韓国の文在寅ムン・ジェイン)政権の日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の決定後、米韓間の確執が日ごとに露わになっている。「文在寅政権(Moon administration)」を名指しして、連日「懸念と失望」を表現する米国に対して、文在寅政権は、駐韓米国大使を呼んで抗議するなど、全面的に対抗する姿勢を示している。いまや韓国では、70年間持続されてきた米韓同盟が文在寅政権で崩壊しかねないという観測も出始める始末だ。

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曺国(チョ・グク)のために祖国を捨てた

 8月22日文在寅政権がGSOMIAの「破棄」を宣言した。自動延長期限の24日まで2日も残して、多くの専門家の予想を覆す「破棄」を宣言した背景について、韓国社会の一部では、毎日のように疑惑が浮かび上がる文大統領の最側近チョ・グク氏のスキャンダルと関連があるという見方もある。最大野党の自由韓国党は「(GSOMIA破棄は)曺国(チョ・グク)のために祖国(チョグク)を捨てた」と論評したくらいだ。

 GSOMIAの破棄決定で韓国世論が最も憂慮しているのは米国との関係だ。実際、米国は最後まで韓国政府に対してGSOMIAの延長を呼びかけていた。米国務省は、日韓関係の悪化で、GSOMIAの破棄可能性が浮かび上がった時から、「北朝鮮の最終的かつ完全に検証された非核化(FFVD)を達成し、地域の安定と平和を維持するための重要な手段」とし、GSOMIAの延長を全面的に支持するという立場を繰り返して強調してきた。具体的には、ジョン・ボルトン国家安保補佐官、マーク・エスパー米国防長官、スティーブン・ビーガン米国務省北朝鮮政策特別代表などが韓国を訪れ、GSOMIAの必要性を強調した。特に2泊3日の日程で韓国を訪問したビーガン特別代表は訪韓日程を延長して、韓国側にGSOMIAの延長を促したりもした。

 このような米国の努力にもかかわらず、「破棄」を宣言した文在寅大統領府は、韓国内の世論を意識して、当初「米国側の了解を得た」と説明していた。

 ところが、米国の反応は、大統領府の主張を色褪せさせるものだった。米政府が運営する国際放送の「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」は、国務省関係者の言葉を引用して、「相反する報道があるが、米国は決してそのような(破棄)決定に対して理解を表明したことがない」と報道、韓国大統領府の説明を正面から否定した。

「領土問題に関与しない」米国が竹島演習を批判

 米国防総省と国務省からは、「懸念と失望」などの表現を用いた批判的論評が相次いで発せられた。それだけではない。25日、韓国が大規模の独島(竹島)防衛訓練を開始すると、これまで「領土問題には関与しない」という態度を貫いてきた米国が、これを公に批判したのだ。

 27日、VOAは、国務省報道官室の関係者が「日韓間の最近の関係を考慮すると、訓練の時期やメッセージ、拡大された規模は、引き続き進行中の問題(日韓確執)を解決するのに生産的ではない」とコメントしたことを伝えた。同日、ロイター通信も、米国務省の高官が記者ブリーフィングで、「このような行動は問題を解決するのに寄与せず、単に問題を悪化させるだけだ」と話したと報じた。韓国政府がGSOMIA破棄の直後に、独島(竹島)防衛訓練を実施することで、日韓の関係をさらに悪化させていると批判したわけだ。

 米国のあからさまな批判が続くと、文在寅政権もこれに負けずに対応に乗り出した。28日、韓国メディアは政府消息筋を引用して趙世暎(チョ・セヨン)外交部次官がハリー・ハリス駐韓米国大使を外交部庁舍に呼び、GSOMIA破棄とそれに関連し、米国政府関係者の公の場での不満表明や発言を自制するように要請した、と伝えた。

在韓米軍基地の返還問題をカードに

 韓国外交部はこれに関する公式報道資料で、趙次官とハリス米大使との会談が「面談」であることを強調し、米国側に韓国の立場を「説明」したと説明したが、外交専門家やメディアは外交部の行動を事実上の「招致」と受け止めた。

「東亜日報」は、韓国政府が「事実上、米国大使を招致した」とし、「(韓国)政府が両国問題と関連して抗議の意味で駐韓米国大使を呼んだことは極めて異例であり、GSOMIA破棄による韓米間の破裂音が拡散する様相」と伝えた。

「韓国日報」も、「事実上の招致」という表現を使い、これは大統領府からの積極対応という注文によるものだと伝えた。文在寅政府の対日・対米関係を主導しているのは、外交部ではなく大統領府で、その核心には金鉉宗(キム・ヒョンジョン)安保室第2次長があるという分析も紹介している。

 8月30日大統領府は、北朝鮮ミサイル発射時にもなかなか開かれなかったNSC(国家安全保障会議)を緊急開催し、在韓米軍駐屯地の早期返還を積極的に推進すると発表した。2003年、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代、北朝鮮の脅威が高まったことで、在韓米軍側は、主力部隊を漢江(ハンガン)以南の後方へ再配置する在韓米軍再配置計画を発表した。このため、在韓米軍は80個の駐屯地を韓国政府に返還することを約束し、2008年まで54個の駐屯地が返還された。ところが11年ぶりに突然、残りの26個の駐屯地に対する早期返還を積極的に推進する、と発表したのだ。

 このような一連の韓国政府の動きについて、大統領府では強く否定しているが、韓国メディアからは、米国の再三の圧迫に対して大統領府が対抗戦略を繰り広げている、という分析が多い。

「中央日報」は、「在韓米軍基地返還問題は、通常なら韓米間の事前調整を経て今秋に韓国で開かれる韓米年例安保協議会(SCM)で共同発表するのが自然だ」という元高官の話を紹介した。なお、「在韓米軍基地の返還問題は韓国が米国を相手取って攻勢的に使えるカード」「GSOMIAの破棄後、繰り返し圧力を行使している米国に対する韓国政府の対抗策」という話も出ていると伝えている。

「朝鮮日報」は、軍関係者の言葉を引用し、「大統領府の発表はあたかも米軍が約束を守っていないといった問題を提起し、米国に圧力を加えているような格好だ」「韓米関係が良くない状況で基地“移転”ではなく、基地“返還”という用語を使ったのは反米フレームを浮上させようとしているのではないかと懸念される」と伝えた。

 米韓関係に異常が生じたのは、韓国大統領府の自主派が外交政策を主導しているためだという分析もある。

 自主派とは、盧武鉉政権当時、米国との同盟を重視する同盟派と対立し、自主外交を強調して南北関係を重視した外交部内の派閥だ。文正仁(ムン・ジョンイン)外交安保特使、金鉉宗・大統領府安保室第2次長、南官杓(ナム・グヮンピョ)駐日大使などが代表的な人物だ。

 その中でも金鉉宗第2次長は、文在寅大統領府の自主派の核心人物として指摘されている。

金鉉宗が事実上の外交部長官

「文化日報」は、与党関係者の言葉を引用して、「最近、大統領府内の会議で、金鉉宗2次長と康京和(カン・ギョンファ)外交部長官が激しい言葉で舌戦を繰り広げたことがある」「金次長が外交部課長に直接電話して業務を指示するなど、事実上、外交部長官の役割を果たしている」と報じた。

「国民日報」は、「GSOMIA破棄の決定とその後の進行状況を見ると、(文政権の外交政策において)大統領府内で自主派の影響が強まっている」「韓日確執を機に明らかになった自主安保論が対米強硬論につながるのではないかという観測も出ている」と懸念を示した。

「朝鮮日報」も、文政権の対米・対日強硬基調は同盟派が事実上排除された状況で、自主派の思い通りに外交政策が動いているためだという外交筋の指摘を掲載。また、その自主派の司令塔は金鉉宗2次長だと分析した。同紙は、「金次長は幼年期を日本で、学生時代には米国で生活した」と説明し、「(金氏は)日本と米国についてよく知っているという自信をもとに、対日・対米強硬政策を駆使している」と分析した。

 盧武鉉政権当時、ブッシュ米行政部の関係者たちは、韓国政府内の自主派を、「外交部タリバン」「タリバン参謀」などと呼んでいたことがある。保守政権の9年間、じっと息を殺していたこのタリバンチームが文在寅大統領府で電撃的に息を吹き返し、70年間築いてきた米韓同盟を揺るがそうとしている。

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