2019年8月22日(木)より、シアターサンモールにてスタートした、時速246『お静かにどうぞ』。本作は、時速246億主宰の川本成が原案、脚本・演出を喜安浩平が務める舞台だ。開幕に先駆けてゲネプロが行われたので、その様子をお届けする。

※以下、ゲネプロの写真と内容に関するネタバレあり。

出演者には、小野坂昌也高橋広樹豊永利行竹内順子東地宏樹……と、誰もが知る声優陣の名前が並んでいる。それもそのはず、この作品は、アニメ制作、中でもキャラクターに命を吹き込む声優たちのバックステージに焦点を当てたものだからだ。声優たちのバックステージを、実際に第一線で活躍する声優たちをはじめとするキャストが集まって演じる、実に贅沢な作品となっている。

冒頭では、映画館美術館、裁判所……と目まぐるしく場面が移り変わり、これはどんな物語で、これから何が始まるのかという期待がぐんぐん高まっていく。そして、飛行機の中でハイジャックが起きるシーンから、舞台は不意に大人気ロボットアニメファイティーン」続編のアフレコ現場へと様変わりする。

舞台上に現れるマイクスタンドと、入れ替り立ち替りマイクの前に立って様々なキャラクターを演じるキャスト陣。声質をガラリと変え、一瞬でキャラクターに変身する様子は見事としか言いようがない。イキイキとした声の芝居から、一人ひとりが演じるキャラクターの顔や、演じているシーンの絵が見えてくるような錯覚に陥った。これだけのキャストが集まり、この舞台のためにオリジナルの台本を読むという贅沢も大きな魅力だ。

 

また、見所は大御所たちの貫禄ある演技だけではない。ヒロインに抜擢され初の声優に挑む役どころである新垣里沙や、前作の大ファンである若手声優を演じる吉澤翼、現在はマネージャーをしている元役者の山田桃子など、それぞれのキャラクターが「こんな人いそう!」と思わせるリアル存在感を放っている。
前作を見たこともなかったアイドルが、だんだんと作品に興味を持ち、声の演技に夢中になっていく姿。若手声優が、突如ブレイクしてしまったことを不安がりながらも努力する姿。後輩たちの躍進を眩しく思いつつ、自らを省みるベテランの姿……と、各々の役が、演じる本人に重なって見えるのも面白い。まるで、本当に楽屋裏をこっそり覗いているような、ドキュメンタリーを見ているような気持ちになること請け合いだ。果たしてこれは脚本なのか、それともキャストたちの素なのか、そんなことを考えこんでしまうほど自然な演技に引き込まれる。

さらに、制作を行うスタッフプロデューサースポンサーの様子も描かれており、そちらも実に生々しい。スポンサーの希望を受けてセリフや設定を変更した結果物語に矛盾が生じたり、スポンサーへの忖度によって必要性が感じられない台詞が入れられたり、それについて声優たちから指摘が入ったりする。さらに、監督が変わったことで作品の方向性が変化してしまったり、ヒロインの選抜が難航したりもしてしまう。
「ありえそう」な問題があまりに明け透けに描かれるため、架空のアニメ制作現場を描いている作品だと分かっていても、「これは聞いてしまって良い話なのか?」とドキドキしてしまう。お仕事ものとして、非常にリアルな作り込みがされていると感じた。

また、アフレコの合間に交わされる会話や軽妙なやり取り、業界人にとっては“あるある”な話に、ゲネプロでありながら大きな笑い声が何度も上がっていたのも印象的だ。もちろん、業界に明るくなくても楽しめるのでご安心を。筆者も、堪え切れずに吹き出してしまったシーンがいくつもある。

全体を通して、プロとしてのプライドや悩みといった真面目なシーンと、和気あいあいとした笑いの緩急が心地よく、2時間ほどの公演だがあっという間に終わってしまったという印象を受けた。特に、ラスト付近で行われるアフレコシーンの迫力はかなりの物。ヒロインと仲間たちがロボットに乗る大きな見せ場に向けて上がっていくボルテージに、思わず固唾を飲んで物語の成り行きを見守ってしまった。

一見華やかに見える「声優」という仕事の裏側と、それぞれが抱える仕事への想い、悩み、葛藤。それぞれが真っ直ぐ役に向き合い、仕事に打ち込み、力を合わせて一つの作品を作り上げていく。和やかな真剣勝負の世界と彼らの姿を観ながら、自分にとっての「仕事」や「人生」についても考えることができるはず。声優やアニメ業界に興味がある方、それぞれのキャストや劇団のファンはもちろんのこと、多くの方の心に響く作品だといえるだろう。

本作は、8月22日(木)~9月1日(日)まで、シアターサンモールにて上演される。