8月14日から現在でも続いている東北道・佐野サービスエリア(上り線)の前代未聞のストライキ騒動。既報の通り、その中心となっているのが、昨年5月に総務部長に着任した加藤正樹氏(45)だ。8月13日に加藤氏が運営会社「ケイセイ・フーズ」を“不当解雇”されたことで、従業員たちが一斉蜂起したのだ。

ストライキ突入前の“知られざる戦い”

 加藤氏とともにストライキをしている支配人のI氏が語る。

「社長や以前いた総支配人T氏は私たちや取引業者のみなさんを完全に下に見ていました。ですが、加藤さんは違ったのです。僕たちをプロフェッショナルとして扱ってくれました。自分から挨拶をしてくれるし、年上に対して敬語を使ってくれる。しかも彼は新しい販売戦略やメディア活用などで佐野パーキングエリアの知名度もあげてくれたんです」

 謙虚な人柄や丁寧な仕事への向き合いを見て、従業員は加藤氏を信頼するようになったという。しかし、従業員らがストライキを起こしたのには別の理由がある。ここに至るまでには”加藤氏と経営陣との戦い”があった。

 加藤氏本人が語る。

エアコンも設置されない室温40度の灼熱職場

「店舗には30~80歳代の従業員が働いていますが、多くは60歳以上の高齢者です。しかし10年前に厨房のエアコンが故障して以来、ずっと空調設備がなかった。佐野ラーメンをつくる調理場なんて、蒸気も湯気もすごくて、夏場の室温は常に40度以上。50度を超えるような場所もありました。このままでは死人が出てしまう。今までにも折に触れて私が総支配人T氏に対して要望を出してきたのですが、『従業員を甘やかせるだけだ』とエアコンが設置されることはありませんでした」

 今年6月上旬、その事情を知った加藤氏が猛暑を前に、同社社長の岸敏夫氏(61)に直接陳情を申し入れた。

「この環境では従業員が体調を崩してしまうと訴えましたが、社長は渋っていました。だから、もし会社がエアコンの導入を決断しないなら、私が自費でエアコンを買うと申し入れた。すると『会社の体面があるのでそれはダメだ』『初期費用の安い銀行のリースなら』とエアコン設置の許可がやっと出たのです。これで猛暑のなかでも仕事に集中できると、従業員一同胸を撫で下ろしました」

 しかし歓びのときは長くは続かなかった。エアコン費用の見積もりや工事の日程を詰め、今か今かとエアコン導入を待ち侘びていたなか、予期せぬ事態が起きる。

融資凍結でエアコン導入も断念

6月20日に本社で経営会議がありました。出席したのは、岸社長と当時の総支配人T氏、経理担当者と私。そこで社長本人の口から、親会社である片柳建設のメインバンクからの新規融資が凍結されることが伝えられたのです。しかもすでに決定していた7000万円の長期融資も停止されるという話でした。会社は積み立てていた定期を切り崩したり、延期できる支払いを延期するなどの対策を実施していると。『ケイセイ・フーズは経営危機である』という共通認識が出来上がりました。

『だからエアコン設置も今年は見送る』というのです。融資の停止は経営の根幹に関わります。従業員の落胆する顔が目に浮かびましたが、それも致し方ないと思いました」(同前)

 加藤氏は従業員に事情を説明し、「今年はエアコンなしで乗り切ろう」と説得した。しかし、その後に“ある事実”が判明する。

「総支配人であるT氏が、経費から約800万円の個人的な支出をしていることが発覚したのです(前記事で詳報)。しかもどれも緊急性があるとは思えないものばかりでした。それだけのお金があれば、業務用エアコンを5台以上買える。耐え続けてきた従業員も限界でした」(前出・支配人)

 その上、T氏は日常的に従業員に対してパワハラを繰り返していた。「週刊文春デジタル」は、T氏が従業員を恫喝する音声データを入手した。

 収められているのは、T氏と女性従業員による2019年6月30日のやりとりだ。

パワハラ暴言「オレはここで一番偉い総支配人だろ?」

《お客さんずっと並んでる。〇〇(従業員の名前)が来て、普通、お待たせしましたでしょ。現金でいいですか? アホかっちゅうの! お客さん怒るよ、あれじゃ。オマエなにやってるの! 裏に何人も何人もいて。しっかりせーや、オマエ! 客舐めんのもたいがいにしろ、オマエ! 何がマネージャーだ、何考えてんだよ》

《おめーら、しっかりしてねーからだボケ! ボコッ(何かを叩く音)》

《腹立ってしょうがないわ。……クビにしようかな》

 この1カ月前にも、T氏は他の従業員を強い口調で叱責していた。加藤氏は被害にあった従業員からパワハラの詳細を聞き取っている。

「従業員がT氏に対して『Tさん』と呼びかけたところ、T氏は『おい〇〇(※従業員の名前)! わかってねーじゃねーか、コラ! オレはTさんじゃない。T総支配人だろ! なんでオマエごときに名前で呼ばれなきゃいけないんだ! オレはここで一番偉い総支配人だろ? わかってんのか!? オマエらはどうせいくところなんか無いんだから、立場をわきまえろ! 潰すぞコラ!』と罵声を浴びせたというのです」(加藤氏)

 7月11日、加藤氏はパワハラと納得のいかない経費の支出を理由に総支配人T氏の退任を求め、マネジャークラス以上約20人の署名を集めた。そして翌日、T氏に退任を迫った。

「『これが従業員の総意です』と言って、署名を見せました。そこにはT氏が可愛がっていた部下の名前もあり、T氏はとても信じられないといった表情でした」(加藤氏)

 T氏は翌日には退職を決意したという。

「しかし、すぐに社長からT氏の退職要求を撤回するように、と申し入れがあったのです。社長はT氏を可愛がっていましたから。ただ、それを飲むわけにはいきません。ケイセイ・フーズ労働組合初の大会を開き、T氏の退職とエアコン設置を再度要求するため、『非人道的かつ劣悪な労働環境の改善要求』を申し入れました。

 T氏は自身のパワハラはあくまで従業員への“教育”で、自分は従業員から認められていると思っていたようです」(同前)

 ケイセイ・フーズが8月18日に報道各社へ送ったストライキに対する見解を記した文書には、「弊社の従業員は、本年7月、『ケイセイ・フーズ労働組合』を結成し(但し、労働組合は弊社に対して労働組合通知書等を送付してきておりません)、同月16日、弊社に対して労働組合結成通知》」とある。

T氏が立ち上げた労組に救われた

「会社側は、7月に私たちが勝手に組合を作ったと主張していますが、そもそもは今年1月に元総支配人T氏が立ち上げたものです。T氏は『社長と対等になるために権力を増したかった』と言っていて、活動することはありませんでしたが、結果としてこの労働組合に救われました。

 従業員の中にはエアコンの設置はもう無理だという空気がありましたが、ここで諦めてはいけない。要望書には要求が通らなければ、7月下旬にストライキに突入するとも明記しました。7月20日に要求書を提出して、ようやくエアコン導入を勝ち取ったのです」(加藤氏)

 その後、すぐにエアコン導入への調整が再開し、8月5日までフードコートの軽食に2台、厨房に3台のエアコンの設置が完了した。

エアコンは入ったけれど……

「いつも開いていた窓が締め切られ、40度以上あった室温は30度にまで下がった。もうこれで夏が来るのを怖がらなくて済みます。従業員たちみんなが喜び合っていましたよ。私も本当に嬉しかった」(同前)

 従業員らは自分たちのことを案じて経営陣と戦う加藤氏の姿に感銘を受けた。しかしこの直後に加藤氏が不当解雇される。そうして着任1年の加藤氏を中心にして、彼らは真夏のストライキへと突入していったのだ。

(「週刊文春」編集部)

閑散とするストライキ中の佐野SA ©文藝春秋