「経済のトランプ」に赤信号
減税ラッシュで応急措置
ドナルド・トランプ米大統領は、景気支援に向けた給与税減税の検討を始める一方、キャピタルゲイン税*1の税率引き上げを断行する構えを見せている。
*1=株式・不動産など資産売却の際に所得価格をインフレ調整し、物価による値上がりの分は税金が控除される。ジョージ・W・ブッシュ第43代大統領が2003年の税改正で実施、2010年までの時限措置として法案が成立した。その恩恵は富裕層に限られたほか、財政赤字拡大につながった。
米中貿易戦争*2のあおりを受けて米景気後退懸念が強まる中で、このままではトランプ政権が大見えを切ってきた「経済のトランプ」が暗転する可能性すら出てきたからだ。
*2=中国指導部は、8月上旬の北戴河会議を経て、対米通商交渉では米側には安易に譲歩せず、関税措置などに伴う外需の落ち込みに対しては内需拡大でカバーする姿勢を鮮明にしている。米国の対中強硬姿勢が続く限り、早期通商合意の可能性は低い。
トランプ大統領は、対中関税措置や利下げを渋る米連邦準備制度理事会(FRB)に対する圧力に加えて一連の減税措置策で景気のエンジンをふかそうという魂胆だ。
さらには奇抜なグリーンランド購入計画など・・・。すべて白人保守票をつなぎ留め、再選を確実なものにするためだ。
トランプ大統領がなぜこれほど焦りの色を見せているのか――。世論調査の結果が芳しくないからだ。
米政治専門メディア「ポリティコ」の最新世論調査では、トランプ氏は民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領に42%対35%でリードされている。またバーニー・サンダース上院議員にも40%対35%で差をつけられている。
(https://www.politico.com/story/2019/08/21/joe-biden-bernie-sanders-beat-trump-poll-1470372)
8月中旬の保守系フォックス・ニューズ世論調査では、トランプ氏の牙城ともされてきた白人高卒未満層の支持率でも同氏とバイデン氏との差は1ポイントまで縮まっている。
2016年大統領選の時には白人高卒未満層支持率ではヒラリー・クリントン候補(元国務長官)を37ポイントも引き離していたのとは雲泥の差だ。
政権内のディープ・ステートを実名で告発
そうした中で「時の氏神」が現れた。
厳しい政権運営を続けるトランプ大統領を必死になって支え、巨額の資金を使って側面支援しているメディア・グループの存在だ。
中国政府からは非合法活動団体として追放されている気功修練法の「法輪功」系メディアだ。
NBCテレビが20日、調査報道の結果を踏まえて、その全貌を暴露した。
取材のきっかけはさる2月以降、フェイスブックに掲載される「エポック・タイムズ」(大紀元)の政治広告が急増していることだった。
「エポック・タイムズ」がこの6か月間でフェイスブックに掲載した政治広告件数は1万1000件。広告費はなんと150万ドルに上っている。
内容は、トランプ大統領の仕事ぶりを称賛する一方でトランプ批判を続ける主要メディアをフェイク・ニュースと一喝、また政権内部にいる「ディープ・ステート」(反トランプ勢力)を糾弾している。
「エポック・タイムズ」本紙には、トランプ大統領のロシアゲート疑惑を巡る政権内の漏洩犯の名前を列挙し、写真入りで報道している。
傘下にデジタル・ビデオや神韻芸術団も
「エポック・タイムズ」は2000年、ジョン・タン氏と気功修錬法団体「法論功」関係者がニューヨークに設立した華僑向けの日刊紙だ。
その後米仏独ロ語など21か国語、35か国で発行されている(日本語は週2回、韓国では週刊)発行総部数は130万部(2012年)。
米国内では主要都市近郊の中国系スーパーで販売されているほか、主要スーパーには「エポック・タイムズ」専用の自動スタンドが設置されている。
「法論功」は中国では邪教と定められ、実践者たちは投獄されてきた。現在その数は数十万から数百万とされている。約4000人が収容中に虐待や拷問で死亡しているともいう。
親会社の「エポック・メディア・グループ」傘下の「ニュー・タン・ダイナスティ」(NTD)のデジタル・ビデオはフェイスブック、ユーチューブ、ツィッター経由で30億のPVがある。
傘下には「神韻芸術団」(Shen Yun Performing Arts)があり、一年中、北米、欧州、アジアの130都市のどこかで公演を行っている。
約500人からなる芸術団員の華麗な乱舞やアクロバティックな演技は米国内でも話題になっている。
「法輪功」がなぜこれほどトランプ大統領に肩入れしているのか。再選に向けてトランプ陣営外では最大の「応援団」になっているのか――。
NBCの調査報道チームは「エポック・タイムズ」や「法輪功」の編集者や関係者に接触を試みた。
ところが取材した関係者たちは核心を突く質問(なぜトランプ氏をこれほど熱心に支援するのか、などの)には一切答えようとしていない。
2005年に豪州版創刊にかかわったという「エポック・タイムズ」の元編集者、ベン・ハーリー氏は、かってこう書いている。
「新聞は法輪功を伝道する巨大なPRキャンペーン機関だ。法輪功を弾圧する勢力には必ず天からの罰が下る、その最たる存在である中国共産党は絶滅すると信じて疑わない」
「私は2013年に法輪功を脱退したが、その頃から法輪寺は現実の政治について強硬なスタンスを取り始めていた。例えば人工中絶や同性愛を完全否定した」
「だが一番の標的は共産主義。ヒラリー・クリントン元国務長官や俳優のジャッキー・チャン、コフィ・アナン元国連事務総長らは魂を中国政府に売り払った人物として徹底的に批判している」
トランプ政権崩壊を狙う「スパイゲート」
新著『共同謀議の群れ』
「エポック・タイムズ」が最近特に力を入れているのはバラク・オバマ前大統領やクリントン元国務長官、その側近たちの共謀容疑の解明だ。
同紙によれば、オバマ氏やクリントン氏らはトランプ氏を大統領の座から引きずり降ろそうと画策し、迷路のような入り組んだグローバルな共同謀議を繰り広げているというのだ。
「スパイゲート」という名称はこのところ親トランプ系メディア「ブライトバード」やフォックス・ニュースのアンカーマン、ショーン・ハニティ氏がしきりと使い始めている。
「スパイゲート」と言えば、最近共和党強硬派の知人の一人から紹介された本がある。
『Ball of Collusion: The Plot to Rig an Election and Destroy a Presidency 』(共同謀議の群れ:不正選挙を操り、大統領を貶めようとする陰謀)
著者は、元連邦検察官のアンドリュー・マッカーシー氏。フォックス・ニュースのコメンテイターを務めたり、保守系雑誌に寄稿している保守派の論客だ。
同氏は本書でこう指摘している。
「ロバート・モラー特別検察官が年間にわたって行ったロシアゲート疑惑を巡る捜査ではトランプ大統領の潔白が証明された」
「その一方で、モラー特別検察官の捜査の過程で法の網をくぐって逃げた白鯨がいた。米民主主義を傷つける大がかりな共同謀議があったことを示す証拠だ」
「それはオバマ政権の高官たちの共同謀議だ。その中にはホワイトハウス、司法、国務両省、連邦捜査局(FBI)、中央情報局(CIA)の高官たちがぞろぞろいる」
「トランプ氏のロシアゲート疑惑が取り沙汰されるように仕向けていたのはオバマ氏自身だ。オバマ氏は、2016年の大統領選でトランプ氏が勝つことはまずないと見ていた」
「だがトランプ氏が万一当選したら、どうするか。それを想定して対策を練っていたのが、オバマ大統領の側近、スーザン・ライス大統領首席補佐官(当時)とジョン・ブレナンCIA長官(同)だった」
トランプ再選が不確かになってきた現状で保守派の動きが慌ただしくなっている。
「エポック・タイムズ」の「スパイゲート」もマッカーシー氏の新著も地下水脈ではつながっているのかもしれない。
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