カニエ・ウェストファンサイト<KanyeToThe>から集ったクリエイター集団=ブロックハンプトン。今年の夏は【SUMMER SONIC 2019】と初単独公演で来日し、オーディエンスをおおいに沸かす大盛況をおさめた。メンバー個々のキャラが立っていて、まさに“ボーイバンド”というべくアイドル性も持ち合わせる彼ら独自のパフォーマンスに、虜になったファンは数知れず。

 来日直後にリリースされた本作『GINGER』は、米ビルボードアルバム・チャート“Billboard 200”で初登場1位を記録した『イリデセンス』(2018年10月6日付チャート)から、1年を待たずして発売された通算5枚目のスタジオアルバム。RCA移籍後のアルバムとしては2作目で、その間今年4月には、メンバーケヴィン・アブストラクトがソロ・アルバムアリゾナベイビー』をリリースしている。大ヒットこそしなかったが、ケヴィンの個性が十二分に発揮された傑作だった。

 そのケヴィンは、前作『イリデセンス』について「思った通りの結果が残せなかった」とインタビューコメントしている。全米アルバム首位獲得は絶大なインパクトだし、作品の評価も軒並み高かった。彼の言う“思った通り”は、さらに高いところにあるものなのだろう。

 アルバムからの1stシングル「I Been Born Again」は、タイトルにもある“生まれ変わる”ことを、彼等独自の目線で歌った曲。どんな状況におかれても「自分らしくあり続ける」ことをテーマにしたそうで、幼少期の経験やちょっとした悪事についても曲中触れている。スクラッチやチキチキ感が90年代っぽく、ストリートが舞台のモノクロビデオカメラワークが絶妙で、(ちょっと酔うけど)思わず見入ってしまう。

 2ndシングル「If You Pray Right」も、「自分らしくあること」を主張したメッセージソング。この2曲からも読み取れるように、前作から今作までの間に、個々心の状態を見直し、整えたことが伺える。終始漂っているかのような錯覚に陥る、不安定なサウンドプロダクション中毒性高く、4曲の先行シングルの中でも(個人的には)インパクト絶大だった。この曲には、マニアから高い支持を誇るクリスチャンシンガー=オーティス・G・ジョンソンの「Walk with Jesus」という曲がサンプリングされている。

 3rdシングルBoy Bye」は、ワールドミュージック調のミディアム。ベースアフリカンかと思いきや、イランシンガー=ダーリウーシュ・エグバーリーの「Ejazeh」という曲が使用されている。遠近法を使ったバスケシーンや、電話ボックス(?)に収容された状態で吊り上げられるパフォーマンスなど、クリエイターらしい創りのミュージックビデオも傑作。サンプリングソースでは、インタールード的な役割の「Heaven Belongs to You」にスリー・6・マフィアの「Break da Law」が、低音がずっしり圧し掛かる「St. Percy」には、米ルイジアナ州のラッパー、ハリケーンクリスの「The Ratchet City Movement EPK」がそれぞれ使用されている。選曲がいずれもマニアックだが、使い方のセンスは抜群。

 4曲目のシングルとして発表した「No Halo」は、アルバムオープニング曲。アコースティック調の優しい音色と旋律、透き通るようなコーラスが美しく、聴いているだけで心のうっ憤が浄化されそう。この曲では、過去の失敗談やトラブル、心身が不健康だった頃のことを取り上げ、ドム・マクレノンヴァースでは「誰でも道を見つけることができる」と背中を押す。あえて昔っぽい画を取り入れたビデオオシャレ。続く2曲目の「Sugar」も、アコースティック・ギターが主のメロウチューン。いずれも、オーガニックヒップホップ~ネオ・ソウル系のいい曲だ。

 ゴージャスな幕開けの「Dearly Departed」は、70年代ソウルを焼き直したような、レトロサウンドが特徴的。この曲では、性的暴行疑惑を受けて追放された、元メンバーのアミアー・ヴァンについて触れている。他、サウンド的には最も今っぽい「Big Boy」~サミーの「I Like It」にソックリなタイトル曲、孤独と絶望からの脱却を歌う「Love Me for Life」、神への祈りを捧げるクリスチャンバラード「Victor Roberts」と、どの曲も妥協やムダが一切ない、パッションに満ちた作品が連なる。

 ここでいう『GINGER』とは、各曲でも伝えている「行き詰った人たちを救うための言葉」がニュアンスとして含まれているそう。悲観的になっている人たちが、このアルバムを聴いてハッピーになれればいいと、メンバーケヴィンは話している。また、サウンド面ではアウトキャストの大ヒット曲「Hey Ya」(2004年)のような、思わず腰が浮いてしまうようなものを、意識したとのこと。

 本作は、米LAにある彼らの自宅兼スタジオで主に制作されたそうで、満足のいく仕上がりも、それぞれが悩みや不安を共有できる、リラックスした環境で作られたから……かもしれない。ブロックハンプトンのメンバーは、出身地や肌の色、マイノリティも様々で、それぞれ育った環境や思想も違う。そんな彼らがひとつにまとまり、こうして1つの作品を創り上げることができるのは、本当にすばらしいこと。


Text: 本家 一成

『GINGER』ブロックハンプトン(Album Review)