全国高校野球選手権大会が8月22日、幕を閉じましたが大会期間中、明石商(兵庫県)の監督が派手なガッツポーズを繰り返し、報道やネット上で話題になりました。一般的に高校野球では、派手なガッツポーズは対戦相手に対する敬意を失した行為として好まれないと聞きます。また、最近の高校野球では、優勝が決まった瞬間にマウンド上に集まり、人さし指を立てて喜ぶことが当たり前のように行われていますが、一部では否定的な声もあります。

 高校野球における、スポーツマンシップに沿った喜びの表現とはどのようなものでしょうか。野球をはじめとするスポーツ全般に詳しく、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事も務める尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。

メジャーでも「好ましくない行為」

Q.高校野球で派手なガッツポーズが好まれないのはなぜですか。

江頭さん「野球で派手なガッツポーズをすることは、対戦相手への敬意を失する、スポーツマンシップに反する行為とされているからです。アメリカのメジャーリーグでも、ガッツポーズは好ましくない行為とされています。ただし、高校野球は日本のプロ野球に比べると、スポーツマンシップに沿って行われていると思います」

Q.明石商の監督が派手なガッツポーズを繰り返したことをどう思われますか。

江頭さん「喜びの表現として自然に出たとはいえ、スポーツマンシップに反する行為だと思います。日本では、スポーツマンシップに関して、正確に理解している人が少ないのが現実です。

試しに、身近なスポーツ関係者に『スポーツマンシップについて正確に教えてください』と質問してください。『正々堂々と戦うこと』しか答えられない可能性があります。つまり、正確に答えられる人はほとんどいないのではないでしょうか。一方、欧米には、小学生に向けたスポーツマンシップの教科書がありますし、200ページ以上の専門書がいくつもあります。

スポーツマンシップを詳しく説明すると長くなるので、あえて簡単に言うと2つあります。まずは、敗者から『また一緒にゲームがしたいです』と心から言われるゲームをすること。そして、現実社会では実行しにくい『きれいごと』であるスポーツマンシップを実行する覚悟を持つことです」

Q.では、優勝時にマウンド上で人さし指を立てる行為について、どのように思われますか。

江頭さん「行為の目的が自分たちの喜びの表現であれば、ギリギリセーフだと思いますが、やはり好ましいとは言えません。もし、対戦相手に向けて『自分たちの方が秀でている』ことを示す目的であれば、アウトです」

Q.決勝戦で負けた相手に対して、自分たちの方が秀でているという意識で行えば、敬意を失した行為ということでしょうか。

江頭さん「敬意を失した行為です。優勝したのなら、なおさら対戦相手に対してスポーツマンシップを守らなくてはなりません。スポーツは『勝利にこだわってゲームを楽しむ』ことが目的で、『勝利』自体が目的ではありません。もし、自分たちの方が秀でているという意識で喜びたいならば、対戦相手にあいさつし、ゲームが終わった後で喜ぶべきだと思います」

Q.ガッツポーズなど喜びの表現が自然と出ることもあると思います。対戦相手が不快に思わない喜びの表現とは、どのようなものがふさわしいでしょうか。

江頭さん「ゲーム中であれば、喜びの表現を対戦相手に向けて行わないことです。そして、自分の精神状態を良好にし、より良いプレーができる状態になることを目的に行うべきです。

テニスや卓球などで、得点ごとに決まった声を出すプレーヤーがいますが、それは対戦相手に背を向けて行うこともあります。また、彼らは対戦相手がミスしたとき、ガッツポーズは基本的にしません。剣道や空手道では、ガッツポーズを行うと『失格負け』となるなど、厳しいルールがあります。

先ほども少し触れましたが、スポーツマンシップを一言で言うと、敗者から『また一緒にゲームがしたいです。なぜなら、とても楽しかったから』と心から言われるゲームをすることです。そのためには、必要以上の示威行為や敗者をさげすむような発言をすること、審判に必要以上に抗議することはNGです」

オトナンサー編集部

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