(三矢 正浩:博報堂生活総合研究所・上席研究員)

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 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化をみつめ、さまざまな研究活動を行っています。

 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。

話題の消費サービス、浸透状況は?

 夏休みシーズンもそろそろ終わりを迎えつつあります。この時期、多くの親たちを悩ませるのが子どもの自由研究。筆者の立ち寄った書店では店頭近くに「自由研究コーナー」が設けられ、参考書籍や実験キットなどを手に取りながらあれこれ思案する人たちの姿が。

 加えて近年では、フリマアプリなどを使った個人間取引でも自由研究用の材料として、ちょっと意外なものが売り買いされていると話題となりました。ためしにフリマアプリを起動して「自由研究」と検索をかけてみると、図工用の素材という名目で、トイレットペーパーの芯やペットボトルキャップ、貝殻、古新聞などなど・・・さまざまな「商品」の写真が出てきます。自由研究ひとつとっても、自分が子どもの頃には考えられなかった消費のかたちが実現していることを改めて実感させられます。

 また上述の個人間取引のみならず、シェアやサブスクリプション(以下、サブスク)など、新しいタイプの消費サービスが次々に登場しています。これにより、商品は新品のみならず中古や新古品を買えたり、買う相手も店舗だけでなく個人からだったり、さらには商品を買わなくとも借りて使えるようになったり・・・消費をめぐる選択肢のバリエーションは実に豊富になりました。

 この変化の背景には、インターネットの発達とスマートフォンの浸透があることは言うまでもありません。先月のコラムでもお伝えしたように、生活総研が実施した「消費1万人調査」によれば、「平成の消費観・消費行動に影響を与えたもの」の1位には「携帯電話・スマートフォン」が挙げられていました。

 平成のみならず、令和に入っても勢いを感じるこれらの新しい消費サービスですが、実際のところ、どのくらい生活者に浸透しているのでしょうか? 

「消費1万人調査」では買い物・消費に関する行動や価値観について、全国15~69歳の男女1万人に聴取しています。性年代・エリアの区分を国勢調査に基づいた人口構成にしているため、ちょうど日本の縮図のような形で調査結果を確認できます。

 こちらの調査結果をもとに、新しい消費サービスのうち、個人間取引とサブスクについて状況をみてみます。既にかなりの割合にまで生活者に浸透しているのか、それともまだまだ黎明期といった感じなのでしょうか。

若年層はフリマアプリ、中高年男性はネットオークション

 まずは個人間取引について。フリマアプリとネットオークションとそれぞれのサービスを、さらに購入側と出品・販売側とに分けて利用状況をみてみます。「現在、頻繁に利用している」「現在、たまに利用している」との回答の合計値でみると、以下のような結果となりました。

フリマアプリ(購入側):22.2%
フリマアプリ(出品・販売側):18.2%
ネットオークション(購入側):22.4%
ネットオークション(出品・販売側):11.0%
 

 フリマアプリもネットオークションも購入側での利用は2割強、出品・販売側での利用は1割台となりました。ネットオークションでは若干、販売利用と出品利用とで数値に差がついており、購入オンリーの利用者も多そうです。

 ちなみに、同様の質問形式で通常のインターネットショッピングについても利用状況をきいていますが、そちらは全体で90.9%という非常に大きなスコアとなっています。それに比べれば、購入側で2割強の利用という数字は決して大きくはありませんが、サービスの導入時期を考えれば「既に2割」という見方もできるのかもしれません。

 さらに、性年代別に結果をみると、両サービスの傾向の違いがみえてきました。フリマアプリは10~20代男性と10~30代女性の、ネットオークションは30~50代男性の利用が比較的多いようです。それぞれのサービスで“客層”は微妙に分かれているようです。

 また参考までに、フリマアプリと、かねてから中古品売買を担う存在であったリサイクルショップの利用状況を比較してみます。

リサイクルショップ(購入側):28.7%
リサイクルショップ(販売側):18.5%

 全体では購入側も販売側もフリマアプリのスコアを上回り、10~60代まで満遍なく利用されているリサイクルショップ。しかし、こと10~20代に関しては、購入側でも販売側でも、フリマアプリのほうがリサイクルショップより利用されているという結果になりました。

 スマホを使った売買への慣れもあるのでしょうが、例えば若年層では、不要品をまとめてクルマに積みこんでリサイクルショップへ、という行動が取りにくいなど、生活スタイルの違いも影響しているように思われます。

 フリマアプリなどの個人間取引、リサイクルショップなどの店舗での取引、それぞれ形態は違いますが、さまざまな性年代ごとに相性の良い中古品売買の場が見出され、利用が伸びていけば、買って、使って、いらなくなったら捨てて・・・という従来の一般的な消費の在り方も、だいぶ様変わりしていくのかもしれません。

サブスクリプション、普及はまだまだ先?

 では次に、サブスクの利用状況はどうでしょうか。

 話題になりだした当初は、毎月定額を支払っての音楽聴き放題や動画見放題など、情報コンテンツのサブスクが先行していました。それが最近では、衣料品やバッグ、時計、宝飾品、家具、住居、自動車、外食、美容に至るまで、ものの領域などにも一気にサービスが広がってきています。

 消費は「所有から使用へ」というフレーズもよく聞かれるようになり、勢いを感じさせるサブスクですが、「消費1万人調査」の結果をみてみますと・・・

サブスクリプション(音楽・動画など):13.8%
サブスクリプション(ものなど):1.1%
 

 音楽・動画などのサブスクは1割強に達していますが、ものなどのサブスクは1%ほど。さすがに「まだまだこれから」といった印象で、やや情報の盛り上がりが先行している感もあります。

 性年代別でみると、音楽・動画などのサブスクは10~20代で利用が2割程度に達しています。前述のフリマアプリ同様に若年層中心に利用が進んでいるようですが、こちらは比較的男性の利用が多いのが特徴です。

 もののサブスクに関しては、「きちんと所有して使いたい」という従来からの考え方や、「買うより結局割高なのでは?」という認識から、まだ距離を感じている人も多いかと思われます。

 ただ、実際にサブスクを複数利用し、衣類や家具などを使っている20代女性に話をきくと、

「サブスクの衣類は使った後、洗濯せずに返却ができる。余計な家事に時間を取られずに済むのは便利」
「何回か仕事が変わり、引越しをしたりもするので、家の状況に応じて家具や家財を変えられるサブスクのほうが自分にとっては合理的」

と、そんな言葉が返ってきました。

 また、同じく衣類のサブスクを利用しているという40代女性も、

「転職すると職場に適した服装のトーン&マナーもがらっと変わってしまうので、買わずに借りたほうがいい」
「買って自分のものにしないぶん、思い切った服にもチャレンジでき、幅が広がった」

と話してくれました。

 2人の言葉にもあるように、転職などで自分の状況がどんどん変わっていくことを前提とするならば、特定のものを買うと決めずに、サブスクなどで柔軟に対応していく消費は、確かに合理的であり、気持ち的にも身軽なのかもしれません。

 昭和、平成、令和と時代を経るにつれ、働き方や家族のあり方をはじめとして、生き方の選択肢が多様になり、何が正解なのか、そもそも正解の形があるのかすらも分かりにくくなっています。そんな状況を踏まえれば、自分の人生に柔軟性や可変度の高さを求め、「生活のあらゆるものを極力サブスクに」と考える人たちが増える可能性もありそうです。

 もののサブスクの利用状況が、1%という現状から今後どこまで広がりをみせるのか、興味深いところです。

【参考情報】
○「消費1万人調査」調査概要
 調査地域:全国
 調査対象:15~69歳の男女
 調査人数:10,000人(国勢調査に基づき、性年代・エリアの人口構成比で割付)
 調査手法:インターネット調査
 調査期間:2019年5月28日6月1日
○「消費1万人調査」調査結果第一弾「平成の消費観・消費行動に影響を与えたもの」編ニュースリリース
https://seikatsusoken.jp/report/13881/
○「消費1万人調査」調査結果第二弾「サービス利用実態・意向」編ニュースリリース
https://seikatsusoken.jp/report/13921/

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