映画「ボヘミアン・ラプソディ」を完成に導いたデクスター・フレッチャー監督が先日、エルトン・ジョンさんの半生を描いた映画「ロケットマン」のPRのために来日しました。

 同作は、ロンドン郊外に生まれ、両親の愛を得られずに育ったものの音楽の才能に恵まれていたレジナルド・ドワイト(タロン・エジャートンさん)は、ミュージシャンを目指します。「エルトン・ジョン」として音楽活動を始めたレジナルドが、生涯の友となる作詞家バニー・トーピン(ジェイミー・ベルさん)との出会いをきっかけに成功していく、ミュージカル映画です。

 オトナンサー編集部では、フレッチャー監督にインタビューを実施。タロン・エジャートンさんとの仕事、この作品を作る上で大事にしたことを聞きました。

多くを語らずとも、理解し合える関係

Q.「ボヘミアン・ラプソディ」から、ミュージシャンの映画が続いたことについて、どう思われますか。

フレッチャー監督(以下敬称略)「『ロケットマン』の企画が先にあり、『ボヘミアン』が難航しているということで呼ばれました。『ボヘミアン』は自分なりに最高の作品に仕上げようと全力は尽くしましたが、頭の中は『ロケットマン』のことでいっぱいでした。

裏話ですが、『ボヘミアン』は5年ほど前に監督のオファーが来ましたが頓挫しました。その後、音楽映画をやりたいと思っていたら『ロケットマン』に関わることになりました。自分で意図したわけではありません」

Q.タロン・エジャートンさんとの2度目の仕事はいかがでしたか。

フレッチャー「彼との仕事はとても楽しいです。お互いにあうんの呼吸で、多くを語らなくても通じるところがあります。そして、僕を励ましてくれたり、支えてくれたり、行き詰まっているときに背中を押してくれたりする、素晴らしい友人でもあり、何でも話し合える関係です。

リスクを恐れない部分もあり、監督としては『こんなクレイジーなアイデアがあるんだけど』と言ったときに、『それは無理だ』と言う人より、『クレイジーだ、よしやろう』と言ってくれる人の方がいい作品ができます。タロンはリスクを恐れない俳優でした」

Q.この映画でのクレイジーなアイデアは。

フレッチャー「挙げたらきりがありません(笑)『クロコダイル・ロック』のシーンで、タロンの足が浮き上がるのもクレイジーなシーンですし、水深20メートルくらいの水槽に彼を入れて『ロケットマン』を歌わせるのも大胆な演出だと思います。

タロンは歌もさることながら、演技でも素晴らしい仕事をしました。エルトン・ジョンを演じることは、窓ガラスのない高層ビルの窓際に立つ、一歩間違えれば落ちるかもしれない賭けでした。タロンはそれを恐れない、もしかしたら、すごい失敗をするかもしれない、でもやってみようという覚悟がありました。

エリザベス女王の衣装に身を包んでステージに出るシーンや、パンツ一丁で両親と親戚を出迎えるシーンも、ありのままのエルトンを演じるために必要だと思ったので彼はやってくれました」

Q.ご自身が俳優であったことは、監督をやる上でプラスになっていますか。

フレッチャー「自分は監督としては遅咲きで、技術面では正直分からないことが多いです。ただ、役者を続けてきたことは大きなプラスになっています。役者がどういう問題を抱えているか、どんな気持ちでいるのかはよく分かります。役者と仲良くなりやすいですし、親密な関係を築いた上で作品を作れるのは大きいです」

Q.この映画を作る上で大事にしたことは。

フレッチャー「まずはエルトンを怒らせないこと(笑)バランスを大事にしました。正直かなり惨めで悲惨な部分も描いています。ただ、暗いシーンでも希望や明かりが見えて、明るくテンションの高いシーンでも暗い部分をほのめかしています。一つ一つのシーンを多層的な作りにすることを意識しました。暗さと明るさ、楽天的と悲観的が綱引きのように引っ張り合うのは、とてもドラマチックだと思います」

Q.若い世代から反響はありましたか。

フレッチャー「『最初からスーパースターだと思っていたけど、こんなに暗い生い立ちがあって、酒やドラッグに溺れていたことは知らなかった』という感想がありました。エルトンは50年近いキャリアがあり、何十年も前に薬物依存になったのでスキャンダルを覚えていない人が増えるのは当然です。エルトンについて新しい発見をしてもらえたらうれしいです」

 映画「ロケットマン 」は全国公開中。

オトナンサー編集部

デクスター・フレッチャー監督