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Point

アルコールが人の感情や行動に与える影響について調査を行った研究によると、アルコールは道徳観に変化は与えないという

■大量にウォッカを摂取した被験者にトロリー問題をシミュレーションしたVR体験をさせる実験では、選択行動が酩酊前と変化しなかった

■他の研究報告と合わせて見ても、アルコールは感情移入や共感力は低下させるが、道徳観を損なうことはなく、免罪符にはならないことを示している

酒に酔った勢いでやった。あれは私の本心じゃない。今は反省してる。

そんな言い訳は現実でもネット上でもよく耳にします。実際のところ、お酒の影響というのは免罪符になりえるのでしょうか。

どうやらお酒の影響は、人の倫理観に変化を与えることはないようです。

こうした問題について検証したいくつかの研究を、英国ブラッドフォード大学の心理学講師Kathryn Francis氏は示しています。

最近の研究では、被験者全員にウォッカを大量に摂取させて、酔う前との変化を調査したというものがあります。

なかなかアグレッシブな研究ですが、この実験では酔った被験者たちに、人の感情を表した表情の写真を見せてどのように感じるかという共感力や感情移入の反応を調査しています。

その結果、酔うほどに被験者たちは悲しみの表情を面白がったり肯定的な印象を持ち、幸せそうな顔には否定的な感情を持つようになったといいます。

これは酔うと、他者への感情移入が阻害され、共感したり、理解を示す能力が弱まることを示していると考えられます。

実験に使われた写真の一例/Credit:Psychopharmacology/Kathryn B. Francis

また、この研究では、道徳観の変化も調べています。

道徳の変化を調べるには、有名なトロリー問題を利用したVRシミュレーションを利用しています。

トロリー問題(トロッコ問題)とは道徳や倫理を調べるための思考実験で、以下の様な問いを投げかけるものです。

5人の建設作業員が作業している線路上に暴走トロッコが走っています。作業員はトロッコの接近に気付いておらず、あなたは歩道橋の上からそれを確認している状況です。あなたの目の前には、太った見知らぬ男性が立っており、彼を歩道橋から線路上に突き落とせば、暴走トロッコを止めて5人の命を救うことが出来ます。あなたはどう行動しますか?

色々突っ込みどころがあるシチュエーションですが、こうした問題について考えることは、その人の道徳観、倫理観を調べる際に有効と考えられています。

また、こうした問題をVRシミュレーションで再現し、実際に行動させるという実験は、道徳観の調査に有効であると示した研究もあります。

トロッコ問題のVRシミュレーション/Credit:PLOS ONE/Kathryn B. Francis

ここで調べているのは、トロッコ問題に対してどう行動するのがより道徳的かという問題ではありません。酔う前と酔っ払った状態でこうした道徳問題に対する行動に変化が起こるかどうか? という部分を調査しています。

その結果、道徳的な考えによって左右されると考えられる行動には、酔った場合でも変化が現れなかったというのです。

酔った勢いで、太った男性を線路に叩き落とすとか、酔うと行動をためらうというような変化はなく、お酒を飲んで酔っ払っていても道徳的な判断に影響はなかったのです。

こうした研究の成果は、アルコールが性格や人格を変えるという信仰が誤りである可能性を示しています。酔って暴力を振るうなどの不道徳な行動は、お酒の影響で現れるわけではなく、もともとその人の道徳観がその程度であったということを明らかにしているに過ぎないのです。

以前ネット上で「酒が人をアカンようにするのではなく、その人が元々、アカン人だということを酒が暴く」という文言が流行ったことがありましたが、どうやらこれは科学的に正しいことを言っていたようです。

お酒を飲んでセクハラする人も、そこら辺で平気で吐く人も、それはお酒のせいではなく、元々そういう道徳観の人なのです。

こうした研究成果への認知が進んでいけば、悪いことをしてもお酒を理由にはできなくなるかもしれませんね。

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reference:theconversation/ written by KAIN
「アカン人が酒に暴かれるだけ」だということが科学的に証明される