―[あの企業の意外なミライ]―


「あの企業の意外なミライ」を株価と業績から読み解く。滋賀県出身、上京2年目、犬より猫派、好きな言葉は「論より証拠」のフィスコ企業リサーチレポーター・馬渕磨理子です。私はこれまで、上場銘柄のアナリストとしてさまざまな企業の業績予測、市況予測を行ってきました。また、自身で株式投資を5年以上に渡って行い、市場に向き合ってきました。本企画では、そんな、私馬渕の視点からみなさまに「あの企業の意外な情報」をお届けます。

◆“苦戦”のイメージは過去のもの

 今回取り上げるのは、ソニーの財務分析です。

 ソニーと言えば、2008年以降、テレビをはじめとするエレクトロニクス部門の不振が続けているイメージが強かったのではないでしょうか。しかし、そんなソニーの直近の決算書を見てみると、2018年3月期の純利益は9162億円で、2期連続の過去最高を更新しています。

 この10年の間に、ソニーでは何が起こったのでしょうか?

◆利益率は昨年比86%増の絶好調状態に

 ソニー損益計算書(略して“PL”= profit and loss statement)を見てみましょう。PLとは、企業に「出てくるお金」と「入ってくるお金」を示したグラフのこと。

 ソニーのPLを見てみると…

2014年…約7.7兆円

2019年…約8.6兆円


 と推移。19年3月期の売上高は8.6兆円。5年間で約1兆円増えています。一方、純利益は…

2014年…約1280億円の赤字

2019年…約9160億円(+4260億円)


 2019年は前年比86%増の9160億円を達成。収益性が大幅に上がっていることがわかります。いったい、なぜここまでV字回復できたのでしょうか?

 その答えは4つあります。

◆答え1:エンタメに強いソニーに成功したから

 答えの1つ目は、主力事業をエンタメ事業へと転換させたからです。

 上のグラフを見てください。これはソニーの事業ごとの営業利益を示したものです。

 これを見れば一目瞭然。テレビカメラの営業利益の依存度は低下しており、現在は、ゲーム分野が稼ぎ頭であることがわかります。これは主に、ネットワーク販売を含む「プレイステーション4」のソフトの売れ行きが好調であったことと、月額課金でオンライン対戦ができる有料会員サービスの加入者が増加しているためです。これ、今流行りのサブスクリプションモデルですよね。サブスクリプションによる収益は、毎月安定して利益が見込めるため企業が喉から手が出るほどほしいものです。ソニーは、その安定した利益を得ることに成功したのです。

◆答え2:付加価値の高い商品だけに力を入れた

 2つ目の答えは、不調の原因と言われたエレクトロニクス事業にありました。

 エレクトロニクス事業は、2011年から5期連続で部門営業赤字を出していました。しかし、今ではテレビ・音響の事業もエンタメ事業とまではいきませんが、利益がでる構造になっています。

 なぜ利益を出すことができたのでしょうか。

 答えは、テレビカメラの製造を「付加価値の高い商品」に集中させたから。

 かつての日本の家電メーカーは、それなりに高品質なものを低価格で、スピーディに生産することに力を注いでいました。しかし、2000年代後半に入ると、HUAWAIやサムスン、LGなど中国、台湾、韓国などの家電メーカーが台頭。どの商品のスペックも変わらず、単なる価格競争の争いになりました。結果起きたのは、家電製品のコモディティ化です。どれを買っても同じ。だったら安いものがいいよね? ということで日本の家電メーカーは近隣諸国のメーカーに後塵を拝することになったのです。

 そこで生き残る秘策は一つしかありません。みんなと同じ競争をやめて、独自の価値を、特定の人だけに提供する戦略です。それが、ソニーにとっては高付加価値の商品だけを提供する戦略だったのです。

 私も、その「高付加価値の商品」に惚れ込んだ一人です。

 私馬渕は、ソニー2018年に販売したカメラ「α7Ⅲ」を愛用しています。価格が20万円以上する商品ですが、現在まで大ヒットしています。カメラ撮影時に求められるプロフェッショナルさはさほどいらず、きれいに写真を撮れるので初心者にとってもとても使いやすいこのカメラ。まさに、「カメラが苦手だけどキレイに撮りたい。お金はちょっと多めに出してもいい」という消費者に刺さったわけです。

答え3:影の立役者・半導体事業のヒミツ

 ゲーム事業の躍進にフォーカスが当たりやすいソニーですが、半導体事業もV字回復の大きな立役者になっています。営業利益を見てみましょう。

2017年3月期…▲78億円

2018年3月期…1640億円


 1年で1700億円ほど利益が伸びています。

 ここで少し不思議に思った人もいるのではないでしょうか。

 日本メーカー半導体事業といえば、この10年間は不況のニュースが続いていました。東芝や日立など、かつて世界のトップを走っていた企業が、サムスンを中心とした韓国メーカーに押され、事業縮小を余儀なくされました。しかし、ソニーは違いました。

 スマートフォンタブレット端末向けのイメージセンサーの販売数量が大幅に増加し売上に大きく貢献していたのです。実は、ソニー半導体事業は、自社の業績が低迷していた時期にも他社に先行して投資を続けていたのです。

 その拡大路線は今も変わらず。2018年には、2020年まで最大7000億円の投資を検討すると発表しており、積極的な拡大路線を突き進んでいます。

 特に好調なのは、CMOSイメージセンサー。これは光信号を受け取り、電気信号に変える半導体のことで、カメラスマホに搭載されているもの。スマホの需要が急増はすなわち、CMOSセンサーの需要増加を意味します。ソニーはCMOSセンサー市場のシェア50%を誇っています。

 今後は、自動運転技術が搭載された自動車に使われる半導体の開発に力を注ぐようです。この市場が拡大すれば、ソニー半導体事業はさらに大きくなることは間違いありません。

◆答え4:ソニーの体力の50%以上を占める金融部門

 ここまでで、ソニー好調の背景がかなり明らかになったと思いますが、さらに同社の裏側を読み解くべく、同社の財務諸表(略して“BS”=Balance Sheet)を見てみます。

 ここまでV字回復の要因を色々と説明してきましたが、本質的なソニー好調の背景はこの4つ目の理由に隠れています。

 突然ですが、ソニーの売上の1位はゲームですが、2位は何でしょうか。

 答えは、金融です。これが、ソニーV字回復要因の4つ目の答えです。

 ソニーは、2004年子会社としてソニーフィナンシャルHD、ソニー生命、ソニー銀行、ソニー損保などを統括する事業再編を行いました。これがV字回復にもっとも大きく影響を与えたのです。上表を見てみましょう。

 ソニーの金融部門の資産額を見ると、その額は、約14兆円。非金融部門の2倍(約7兆円)になっています。

 つまり、ソニーの体の半分は金融部門でできているのです。ソニーにとって、金融部門が強いことがいかに重要かわかるのではないでしょうか。

 もう一つ注目してほしい点があります。

 金融部門の資産の85%にあたる、約12兆円が負債で調達されています。この負債とはなんのことでしょうか?

 答えは、ソニー銀行の顧客が預けている「預金」や、ソニー損害保険ソニー生命が契約書のために積立てている「準備金」のことです。

 これ、とても重要です。もはや、エレクトロニクス事業のことや半導体のことよりも、この負債のほうがとても重要なポイントになっています。ソニーの負債は、銀行から借り入れている負債ではなく、顧客から預かったお金。そのお金を運用して増やしているのです。つまり、会計上は負債が膨らんでいるように見えますが、そのほとんどは「借入金」ではなく、顧客からの「預り金」。

 このソニーの状態は、こう考えるとわかりやすいかもしれません。

 昔、お正月に親戚のおじちゃんからお年玉をもらったときに「これはお母さんが預かっておくね」と言われたことはなかったでしょうか?

 それが今のソニーが好調である理由です。

 お母さんが、消費者金融からお金を借りるのと、息子から預かったお年玉を株式投資に当てて収益を増やそうとするのでは大きく違いますよね。ソニーの金融部門は、それを粛々と実行しているのです。

 前者は単なる借金ですが、後者は家計を増やすために“一時的に”息子のお年玉を預かっているのです(ちゃんと、お母さんお年玉を返してくれるはず…)。

 話を戻しましょう。

 ソニーは金融部門の比率が大きいため、他のメーカーより自己資本比率が低くても財務諸表上、安全性に問題はないと言えるのです。

 PLとBSを見るだけで、ここまで企業のイメージは変わるもの。

 経営者の資質のみに着目するのでもなく、PLとBSという無機質なグラフだけとにらめっこするのでもなく、その両者を観察することで「気になる企業の未来」はクリアになっていくのです。

【馬渕磨理子】
日本テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

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