電通の子会社でデジタルマーケティングを手掛ける電通デジタルがAI(人工知能)技術を用いてバナー広告を自動生成するシステムの運用を開始した(図1)。豊富なバリエーションのバナー広告を、短時間で大量に生成できる。将来的には、消費者の関心や嗜好に合わせて一人ひとりに異なる広告を提供することを目指している。

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 電通デジタルが運用を始めたシステムの名称は「ADVANCED CREATIVE MAKER」。インターネットメディアなどに掲載するバナー広告を5秒に1枚のスピードで量産する。人手だと、1枚のバナー広告を作るのに早い人でも1時間程度はかかるという。ADVANCED CREATIVE MAKERによって、バナー広告の作成能力が720倍以上に高まる計算だ。

 電通デジタル、AI開発のデータアーティスト、電通の3社は2018年5月にベータ版を開発した後、広告効果の予測精度の向上を続けたほか、アートディレクターなどの専門家の“感覚”を実装するなどの機能拡充を行った。そして自動生成したバナー広告を実際にインターネットメディアに出稿し、従来と同様人手で作った複数のバナー広告とでクリック率(CTRClick Through Rate)を比較する作業を繰り返し実施した。その結果、自動生成したバナー広告のクリック率が常に1位から3位にランクインすることを確認し、正式運用に踏み切った。

 消費者の嗜好の多様化が進み、パーソナライズされた広告のニーズが従来に増して高まっている。一方で最近はさまざまな情報があふれていることもあり、バナー広告の効果の持続期間が以前に比べて極端に短くなりつつある。例えば、ソーシャルメディアに掲載する広告は3日程度しか効果を保てないケースもあるという。

「バリエーションと鮮度が求められる広告を人手で作り続けるには限界がある。人手の作業を分割し、適用可能なところから段階的にAIを取り込み、人とAIが協業する体制を整えていかなければ対処しきれない。そんな時代がみえてきた」。電通デジタルアドバンストクリエーティブセンター データ&ダイレクトクリエーティブ事業部の和泉興氏は、広告自動生成システムを導入した意図をこう説明する(写真1)。

複数のAIを組み合わせて自動生成し、それを絞り込む

 ADVANCED CREATIVE MAKERの最大の特徴は、バナー広告レイアウトを考えるもの、キャッチコピーを考案するもの、クリック率を予測するもの、バナー広告の良し悪しを判定するものなど複数のAIを組み合わせている点である。

 まず、人手で業種やキーワードを入力して商品やロゴの画像を登録する(オリエン入力)と、レイアウト推奨AIが、過去に配信したバナー広告の傾向を基にレイアウトや色使いなどの候補を提示する。同時に、コピーライティングAIが複数のキャッチコピー候補を作成する(バナー要素のリコメンド)。そのなかから広告作成の担当者がいくつかの案を選ぶと、システムがレイアウトキャッチコピーを組み合わせた1000パターン以上のバナー広告を自動生成する(図2)。

 続いて、幅広い業種の広告デザインや効果を学習したAIが、自動生成したバナー広告のクリック率(CTR)を予測する。さらに、アートディレクターやデザイナーの視点を習得したAIが、それぞれのバナー広告の良し悪しを判定する。その両面を踏まえて候補を20案程度に絞り込んで、仕上がりイメージを一覧表示する(前掲の図1)。最終的にその中から使用するものを複数選び、人手で細部を調整して完成させる。

 ADVANCED CREATIVE MAKERの用途は、出稿を前提にしたバナー広告の自動生成にとどまらない。どういった内容の広告にするかを検討する際の最初のたたき台として、いくつかの具体的なアイデアを提示させるといった使い道もある。「まったくの白紙状態から検討するのと、ある程度の方向性を参考にしながら作業を進めるのとでは仕事の負担が大きく違う。議論も進めやすくなる」(和泉氏)。

人が思いつかないようなレイアウトの考案も目指す

 電通デジタルはADVANCED CREATIVE MAKERの機能拡充を続けていく計画だ。一例が、過去のバナー広告のデザインにとらわれず、柔軟な発想レイアウトを提案する機能である。

 現行のシステムは、あらかじめ覚えこませた膨大なレイアウトパターンのなかから、業種やキーワードに適したものを複数提案するという方式をとっている。新機能では既存のものを真似るのではなく、「人が思いもつかないような斬新なレイアウトを考え出し、より高い効果が期待できる広告を提案できるようにしたい」と同社広告事業ストラテジー部門ソリューション戦略部の今井優作氏は話す(写真2)。

 顧客の生涯価値(ライフタイムバリュー、LTV)を予測するAIと、ADVANCED CREATIVE MAKERとの連携も視野に入れている。企業が扱う商品やサービスに応じて消費者のLTVを予測するAIは開発済みで、すでにECサイトを運営する企業などで実績をあげている。最初に、このAIによるLTVの予測値に基づき、今後長期にわたって商品やサービスを購入するようになりそうな「潜在的な優良顧客」を探す。そのうえで、見つけ出した顧客を対象に、ADVANCED CREATIVE MAKERで効果的な広告を自動生成するといったイメージである。

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