(北村 淳:軍事社会学者)

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 日韓関係が軍事面においても悪化しているにもかかわらず、トランプ政権は「北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射しても問題視しない」という姿勢は崩そうとしない。要するにトランプ政権とりわけ大統領再選(すなわちアメリカの一般世論)にとっては、東アジアの安全保障環境などはアメリカ自身に火の粉がかからない限り、さしたる関心事ではないということが如実に示されている。

 このようなアメリカの基本姿勢が、中国が推し進めている海洋軍事戦略に有利に働いていることは間違いない。

 南シナ海や東シナ海問題では中国海軍が覇権を手中に収めつつある。だが、アメリカが中国から直接攻撃を加えられる恐れはないし、アメリカの国益に直接大きな損害が与えられるわけでもない。したがって、トランプ大統領が大きな関心を示すことはないのである。しかし、このようにトランプ政権がさしたる関心を示さないでいる現在においても、中国海軍は着実に海洋覇権を獲得するために、次から次へと様々な手を打ちつつある。

 アメリカ軍シンクタンク関係者などの中からは、そうした状況に大いなる警鐘が鳴らされている。中でもとくに警戒すべき中国海軍の「次の一手」の1つが、間もなく誕生する075型強襲揚陸艦である。

世界第2の水陸両用戦力が誕生

 強襲揚陸艦とは、上陸部隊(海兵隊や海軍陸戦隊など)とその装備(戦車や装甲車両を含む)、航空機(各種ヘリコプターや固定翼SVTOL戦闘機など)、上陸用の小型舟艇、ホバークラフト、水陸両用装甲車両などを積載することができる水上戦闘艦である。各種装備の積載のために、航空母艦のような全通飛行甲板と、揚陸艇やホバークラフトや水陸両用車が発着できるウェルデッキ(写真参照)とよばれる機構を有している。

 そもそも強力な海兵隊(あるいは海軍陸戦隊)と海軍航空戦力(米海兵隊の場合は自前の航空戦力)をともに保有していなければ、強襲揚陸艦を用いることはできない。そのため、現在強襲揚陸艦を運用しているのは、アメリカ海軍ワスプ級、8隻)、フランス海軍(ミストラル級、3隻)、エジプト海軍(ミストラル級、2隻)、オーストラリア海軍(キャンベラ級、2隻)、韓国海軍(独島級、2隻)スペイン海軍(ファンカルロス一世、1隻)だけである。

 数年前より中国海軍は強襲揚陸艦を手にしようとしているといわれていたが、3年ほど前から075型強襲揚陸艦の建造計画が確認され、最近インターネットに完成間近の075型強襲揚陸艦の写真がアップされた。

 中国海軍は公式には075型強襲揚陸艦に関する詳細データを公表してはいないので、あくまでもアメリカ海軍シンクタンクなどの推定にすぎないが、075型強襲揚陸艦アメリカ海軍ワスプ級強襲揚陸艦に匹敵する満載4万トンクラスの巨艦になる可能性が高い。

 ただし、現時点ではアメリカ海軍海兵隊のように強襲揚陸艦に多数のSVTOL戦闘機を積載する可能性はないため、満載で3万5000トン程度ではないかともいわれている(海上自衛隊最大の軍艦である「いずも型」ヘリコプター空母は満載2万6000トンである)。

 いずれにしても、巨大な本格的強襲揚陸艦である075型強襲揚陸艦には少なくとも30機以上の各種ヘリコプター、2隻の726型ホバークラフト、揚陸艇、それに揚陸用装甲車や水陸両用戦車などの水陸両用車両、それに中国海軍陸戦隊上陸部隊が積載されることになる。現在のところ、3隻の075型強襲揚陸艦が建造される予定であり、名実ともにアメリカに次ぐ世界第2の規模と内容を誇る水陸両用戦力が誕生することになる。

水陸両用戦力を何に使うのか?

 アメリカ海軍海兵隊を出動させる場合、ワスプ級強襲揚陸艦サンアントニオ級輸送揚陸艦を主軸として水陸両用戦隊(「水陸両用即応群」と称される)を形成することを基本としている。中国海軍も075型強襲揚陸艦と071型輸送揚陸艦を中心にそのほかの揚陸艦艇を組み合わせて、それらに航空機部隊と海軍陸戦隊部隊を搭載し、アメリカ海軍と似通った水陸両用戦隊を形成することになるものと思われる。

 理論的には、075型強襲揚陸艦を基幹とする中国海軍水陸両用戦隊は、中国軍による台湾侵攻戦力を強化することになる。しかしながら、実際には台湾軍が健在である限り、いわゆる強襲上陸作戦は兵員と艦艇をはじめとする装備の無駄使いとなってしまう。なぜならば、台湾軍は比較的強力な地対艦ミサイル戦力を擁しているため、潜水艦以外の強襲揚陸艦をはじめとする水上艦艇は台湾に接近することが困難だからだ。

 そのため、中国軍が誇る各種ミサイル戦力をフル稼働させて大量のミサイルを台湾に降り注いで、地対艦ミサイルや防空ミサイルを沈黙させてから上陸作戦を実施することになる。この段階での上陸作戦には旧式の揚陸艦でも十分役目を果たせる(もちろん新鋭075型強襲揚陸艦は有用であるが)ため、あえてこのために新鋭強襲揚陸艦を造り出す必要はないのだ。

 では、中国軍は075型強襲揚陸艦を何に用いるのか。

 実際には075型強襲揚陸艦は、対艦攻撃能力や対空攻撃能力を保持する強力な敵戦力が存在しない島嶼や海岸線に、海軍陸戦隊上陸部隊を迅速に送り込む作戦(戦闘だけでなく戦闘以外の軍事作戦や災害救援作戦を含む)のために生み出されたと考えられる。

 具体的には、南シナ海の西沙諸島南沙諸島の人工島海洋基地群のように、中国本土から突出した前進拠点が設置してある島嶼を防衛するために、海軍陸戦隊戦力を素早く展開する場合が想定される。

「島嶼を防衛する」といっても、日本国防当局の誤った方針のように「敵に占領されてしまった島嶼を奪還するため」の海軍陸戦隊による強襲上陸作戦のためではない(拙著『シミュレーション日本降伏』参照)。敵、すなわちアメリカ軍が南沙人工島や西沙諸島に侵攻する動きを察知した場合に、アメリカ海軍水陸両用即応群や空母打撃群が目標に接近する機先を制して中国海軍水陸両用戦隊を派遣し、防衛すべき島嶼環礁の守備兵力ならびにミサイルをはじめとする火力を大増強するのである。これによって、アメリカ海洋戦力が西沙諸島南沙諸島に接近するのを阻止する態勢がさらに強化されることになるのだ。

 島嶼防衛作戦だけでなく、遠隔地に設置した基地や港湾拠点などに海軍陸戦隊や航空部隊を送り込んだり、中国市民をはじめとする非戦闘員撤収作戦を実施するためにも、本格的な水陸両用戦隊の活躍は期待されている。また、戦時ではなく平時においても、大規模災害に際しての救援部隊の派遣といった国際貢献を通して中国の国益を伸張する役割を果たすためにも、水陸両用戦隊は有用である。

 このように、日本が韓国情勢などに目を向けている間にも、中国海軍は南シナ海、そして東シナ海を掌握する戦力を着実に強化し続けているのだ。

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