神社に行くと、守り神のようにたたずむ「狛犬」に出くわすことがある。狛犬というぐらいだから、犬なのだろうと疑問も抱かずに納得しがちだが、実は神社ごとにモチーフとなる動物が異なっていたりと謎が多い。「教えて!goo」にも「狛犬は何の犬?動物がモチーフなんですか?教えて下さい」という疑問が寄せられている。そこで、狛犬研究家としても知られる音楽家であり作家のたくき よしみつさんに話を伺った。

■狛犬の起源は古代オリエント

「犬」と付いているものの、狛犬の外見は獅子のように見える。多くの神社で見受けられる狛犬のモチーフは一体何なのだろうか。

「実は犬ではなく『こまいぬ』という想像上の霊獣です。その起源は、古代オリエントにまでさかのぼります。エジプトスフィンクスは狛犬の遠い先祖ともいえます。古くから、国王が強大な力を得るために、当時の地上最強動物と信じられていた『獅子』の力を王に宿らせる『獅子座思想』という考え方がありました」(たくきさん)

さかのぼると、狛犬のモチーフは海外、それも古代オリエントにあった。さらに、日本で狛犬が浸透したいきさつを聞いた。

「諸説ありますが、平安時代に中国に遣わされた遣唐使が獅子像を見たことがきっかけだといわれています。当時、インドガンダーラを経由し、中国にも獅子座思想が浸透していました。日本に戻った遣唐使が獅子座思想を持ち込み、宮中で守護獣として『獅子、狛犬』という形式が生まれたとか。そして時は流れ、江戸時代以降に起こった奉納ブームにより、現在日本でよく目にする神社の参道にいる狛犬が生まれたという説が有力です」(たくきさん)

現在ポピュラーとされる狛犬の形が生まれるまでに、中国やインドの影響があったのだ。

■作られた時代や石工により形が異なる狛犬

狛犬といえば、やはり一対の動物が向き合っているイメージが強い。基本的な決まりなどはあるのだろうか。

「日本に獅子座思想が持ち込まれたあと、日本独特の『獅子、狛犬』という形式へと変化していきました。一対の獅子像のうち、向かって右が口を開いた阿像で本来は角なしの『獅子』、向かって左が口を閉じた吽像で本来は角がある『狛犬』です。この獅子と狛犬は別々の霊獣とされています」(たくきさん)

さらに、よく注目すると神社によって狛犬の顔つきや身体の向きが異なることもあるが……。

「神社ごとに異なるというよりは、作られた時代や地方、狛犬を作った石工の知識などによって、さまざまな狛犬が誕生したのです」(たくきさん)

その違いはあくまでデザイン上の問題であって『こうあるべき』という決まりは無いとのこと。

■狛犬ではなく猿や兎をかたどった像もある?

神社によっては、日本でよく目にする「獅子、狛犬」以外に、違う動物をモチーフにした像が置かれていることもある。

「猿や狐、猫や兎をモチーフにした像が置かれている神社もあります。そのような動物は『神使』といって、神様の使いを表しています。神社の縁起などによって、神使はさまざまです。たとえば、稲荷神社の神使は狐と決まっているため、狐の像が置かれています。狛犬は、神使ではなく『守護獣』なので、神使とは役割が異なります」(たくきさん)

狛犬とは役割が違うという神使の像だが、その場合「狛猫」や「狛狐」といった呼び方になるだろうか。

「狛犬の『狛』は、もともとは『辺境の地のわけの分からない』といった意味を持つ言葉です。そのため、神使をモチーフにした像を『狛~』などと呼ぶのは間違いで、単に『猫の像』や『兎の像』、『猿の像』などと呼びます」(たくきさん)

神社には欠かせない存在である「狛犬」には、奥深い歴史や当時の思想が込められていた。神社に立ち寄る際には、待ち受けている像のたたずまいを眺め、作られた時代の背景や土地の文化に思いをはせるのも楽しいだろう。

●専門家プロフィール:たくき よしみつ
1955年福島市出身。1991年「マリアの父親」で第4回小説すばる新人賞受賞。東京キッドブラザースのミュージカルに作曲家として参加し、ビクターより作曲家デビュー。音楽家・作家として活動するかたわら、狛犬研究家としても知られる。

教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)

狛犬研究家に聞いた!狛犬のモチーフは実は犬じゃないって本当?