第101回ザテレビョン・ドラマアカデミー賞の主演男優賞は、ドラマ24「きのう何食べた?」(テレビ東京系)で美容師のケンジこと矢吹賢二を演じた内野聖陽が受賞。ケンジの恋人である弁護士のシロさんこと筧史朗を演じた西島秀俊は2位に。内野と共に男性同士のカップルの日常を繊細かつコミカルに演じた西島が、この作品への思いを語ってくれた。

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■ 原作ファンの西島 視聴者からは「ハマり役」との声が

――第101回ドラマアカデミー賞で、「きのう何食べた?」が作品賞、主演男優賞、脚本賞、監督賞を受賞しました。高い評価の理由はどんなところにあると感じますか?

まず原作漫画が傑作だということですよね。よしながふみ先生がすばらしい原作を作り上げ、今回のドラマではその題材を若手の監督たちが新鮮な感覚で切り取った。スタッフさんたちが1カ月半の間、集中して、スケジュール通り、ひとつも取りこぼさず撮り切ってくれました。現場の空気もとても良かったです。また、視聴者の皆さんが放送スタート前から「期待しています」という声を寄せてくれたことも勇気になりましたし、オンエアされてからも「楽しんでいます」という声をいただいたことが心の支えになりました。

――ドラマ化の発表前から「シロさん役にはぜひ西島さんを」と望む声があり、放送されるとハマり役だと評判になりました。

もともと僕も原作ファンだったので、自分にできるかなという不安はありました。撮影中もプレッシャーの方が大きかったですね。史朗は自己認識とのズレがある人物というか、自分ではいろんなことをコントロールできて、周囲からは謎めいて見えると思っているのですが、実は周りの人はシロさんのことを全部分かっていて、その上で彼を優しさで包んでいる。だから、シロさんは幸せな人間ではあるけれど、他の人に比べると、分かっているようで分かっていないことがたくさんあるんですよね。その意味で、成長していく余地があるキャラクターだと思って演じていました。

――内野さんは「ケンジのほうがある意味、大人」とおっしゃっていましたが…。

本当にそうですよ。ケンジの方がこれまでの人生でいろいろなことを経験し、いろいろな真実が見えている。シロさんはケンジに対してバシバシとものを言うけれど、ケンジの方が家族のことについてもはるかに分かっていて、シロさんは実は分かっていない。でも、一見、逆じゃないですか。シロさんは弁護士でスーツ姿で、ケンジは美容師らしくラフな格好。外見では逆に見えるけれど実は…というのが本当によくできている人物造形だと思います。

■ 撮了後に交わした言葉とは!?

――内野さんは「ケンジを演じるに当たって、西島さんに助けてもらった」と語っていますが、西島さんが内野さんに助けられた点はありますか。

僕の演技は本当に内野さんに引っ張っていただいたもの。内野さんは他の作品で歴史上の有名な人物を演じるときも「実はこういう人間だったのではないか」と思わせるほど、自分のものにしていかれます。今回は、日常のささやかな喜びとか悲しみを演じることで、「この人はどれだけすごいんだ」とあらためて感じさせてくれました。その才能、すごみを僕は一番身近で感じていましたし、ひとりの視聴者としても毎回、感動していました。ですから、今回の主演男優賞を内野さんが受賞したのは、僕だけでなくドラマファンなら満場一致で納得できる結果ではないかなと感じます。

――撮影中、内野さんとはかなり親密になり、監督の裏話によると「西島さんが、内野さんの夢を見たとうれしそうに言っていた」ということですが…。

そんなこともありましたね(笑)。もう夢の内容は忘れてしまいましたけど、現場で「寝るときに内野さんのこと考えて寝ますよ」と伝えたことはあります。現場での内野さんはとにかく目の前のワンシーンに全エネルギーを投げ出すような人で、なんて言ったらいいのかな、同じ俳優として本当にこうありたいなと思うし、良い意味で“役者バカ”だなと思いました。一見なんでもないシーンでも、自分を丸ごと盛り込むような人ですよね。なにより共演していて楽しくてしょうがない。

――もし、続編が作られるとしたら、内野さんとまた共演したいですか?

ドラマの撮影が終わったとき、内野さんとは感謝の言葉を交わしましたが、「俺たちが目指しているのはもっと高いところだから、もっともっと行けると思っています」というメッセージをいただいて、その言葉が自分の中に強く刻まれています。もし、そういう機会があればぜひ一緒にやらせていただきたいですね。そして、シロさんとケンジの愛情がより深くなった関係を演じられたらいいなと思います。

■ 「内野さん以外のケンジは正直、想像がつかない」

――内野さんのインタビューで「今度は僕がシロさんを演じ、西島さんが演じるケンジを見たい」という冗談交じりのコメントもありましたが、いかがですか?

実は撮影中にも「実際の自分(内野)に近いのはシロさん」だとおっしゃっていました。内野さんがどうしてもって言うんだったらやりますけど…。いや、僕はやっぱりあのケンジに会いたい。内野さん以外のケンジは正直、想像がつかないので、それはすみません、やっぱりやめときましょう(笑)。

――西島さんが料理をする場面がたくさんありましたが、一番好きだったメニューはどれですか?

ひとつ選ぶなら、第4話から登場したクリスマスメニューのラザニア。味はもちろんですけど、3回も出てくるんですよね。ケンジがシロさんの家にやってきた日と、2人で過ごしたクリスマス、そして、小日向さん(山本耕史)とジルベール(磯村勇斗)が来て4人で過ごしたクリスマス(第11話)。そんなふうに時間の経過を1年ずつ見せ、2人の関係が変わっていったり年齢が上がっていったりするのも大きな要素になっていました。同じ料理が出てくるけれど、それぞれの考え方も変わっているし、2人の関係も変わっている。さらに周りの人との関係も変わっていることが描かれているので、一番印象が強いですね。

あと、単純に好きだったのは、第10話の自家製クレープ。撮影では、いろんなものを付けながらものすごい量を食べて、ビールを飲み、「こんな幸せな食事はないな」と思いました。撮影でたくさん料理をしたわりに腕が上がったかというと自信がないですけど、調味料の適量ぐらいは分かるようになったかな(笑)。l(ザテレビジョン・取材・文=小田慶子)

2人の温かな関係が視聴者の心をつかんだ