現在韓国では反日デモはいつの間にか反安倍デモにすり替えられている。

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 土曜日ごとに開かれる光化門の反安倍デモに参加する人たちに話を聞くと、彼らからは紋切り型の答えが返ってくる。

「自分たちは日本という国が嫌いだとか、日本人が嫌いなわけではない。『反安倍』つまり、一度も謝罪せず反省をしないばかりか、韓国に経済戦争をけしかけてくる安倍に対して反対運動をしているのだ」

 たまに、日本人を見かけると「消えろ、うせろ」と罵倒する人もいたが、それはほんの一握りで、あたかも自分たちは常識人であることを誇示するかのように、落ち着いてデモの趣旨を語る。

 反安倍デモを見ていると、参加者はカップルや親子連れ、労組団体など様々で、デモ自体はフェス形式なので(韓国では『ロウソク文化祭』という)、みな楽しそうにしている。

 歌手が出てきて歌うので聞いていると、「売国奴18人」という題で内容は彼らの考える売国奴に関する内容だったり、歌を歌いましょうというので聞いていると「ノーアベソング」だったりと、日本人なら苦笑いしそうな内容である。

 筆者は朴槿恵大統領を弾劾させようとしたロウソク集会に参加したことがある。その時の参加者数に比べれば今回はずっと少ない。

 実は反安倍デモのちょうど隣で、韓国旗と星条旗、そしてイスラエルの国旗を掲げた右派の集会の方により多くの人が集まっていた。しかし、それはあまり報道されていない。

 さて現在、韓国のニュースで一番取沙汰されているのは、反日でもノーアベでもなく、チョ・グク法務部長官候補家族の不正である。

 チョ・グク氏はソウル大学で法学部学士、修士、博士号を取得。その後、米カリフォルニアバークレー校のロースクールを卒業。社会主義労働者同盟を助けた容疑で半年間刑務所に入れられた経緯をもつ。

 現在はソウル大学法学専門大学院教授、共に民主党革新委員、国家人権委員を歴任している。

 また、前民情首席秘書官にして現ソウル大学ロースクールの教授である。

 民情首席秘書官として勤務している間もソウル大学の教授の座はしっかりキープし、ちょうど夏休みに入ったのを機に民情首席秘書官を辞めてソウル大学に戻った。

 ところが、間もなく9月からは新学期が始まるというのに、早くも今度は法務部長官(日本の法務大臣に当たる)を狙っている。

 法務部長官になる前に国会で聴聞会が開かれるのだが、それを前にして彼の家族に関する良からぬニュースが流れている。

 彼の家族は学校法人を運営していて、それを建てる建設会社も所有している。

 それらにいろいろな不正があり、さらに彼の父親(学校法人を作り、建設会社を持っていた人)が亡くなるときに残した金額がわずか21ウォン(約1.8円)だというのである。

 ユーチューブでもそれに関していろいろなニュースが流れている。こうした不正があったとする報道に対し、彼は「それらはすべて合法だった」と強弁している。

 また、お金の話だけでなく、彼の子供たちに関するニュースもある。

 彼の娘は、高校の時に2週間だけインターンをした研究所で出された病理学論文の第1著者として名を連ね、それが医療雑誌に載った。

 さらに、高校3年の時には、1か月ほどの夏休み期間中、公州大学生命工学研究所で3週間のインターンシップをして、7月には紅藻植物遺伝子分析関連国際鳥類学会の発表抄録に第3発表者として登録されている。

 8月には東京で開かれた学会で発表内容に関する質問に答える補助発表も担当したという。

 また、韓国物理学会女性委員会が淑明女子大学で開いた「女子高生物理キャンプ」にも参加し、奨励賞を取得した。

 しかし、この物理キャンプと日本の国際学会の発表期間が重なっている(8月2~8日)。高校生にして神業のような身のこなしである。

 とにかく、チョグク氏の娘はそういった功績をもって高麗大学に推薦入学する。

 それだけではない。その後、ソウル環境大学院に入ったものの勉強もせず除籍になるが、その間の奨学金が支払われた。

 次に釜山国立大学医学専門大学院へ進学。しかし単位が取れず2年間留年。

「あれ、高校の時は病理学で論文を書き、それも2週間で、鳥類学会で論文発表する傍ら、物理でも賞をもらった才媛だよね。なぜ、大学院へ進学してから病理学とかで赤点を取ってるの」となるわけである。

 韓国は大学受験に大変熱心な国であること周知のとおりである。前政権が崩壊した根本的な問題も、朴槿恵大統領の政策というより彼女の友達の娘が梨花女子大学に不正入学したということからであった。

 受験に熱心な分、韓国人は教育において不正に我慢できない人たちである。日頃、清廉潔白を謳っている人の娘が、裏ではいろいろな不正入学工作をしていたとなれば、黙って見過ごすわけにはいかない。

 これまでチョ・グク氏の言動を見ると、言行不一致なところが多い。

「学生を勉強の機械にする現教育体制を変えるために、勉強に割く時間を制度的に減らすべき」と発言、外国語高校などをなくす政策に賛成していたことがある。

 ところが、彼の娘が外国語専門高校(外国語に特化した進学校で、ここを卒業するためには最低3か国語の資格試験合格が必要)を経て理工系の大学に進学させたことがばれてしまった。

 その時に、「私の信念と子供の幸福が衝突する時、結局子供のために譲ることになる」と言い放った。

 また、大学教授だった頃、SNSでポリフェッサー(学校と政界を行き交う教授)に対して非難を浴びせていたのに、自分が非難される番になると、「自分はアンガージュマンである」と答えた。

「アンガージュマンって何?」と思って調べてみると、「Engagement」は、フランス実存主義の用語で、状況に自らかかわることにより、歴史を意味づける自由な主体として生きることで、サルトルやカミュなどではさらに政治的・社会的参加、態度決定の意味を持つ。

 これを韓国では「ネロナンブル」という。「自分がやればロマンス(つまり恋愛)で、他人がやると不倫」ということ。「人に厳しく自分に甘い」を地でいく人なのだ。

「小川から龍が生まれる」という韓国の諺がある。日本の「トンビが鷹を生む」という意味で、韓国では「貧乏な親元に生まれても持っている才能が素晴らしければ出世することができる」ことの例えとして使われる。

 格差が広がるこんな世の中でも、才能さえあれば出世できたり富を得ることができたりするというのは、青年たちに夢と希望を抱かせるため、好んで使われる。

 しかし、彼は以前ツイッターでこんなことを言った。

「我々は『小川から龍が生まれる』類の逸話が好きだ。しかし、貧富の格差は広がり、10対90社会となり、小川から龍が生まれる確率はずっと減った」

「みんなが龍にはなれず、またそんな必要もない。もっと重要なのは龍となって雲の上の人にならなくても小川でフナ、蛙、ザリガニとして生きても幸せな世の中を作ることだ」

空を見上げて傷つけ合う競争はせずきれいで暖かい小川を作るのに力を入れよう」

 人には「頑張って龍になる必要はない。お前らは小川でフナ、蛙、ザリガニとして黙って生きてればいいのだ」と言い、自分の子供たちには手を尽くして龍(エリート)に仕立てようとしていたことが公になったのだ。

 とにかく、韓国では8月22日まで毎日のようにチョ・グク法務大臣候補に関する良からぬ噂、ニュースが飛び交っていた。

 ところが、22日の夕方、韓国政府は日本とのGSOMIA破棄を発表したことで、見事なまでにニュースはGSOMIA破棄一色になってしまった。すぐに韓国通貨ウォンは下がり、ドル高に転じた。

 これをみて、チョ・グク疑惑から国民目をそらすための政策なのかという疑心暗鬼の人たちもいる。

 やや穿った見方とはいえ、実際に国民の目はそらされているわけである。言い忘れていたが、反安倍デモの時の掛け声では、「安倍は謝罪せよ」、「親日を清算せよ」と一緒に「GSOMIA破棄せよ」も含まれていた。

 結局、反安倍デモが起きた時から、GSOMIA破棄は想定内だったわけで、それ自体に新鮮味はない。

 文在寅政権内の不正に国民の目が集まるのを避けたいという思いが、米国の反対を押し切ってまでGSOMIA破棄を決めた背景の一つとしてはありそうだ。

 だとすれば、政権内で不正が発覚する際に、次はサード配備撤収、反米へとつながるのか・・・。韓国はあまり予想したくない方向へと向かっている。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  韓国国民の怒りの矛先、日本よりもチョ・グク疑惑へ

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