―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―


 腕時計投資家の斉藤由貴生です。

 ここ数年、高級腕時計は全体的に上昇傾向となっており、特にロレックスではそのような傾向が目立っていました。特に2019年に入ってからは、現行世代に該当するモデルの上昇が目立ち、過去最高値ともいえるほどの相場となっていたモノが多数存在するほどでした。

 しかし、そんなロレックスが今、なんと値下がり傾向になっているのです。

 2016年冬以降、ロレックスは基本的に上昇傾向となっていたため、現在のように「値下がり傾向」となるのは約3年ぶりのこと。これまで目立って上昇していただけに、このような下落傾向となったのはインパクトがあることだと思います。

 ということで今回は、腕時計投資家の私が、最近の下落傾向について解説させていただこうと思います。

◆高級腕時計市場のこれまでの様子

 ロレックスの人気モデルは、2008年リーマンショック後に下落傾向となり、その後2012年頃まで安い時代が続いていました。値上がりに転じたのは、アベノミクスがきっかけだといえるのですが、実際2012年冬ごろから私は「値上がり傾向になった」と感じていました。

 それからロレックスは全体的に上昇傾向となり、2013年より2014年のほうが高く、2014年より2015年のほうが高いという状況となったのです。

 しかし、2016年には、そういった値上がり傾向に歯止めがかかってしまいました。特に夏頃からロレックスの人気モデルを中心に値下がり傾向となり、2015年よりも安い相場のモデルが目立ったのです。

 2013年から3年以上も上昇傾向となっていただけに、当時の印象としては、今後腕時計は値下がり傾向になるのではという不安を感じていた方が多かったように感じます。ピークは過ぎたという感覚になっていたのでしょう。

 その後2016年の年末になると、当時値下がり傾向となっていた腕時計相場は反発。2017年からはそれまで以上に派手な上昇傾向となり、アベノミクスをきっかけとする上昇時より、もっと値動きするようになったといえます。

 アベノミクス以降、ロレックスの多くが値上がりしましたが、その際の値動きでは、「数ヶ月で10万円以上の上昇」といったことは珍しい現象でした。しかし、2017年以降ではそういった値動きをするモデルが増え、比較的マニアックモデルですらそれに該当するようになったのです。

 2017年以降、派手な上昇傾向となっていたわけですから、それ以前の腕時計事情を知る方にとっては前代未聞の事態だと感じたかもしれません。

 まして2019年上半期には、2017年を上回るほどの上昇傾向となり、さらにすごい状況となっていたわけです。

 ですから、そういった様子の中で値下がり傾向に転じるというのは、「何が起こったのだ」と不思議な気持ちになってしまっても仕方がないといえます。

◆下落しているロレックスモデルは?

 現在の腕時計の下落傾向は、個人や業界人を問わず、腕時計ファンの間では注目度の高い話題となっているといえますが、漠然と「全体的な下落傾向」と思っているかたが多いように感じます。

 しかし、私としては今回の下落傾向は一部モデルについて起こっていると思っており、まだ全体的な下落傾向とはなっていないと感じているのです。

 その根拠としては、以下のモデルの相場を見ればわかるのですが、それらモデルの値動きはいずれも共通したグラフになっているといえるわけです。

 ロレックスサブマリーナの116610LVというモデルは、通称「緑サブ」と呼ばれるモデルで、現代における大人気モデルだといえます。正規店で購入できる可能性は低いため、数年前から中古相場でも定価を上回る状況となっているほど。そんな116610LVですが、高いと感じた過去価格よりも、さらに高くなるという値動きをここ数年繰り返しており、特に2019年にはいってからは、その上昇がさらに派手になっていたといえます。

 グラフを見ると、3月頃から急激に上昇していることがわかりますが、6月下旬頃からは下落傾向に転じ、8月現在の水準は4月時点と同程度。ピークは6月上旬だったことが分かります

 興味深いのは、現在下落傾向となっているモデルの多くが同じような相場曲線を描いている点です。

 サブマリーナ(116610LN、116610LV)、GMTマスター2(116710BLNR、116710LN)、デイトナ116500LN)、シードエラー126600)などは、ほぼ同じような山となっているわけですが、それらは、「比較的新しいモデル(現行世代)」「人気が高い」という要素が共通するといえます。

 けれどもその一方で、旧世代に該当するロレックスは、同じ「人気」という要素なモデルでも、未だ下落傾向とはなっていないのです。

 ロレックス116520は、2000年から2016年までラインナップされたデイトナで、現行当時は、人気が高いことから「腕時計の王様」と呼ばれたほどのモデル。そんな116520も2019年3月以降、目立った上昇傾向となっているわけなのですが、現行世代とは異なり、6月下旬以降も下落傾向とはなっていない様子なのです。

 実際、旧世代に該当するモデルは、パテックフィリップなどでも、現在値上がり傾向となっているモデルが複数あります。

 また、モデル全体の値動きを見ると、GMTマスター2とサブマリーナが「山」なグラフになっている一方で、デイトナは異なる動きとなっています。

 そしてロレックス全体を見てみると、やはり、上昇から下落といった「山グラフ」とはなっていないことがわかります

 以上のことから、現在下落傾向となっているのは、一部モデルに限られるといえるのです。

 知名度の高いモデルが値下がり傾向となっているため、全体的に値上がりと感じてしまうところですが、マクロな視点ではまだ下落トレンドとはなっていないと感じるわけです。

◆そもそもなぜ下落しているのか?

 最後に、一部モデルが下落した理由を考察してみます。

 腕時計市場に影響を与える要因として、よく言われるのは為替や株価の動きですが、私は今回の動きに対して、それらが与えた影響はあまりないと感じます。その理由としていえるのは、日経平均でも為替でも、上記の値下がりモデルと同様な曲線を描く相場がないからです。

 日経平均はもちろん、ドル円もユーロ円もスイスフランも香港ドルもタイバーツも見ましたが、いずれも全く異なる線となっている様子。また、それら為替や株の動きは、2019年よりも2018年のほうが高い水準となっていることが目立っているぐらいでした。

 では、下落した理由は何であるのかというと、1つだけ気になる数値がありました。

 それは、値下がり傾向のモデルの多くが、値下がりとなった時期から中古売出し数が増えているという点。ですから、供給が需要を上回ったというのが今回の値下がり傾向の理由だと私は思っています。値下がりに該当するモデルの多くが、現行世代ということからも、まさに「需要<供給」となったといえるわけで、供給量の上限が決まっている生産終了品が目立った値下がり傾向でないことからも、この理由こそがまさに腑に落ちると感じるわけです。

斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―


ロレックスサブマリーナ16610LV