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そもそも富士総合火力演習とは?

text:Kumiko Kato(加藤久美子)

富士総合火力演習は一般的に「総火演」(そうかえん)と呼ばれるイベントである。

国内最大級規模でおこなわれる陸上自衛隊による実弾演習で、例年8月の第4週から関係者を対象とした予行演習から始まり、最終日の日曜日に一般公開されるケースが多い。

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富士総合火力演習は国内最大級規模でおこなわれる陸上自衛隊による実弾演習。

日本国内ではたいへん珍しい「実弾演習」が見られるとあって一般公開日の見学は例年凄まじい倍率で抽選がおこなわれる。

今年は応募総数約14万通、倍率約27倍で23596名が入場した。

演習に参加する自衛隊員は全国の各部隊から集められた精鋭約2400名で、
戦車/装甲車約:80両
各種火砲:約60門
航空機:約20機
の規模で演習がおこなわれた。

筆者は平成29年〜30年に防衛省からの委嘱で防衛モニターを務めたことがきっかけで総火演を見学するようになり、今年で3回目の取材となった。

土曜日の夜間演習にも参加して、昨年は霧で見られなかった夜間演習の全容を見ることができた。

また、総火演といえば演習の後に「装備品展示」がおこなわれることでもおなじみ。演習に参加した戦車や火砲、水陸両用車、装甲車などが展示される。

展示されるそれぞれの自衛隊車両を担当する隊員に聞きつつ紹介してみたい。

自衛隊員が語る、戦車の操縦感覚は?

19式装輪自走155mmりゅう弾砲

今年の総火演最大の目玉車両がこちらの「19式装輪155mm自走りゅう弾砲」(ひときゅうしき・そうりん155みりじそうりゅうだんほう)である。

19式とは2019年に制式化された装備品のこと、つまり最新ということになる。

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19式装輪155mm自走りゅう弾砲

現在、自衛隊が所有する「牽引式りゅう弾砲(FH-70)」の後継として開発された。けん引式と違って装輪(タイヤ)で自走できることから、射撃・陣地変換の迅速化、戦略機動性の向上が圧倒的に優れている。

また、注目すべきは「陸上自衛隊初のドイツ製トラック」を採用していることで、ドイツMAN社の軍事車両部門であるRMMV(Rheinmetall MAN Military Vehicles)が製造する「HXシリーズ」がベースとなっている。

同シリーズのトラックはメンテナンスコストが低く、航空輸送性や適応できる装甲の幅が広いことがポイントだ。

19式装輪自走155mmりゅう弾砲をふだん扱っている陸自隊員に特徴を聞いてみた。

「重量/耐荷重/速度/機動性など様々な条件を総合的に判断して採用されたドイツ製のトラックがベースですが、乗り心地や運転のしやすさは日本製のトラックととくに大きな違いはありません」

「右ハンドルの設定もあるので、自衛隊では他の車両と同様に右ハンドル車を購入しています」

「全幅は2.5mと日本の公道を走ることも容易にできますし、免許も大型免許で乗ることができます。ドイツ製であってもメンテナンスは国産と同じようにできる体制となっています」

「これまでの『けん引式りゅう弾砲(FH70 )』と違って、装輪=タイヤになったので路上機動性が圧倒的に違っています。また、もう1つの大きな特徴は車両ごとC2輸送機での輸送が可能となったことです」

試作として5両の調達実績があり、2019年度中にさらに7両の調達が予定されている。

スペック

口径/口径長:155mm/52口径
全長:約11.4m
全幅:約2.5m
全高:約3.4m
乗員定数:5名

見た目は戦車 実際は別モノ 16式

一見すると戦車のように見えるが、よく見ると履帯(キャタピラ)ではなく、装輪(タイヤ)がついている。

MCVの愛称で知られる装輪式の火力支援車両は2003年から10式戦車の開発技術応用を活かした「将来装輪戦闘車両」としてスタートし、2015年に開発が完了。2016年に制式化されて部隊配備が始まっている。

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機動力が評価されている16式機動戦闘車

車体構造の特徴は96式装輪装甲車と同様の8輪コンバットタイヤによって車体を支えていることで、最高約100km/hで舗装路を走行できる。

軽量コンパクトであることから、C2輸送機や民間フェリーでも輸送可能である。16式機動戦闘車を扱う陸自隊員に聞いてみた。

「履帯(キャタピラ)で動く戦車は最新の10式(ひとまるしき)であっても約44tあります」

「こちらの16式(ひとろくしき)は全備重量が約26tで軽く、タイヤで走れることで機動性が良いですね」

「見た目は戦車に似ていますが全く別物です。戦車と違ってふつうのトラックと同じようなハンドルで操作できるので操作感覚も違和感がありません。(戦車のハンドルはバー式が主流)高速道路では100km/h以上出すことも可能です。方向転換なども早くできるので、扱いやすいです」

ちなみに、16式機動戦闘車1台の価格は5億500万円で2018年度には18台の調達実績があり、2019年度にも22台の調達が予定されている。

スペック

制式化:2016年
全長:8.45m
全幅:2.98m
全高:2.87m
全備重量:約26t
搭載機関:直列4気筒4ストローク水冷ターボチャージド・ディーゼル
出力:570ps/2100rpm
最高速度:約100km/h
乗員:4名
武装:
・52口径105mmライフル砲×1
12.7mm機関銃M2×1
・74式車載7.62mm機関銃×1

「ふつうに快適」 輸送防護車MRAP

日本で公開される機会は少ないこちらの輸送防護車オーストラリアタレス社の「ブッシュマスター」をそのまま輸入購入して自衛隊で使われている。

MRAP」とは(Mine Resistant Ambush Protected)の略で地雷攻撃の衝撃にも耐えられる性能を持っていることを意味している。

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特別防護車。

主に、海外にいる邦人などを安全に陸路で輸送することを目的として配備された装輪式装甲輸送車だ。配備されている宇都宮駐屯地の隊員に話を聞いた。

「ふつうに快適なクルマです(笑)大型免許で乗ることができます。視界は非常に悪いので、助手席の隊員と連携を取りながら操縦しています。カメラなど外部を確認する機械もないので目視で確認しながら運転します」

「このクルマの大きな特徴としては起爆した地雷の爆発による衝撃から乗員を守るため、車体底部がV型構造になっている事です」

「燃料タンクが車体の外に搭載されているのも特徴で、これは爆発などの衝撃で燃料タンクによる被害が車内に及ぶのを防ぐためです」

「また、外の燃料タンクが攻撃を受けて無くなってしまっても車体内部の予備タンクで危険な地域から離れられる程度の走行が続けられるようになっています」

「ふだんは宇都宮にある車両で現在8台が配備されています。海外で使うことが前提なので、要請を受けて現地に運んで使用します」

なお、ハンドル位置は左右が選べるとのことだが、自衛隊では日本と同じ右ハンドルの車両を購入している。

スペック

配備:2015年3月
全長:7.18m
全幅:2.48m
全高:2.65m
全備重量:約15t
最高速度:約100km/h
航続距離:約800km
乗員:10名(後部乗員席8名)
武装:5.56mm機関銃MINIMI×1
製造:タレスオーストラリア

小学生の夢、叶えた隊員 戦車の乗り心地は

日本の自衛隊が誇る最新鋭の戦車がこの「10式(ひとまるしき)戦車」である。

日本の地形や道路状況に合わせ、軽量コンパクトな戦車をめざして1996年から基礎研究が始まり、2001年に開発を開始。2009年12月に制式化された。

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子どもの頃からの憧れだった戦車、10式戦車と隊員。

90式戦車に比べると6tも軽くなったことと、トランスミッションにCVTを採用していることから機動性が良いのが特徴。戦車としてはかなり速い最大70km/hの速度での走行も可能となっている。

小学生の頃に総火演に来て、「将来は戦車乗りになる!」と決意して今日に至る部隊最年少20歳の陸自隊員に「戦車の乗り心地」について話を聞いた。

「最初に乗った時は驚きと感動でした。やっぱりずっと憧れて、外から見ていた戦車に自分が触れて、自分が操っていることにまずは感動しました。10年以上ずっと乗りたいと思っていた戦車に乗れた時の感動は語りつくせません」

「教育隊での訓練は非常にハードでしたが、頑張れば戦車に乗れると信じてキツイ訓練にも耐えてきました(笑)」

ちなみに陸上自衛隊では19歳で大型免許から取得する。20歳で戦車の操縦ができることはかなりのエリートと言っていいだろう。

自衛隊の花形車両10式戦車1台当たりの価格は約10億700万円。2018年度には5両、2019年度には6両の調達(購入)が予定されている。

スペック

制式化:2009年12月
全長:9.42m
全幅:3.24m
全高:2.30m
全備重量:約44t
最高速度:約70km/h
搭載機関:水冷4サイクルV型8気筒ディーゼルエンジン
出力:1200PS/2300rpm
乗員:3名
装填方式:自動装填
情報共有:C4I
武装:
・44口径120mm滑空砲×1
12.7mm機関銃M2×1
・74式車載7.62mm機関銃×1


自衛隊車両 どんなひとが操縦? 乗った印象は? 陸自隊員に聞いてみた 総火演