シュツットガルトU-14、15のGKコーチ松岡裕三郎氏に訊く、ドイツの育成事情

 “闘将”オリバー・カーンに、アーセナルなどで活躍したイェンス・レーマン。近年ではマヌエル・ノイアーバイエルン・ミュンヘン)やマルクアンドレ・テア・シュテーゲン(バルセロナ)など、ドイツではその時代を象徴するGKの名手が次々に輩出されてきた。

 同志社大を卒業後、ドイツに渡った松岡祐三郎氏は、そんな“GK大国”の名門VfBシュツットガルトの下部組織でGKコーチを務めている。今回、UEFAのB級指導者ライセンスを持つ松岡氏にインタビュードイツへ渡った経緯や、GKの育成事情について話を聞いた。

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――まずはドイツへ渡ったきっかけを教えていただけますか?

「選手としてプレーしていた時から、将来的にはGKコーチの勉強をしたいと思っていました。それも、日本でやるよりも本場でやりたかった。僕が高校生の頃はオリバー・カーンが現役で活躍していた時で、有名な選手が多かったGK大国のドイツに行きたいという思いがありました。大学卒業後の2009年9月に単身ドイツへ渡り、シュツットガルトの隣町にあるフェルバッハという7部のチームに入りました」

――ドイツでは、どのような生活をされていたのですか?

「最初はワーキングホリデーのビザで行って、その次に語学ビザ、その後にサッカーの指導者を勉強するための職業訓練のビザを取って滞在していました。初めの2年くらいはフェルバッハで選手としてプレーしながら、語学学校に通い、練習のない日に週に3回くらい日本食レストランアルバイトをする生活でした。

 その後、4年目に取るビザがなくなってしまったんですけど、どうしてもドイツに残りたかったんです。弁護士さんをつけて相談した結果、スクールを立ち上げてはどうかとなり、シュツットガルトで自分のサッカースクールスタートさせました。それでフリーランス・ビザを取ることができたんです」

――海外では、ビザの問題は避けて通れないですよね。そのスクールでは現地の子どもたちを教えていたのですか?

「いきなりドイツ人を生徒に取ろうとしてもライセンス何もない状況でしたし、チームで指導した実績もなかったので、現地の日本人子どもを教えていました。初めは生徒も4人くらいでしたけど、一番多い時には40人近くまで増えました」

ドイツ屈指の育成クラブで経験を積む

――指導者としてはまず、スクールから経験を積まれていたのですね。

はい。それから2014年VfBシュツットガルトスクールコーチになりました。シュツットガルトU-13のGKコーチが個人で経営している、GK向けのスクール(9歳~13歳対象)を2013年から手伝っていた縁もあって、そのGKコーチに紹介してもらいました。7歳から14歳の、プロを目指しているわけではなく、地域で楽しくサッカーをする子どもたちを教えていました。

 それから2017年6月にUEFA B級GKライセンスを取り、8月にシュツットガルトキッカーズ(現ドイツ4部相当)の下部組織でコーチになりました。ユルゲン・クリンスマン(元ドイツ代表FW)やギド・ブッフバルト(元ドイツ代表DF/元浦和レッズ)も所属していたドイツの古豪クラブで、昔はブンデスリーガ1部にもいました。ライセンスの講習会にキッカーズのトップチームのGKコーチが来ていて、その人が誘ってくれたんです。キッカーズでは主にU-15U-16を教えていて、時々U-17やU-19も見ていました」

――キッカーズを経て、現在はVfBシュツットガルトの下部組織で指導されています。FW岡崎慎司選手(マラガ)やDF酒井高徳選手(ヴィッセル神戸)などの日本人選手が所属していたクラブでもあり、育成で優れた選手を輩出しているイメージもあります。

「育成の面ではドイツでも非常に評価の高いクラブです。日本でいう全国大会の優勝回数は今でも国内最多で、昨季もU-19はブンデスリーガカップ戦の二冠を達成しましたし、各世代のドイツ代表もたくさんいます。僕が教えているU-15チームも昨季はリーグ戦で優勝して、さらに別の地域で優勝していたバイエルン・ミュンヘンU-15の頂点を懸けた戦いにも勝って、チャンピオンになりました。

 現役選手でいえば、FWティモ・ヴェルナー(RBライプツィヒ)やDFアントニオ・リュディガー(チェルシー)、GKベルント・レノ(アーセナル)といった選手がシュツットガルトの下部組織出身です。MFサミ・ケディラ(ユベントス)やFWマリオゴメスシュツットガルト)もそうです」

ドイツのGKのレベルは本当に高い」

――実際に現場に立って、やはりGKのレベルの高さは実感されていますか?

「基本的なレベルは本当に高いと思います。去年教えていたU-15の選手が1人、U-16代表候補にも入りましたし、ドイツのGKのレベルは本当に高いですね」

――練習方法など、“GK大国”ドイツだからこそと感じる部分はありますか?

「日本と比べて、ドイツが進んでいるのは、明確なコンセプトがあって、それに沿ったしっかりとしたカリキュラムがあるということ。僕らにはU-11からU-19までのチームがありますが、11歳から13歳までならこのトレーニング14歳から15歳になったらこのトレーニングと、段階的なトレーニングが確立されている。

 僕が教えているU-14、U-15の年代では、例えば『苦手なほうの足で35メートルの距離を正確に蹴れるようにしよう』と、かなり具体的な練習が行われます。ゴールを守るトレーニングはもちろんですが、スペースを守るトレーニングや1対1の局面でのトレーニングにも重きが置かれています。実際の試合のシチュエーションに近い、リアリティーのある練習をしていますね。現代サッカーでいうと、足下のビルドアップだったり、DFの裏のスペースを埋めるように守備範囲を広くすることが求められてくると思うんですけど、セービングの時の足の使い方の技術や1対1で最後にアタックする時のテクニックなど、ゴールを守るためのテクニックと判断の練習が最も重要です」

――日本ではGKを目指す子どもが少ないと言われているなかで、ドイツでは非常に人気のポジションだと聞いたことがあります。

「そうですね。スクールで教えていた子どもたちも、フィールドプレーヤーなのにGKグローブを持っている子がたくさんいました。それくらいGKは人気のポジションです。その理由は二つあると思っていて、一つはやはりGKのスターが多いこと。ノイアーやテア・シュテーゲンのような選手になりたいと思っている子どもが多い。もう一つはピッチの環境。日本とは違って芝生のグラウンドで、飛んでも痛くないですからね」

育成の“理想形”がテア・シュテーゲン

――ノイアーというと、ゴールを守る技術はもちろんですが、先ほども話に出たようなビルドアップや、果敢に前方へ飛び出していくプレーを得意とする“超攻撃的GK”として有名です。あの唯一無二とも言えるスタイルのGKは、育成の視点からどう見ているのでしょうか?

「他のGKコーチともよく話しますが、ノイアーは完全に別格ですね。“育成されたGK”というよりも、能力でやってきているGK。より“育成されたGK”といえるのはテア・シュテーゲンのほうだと思っています。GKの理想形はノイアーか、テア・シュテーゲンという議論になるのは当然ですが、育成の視点でいえばそれはテア・シュテーゲンですね」

――まさに“未来のテア・シュテーゲン”を育てている松岡さんの、今後の目標を聞かせてください。

「まずはシュツットガルトU-14、U-15チームと2年契約があるので、そこでしっかり結果を出すこと。今教えている子たちを一つ上のカテゴリーに持ち上げていくことですね。そして将来的には、いつかは日本に帰って、JリーグトップでもGKコーチをやれたらと思っています」

PROFILE
松岡裕三郎(まつおか・ゆうさぶろう)

1984年10月8日生まれ。鹿児島の名門・鹿児島実業高で全国高校サッカー選手権大会に2度出場。夏のインターハイでは大会優秀GKにも選ばれた。同志社大に進学し、卒業後に単身ドイツへ。独7部フェルバッハで選手としてプレーした後、指導者に転身。2017年6月にUEFA B級GKライセンスを取得。シュツットガルトキッカーズのU-15、16のGKコーチを経て、現在はドイツ2部VfBシュツットガルトU-14、15でGKコーチを務めている。(石川 遼 / Ryo Ishikawa)

シュツットガルトU-14、15のGKコーチを務める松岡裕三郎氏【写真:本人提供】