ・プレパラードー・パラ・デブタル・エステ・ドミンゴ(この日曜にデビューする準備はできている)」とアピールしていたものの、「Son dos jugadores más, con dos piernas y dos brazos/ソン・ドス・フガドーレス・マス、コン・ドス・ピエルナス・イ・ドス・ブラソス(2本の足と2本の腕を持った選手が2人増えた)だけ。他の選手より明日の招集リストに入る可能性は低いだろう。マジョルカに来る者はスタメンを勝ち取らないといけない」と2人が初練習を終えた後の記者会見で言っていましたからね。

といっても、開幕戦はエイバルに2-1と勝利したとはいえ、チームは7年ぶりに1部に戻ったばかり。それ程、名の知られた選手もおらず、トップ下のサルバ・セビージャもすでに35歳とあって、ヘタフェやレガネスと対戦する5節、10節辺りには久保選手も監督の信頼を得られる存在になっているのでは?ちなみにマジョルカはこのプレシーズン、アメリカツアー中にヒザの靭帯を断裂して、全治8カ月になってしまったアセンシオの古巣なんですが、彼も18歳でマドリー入団が決まった後、その年は2部のマジョルカで、翌シーズンはエスパニョールにレンタル移籍して修行しましたからねえ。当人も焦らず、マドリッドとは全然、違う地中海リゾートアイランドの生活を楽しみながら、しっかり力をつけていってくれるといいですね。

まあ、これで一件落着を見た久保選手の話はともかく、一応、土曜午後7時(日本時間翌午前2時)から、バジャドリー戦に挑むマドリーの様子も報告しておくと。いやあ、今季も練習見学できるのが試合前日のみ、開始からたったの15分というのは変わっておらず、この時間、ジダン監督のチームはロンド(輪の中に選手が入ってボールを奪うゲーム)しかやらないんですよ。それに比べると、先週から、またシーズン通常モードの同じ15分だけ公開、ただし毎日、という体制に戻ったお隣さんのアトレティコなど、まだメニューを様々な用具を使ったフィジカルやランニング、ロンド、ミニゲームなどと変えてくれるだけ、見学者のことを考えてくれている?

といっても一番大事なところが見られないのは同じですが、この日、バルデベバスのバルコニーに鈴なりになったカメラの注目を誰より浴びていたのはGKケイロル・ナバス。ええ、前日にクルトワの控えとなるのを嫌い、PSG移籍を決意したと報じられていたからですが、ジダン監督はその噂を「No veo esta plantilla sin él/ノー・ベオ・エスタ・プランティージャ・シン・エル(彼なしのチームは考えられない)。私に出たいとも言ってないし、ここにいて、プレーしたがっている」と一蹴しています。まあ、もちろんこの段階でナバスがいなくなると、土曜のバジャドリー戦でデビューするかもしれないルニンだけでなく、自身の次男のルカもラシン・サンタンデールにレンタルした結果、RMカスティージャの若干19歳、アルトゥーベに第2GKを任せざるを得なくなってしまいますからね。

さすがにそれは怖いので、大急ぎでベテランGKを探す必要が出てきますし、実際、この先、どうなるのかはいまだにバルサPSGの綱引きが続いているネイマールが棚ぼたでマドリーに転がりこんでくるかどうかと共に様子を見ないと何とも言えず。その一方で確定しているのは開幕のセルタ戦で敵のアキレス腱を蹴ったとして、退場になったモドリッチの出場停止と処分明けのカルバハルの復帰で、ツアー中に負傷したメンディも今週、ずっと練習に参加していたため、そろそろ招集されるかもしれません。中盤でモドリッチの代理を務めるのはバルベルデか、ベイル同様、放出要員が一転、頼れる戦力になったハメス・ロドリゲスといった辺りでしょうが、セルヒオ監督率いるバジャドリーも開幕でベティスに1-2と勝って、白星発進しているため、油断は禁物です。

そして兄貴分に続き、土曜午後9時からコリセウム・アルフォンソ・ペレスにアスレティックを迎えるのがヘタフェで、いやあ、何せこちらもモドリッチと同じパターンで退場したエースのホルヘ・モリーナが出られませんからね。それでもFWはマタ、アンヘルエリック・ガジェゴと生きのいい30代トリオがいるため、不足はないかと思いますが、先週、サン・マメスで圧巻のchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)を決め、バルサを下す決勝点を挙げた38歳アドゥリスには要注意。そうそう、気になったのは今週はラソ(アルメリアに移籍)、ヤニス(同ウエスカ)と戦力外の選手の放出をしていたヘタフェですが、マラガ(2部)のボランチ、エンダィアエの入団が決まりそうで決まらないこと。

というのも、そのマラガには岡崎慎司選手がいて、もうチームにはかなり馴染んでいるものの(https://bit.ly/2L7E57t)、先週末の開幕戦ではアラブ系のオーナーから選手売却の承認が下りず、結局、リーガのサラリーキャップにより、トップチームの選手登録が9人しかできないまま、開幕戦に突入。何とか、ラシンには0-1と勝ったものの、本来なら、6人しかメンバー表に書けないカンテラーノ(マラガBの選手)を9人入れたため、相手からalineracion indebida/アリネラシオン・インデビダ(不適切な選手起用)で訴えられるという顛末に。岡崎選手もそのあおりを喰らって、登録ができなかったんですが、この調子だと、土曜のラス・パルマス戦も微妙なところのよう。

もうすでに日本代表の同僚、香川真司選手や柴崎岳選手がそれぞれ、サラゴサ、デポルティーボの開幕戦で先発デビューを果たしているのを見たりすると、当人も内心、焦りを感じているかもしれませんが、何せ、今季から昇格した第3のマドリッド勢2部、フエンラブラダで7月からテスト期間を過ごしている加藤恒平選手など、続々と13人も新入団選手が到着する中、いまだに契約してもらえるか、わからないみたいですからね。それを考えれば、少しはマシかもしれませんが…とにかく選手登録が締め切られる9月2日までにはどちらもいい結末になっていると喜ばしいですね。

おっと、ヘタフェの話の途中でしたっけ。実は先週、ワンダメトロポリターノでアトレティコに1-0とここ8年間、ずっと未勝利無得点という惰性負けをした後から、「Esta temporada ha gastado más de 300 millones/エスタ・テンポラーダ・ア・ガスタードー・マス・デ・トレス・シエントス・ミジョネス(今季は3億ユーロ/約354億円以上、使った)」と兄貴分の羽振りの良さを敗戦の原因の1つとして、ボルダラス監督が挙げていたんですが、すると逆に今回の相手、アスレティックはこの夏、補強に一銭も使っていないだけに負ける訳にいかない?来週には9年ぶりとなるヨーロッパリーグ・グループリーグの抽選も控えていますしね。ファンのテンションを上げるためにも今季初勝利をゲットできればいいのですが。

え、いきなりニューリッチ階級の仲間入りしたアトレティコに関しては日曜午後7時からブタルケでミニダービーに挑むレガネスのペレグリーノ監督も何か言っていなかったかって?そうですね、金曜の記者会見では、「Joao Felix triplica nuestro presupuesto/ジョアンフェリックス・トリプリカ・ヌエストロ・プレスプエストー(ジョアンフェリックスはウチの予算の3倍する)」と1憶2600万ユーロ(約150億円)という高額移籍金について触れていましたが、いやいや、現在のモダンな練習場ができる2年前まで、「Estaba lleno de conejos/エスタバ・ジェノ・デ・コネホス(ウサギでいっぱいだった)。朝、出てみると、フンだらけで、凄い穴が沢山、開いていた」(ブスティンサ)というグラウンドでトレーニングしていたレガネスですからね。

何事も一歩一歩といったところですが、1部昇格してからのこの3年間、ブタルケでは3引き分けと兄貴分に大きい顔をさせていない彼らは今節、オサスナ戦で退場したオスカルが出場停止。おまけにその初戦には0-1で負けているため、アトレティコ戦では何とか今季、初勝ち点をゲットしたいところですが、相手もロディが出場停止となるものの、左SBは中盤の方が好きなサウールではなく、3年前、バジャドリーにレンタル移籍中、経験を積んだエルモーソが務め、守備体制に緩みはなさそう。開幕戦でオフサイドを連発していたエン・ネシリやブライトワイテのパスを受けるタイミングがもう少し、改善されると、その辺に勝機が見えそうですが、さて。

とりあえず、今のところ、アトレティコの前線は太ももを痛めたジエゴ・コスタがまだ全体練習に復帰しておらず、カリニッチとコレアは放出要員、しかも後者は昨季最終戦で退場の出場停止処分が2試合だったため、モラタとジョアンフェリックスしか、当てにできないんですが、すでに世間では確実視されるようになってきたロドリゴ(バレンシア)の移籍がまだ実現していないのはレガネスにとって、ラッキーだったかも。

うーん、これもコレアを獲りたがっているミランが移籍金4000万ユーロ(約47億円)というところ、アトレティコは5000万ユーロ(約59億円)を希望。でもミランアンドレシウバを出さないとコレアを獲れず、アトレティコもコレアを売らないとロドリゴを獲れず、そこへバレンシアロドリゴの代役にアンドレシウバを欲しがっているという三すくみ状態になっているため、私も最初にどこが動くべきなのか、わからないんですが、驚いたことに金曜には更にアトレティコが最後の補強として、U21ユーロ優勝のスペイン代表に貢献したFWダニ・オルモ(ディナモ・ザグレブ)まで狙っているという記事があったんですよ。

いえ、グリーズマン(バルサ)、リュカ(バイエルン)、ロドリ(マンチェスター・シティ)の契約破棄金額で2億4600万ユーロ(約290億円)を得ただけでなく、ジェルソン・マルティネス(モナコ)、ビエット(フラム)、メンサ(カイゼリスポル)、そしてポルトからセビージャに行ったオリベルの育成分配金などでちょこちょこ稼いだ分も4347万ユーロ(約51億円)あるというアトレティコはすでに8人も補強しながら、利益が4477万ユーロ(約53億円)出ているそうで、ロドリゴに6000万ユーロ(約71億円)を払っても、コレアとカリニッチでオルモを獲る分も稼げるという見立てみたいなんですけどね。

そんな話を聞くと、グリーズマンの高額年棒のせいで、あれやこれやで人件費を節約。サラリーキャップを越えないため、綱渡り状態だった昨季は何だったのかと思いますが、まあ、景気のいい年もあれば、そうでない年もあるのが世の常。とりあえず、日曜の兄弟ダービーではクラブの財政が豊かになった分、プレーも豊かになったところを示してもらいたいかと。とりわけ、ヘタフェ戦でも敵陣ドリブル突破で才能の煌めきをファンの目に焼き付けた、ジョアンフェリックスに期待しています。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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