創業すぐに訪れた危機を乗り切り、経営が波に乗り始めたHUGE。その人気の秘密は何と言っても、高いサービスとリーズナブルな値段設定にある。
しかし、日本一地価が高いと言ってもいい場所で、居酒屋なみの価格設定で業績を伸ばし続けられるのはなぜか――。
前回の記事はこちらから=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57116
インタビュー:川嶋諭、編集:松浦由希子
領収書を切らずに満足できるのがHUGEの価値観
カジュアルダイニングをマジョリティーに
前に少し触れましたが、起業して最初にオープンしたお店の1つがカジュアルダイニングの「RIGOLETTO(リゴレット)」です。
会社の資本の面では、いろいろ大変でしたが、幸い、お店は順調に立ち上がっていきました。
起業に当たって「長く続けられる店」を理念に掲げているから、景気に左右されず、領収書を切らずに利用できるお店にしたい。
それで新丸ビルにリゴレットの2号店を出す時、僕はワインを1本2500円で売りたいと最初に言ったんです。タパスも500円均一でやりたい。ドリンク500円でやりたいって。
新丸ビルのオーナーの三菱地所さんからは、「家賃比率を考えたら、そんなの商売にならないよ」と言われました。
でもね、普通の人が2回転のところを、4回転にしたらやれると僕は思った。今で言えば、立ち食いスタイルの「いきなり!ステーキ」と少し似たロジックですね。
確かに当初、2500円で売るワインには、仕入れ値で1800円のものもあった。しかも内税です。1本売っても400円ちょっとしか儲からない。
管理して冷やして、何度もグラスにそそいでいたら、採算が合うはずがない。そのうえ人件費がかかるわけですから。
でも、企業努力で儲かるワインもある。お客様は、どっちもうまければいいんです。メニュー一品一品の値段じゃなくて、総合的な価値で店を見てもらえばいい。
1本飲んでみておいしければ、次は国、あるいはブドウの種類など、ストーリーでワインを飲むようになったりする。
デートしている時に、「今日は南イタリアがいいなあ」とか言って、「南イタリアのこちらでいかがでしょうか」と持っていくわけです。
お財布から出ていくのは2500円だけ。でも、それってカッコいいじゃないですか。
値段はずいぶん頑張って据え置きましたけど、13年目に1回だけ値上げして、ワインは2750円にしました。それでもお客様から特に不満の声は聞きません。
揃えているワインの8割が直輸入のエクスクルーシブで、日本国内ではほかで飲めないということもあるかもしれません。
場所が新丸ビルなら、確かに同じワインを1本5000円にしても売れるかもしれません。でも、そこを例えば2750円でやるのがHUGEの「価値」だと思っている。
例えばリゴレットで飲み食いした翌日、ポケットからレシートが出てきて、「昨日楽しかったけど、こんな値段で済んだのか」と思ってもらえるのがHUGEの価値観。
領収書を使わなくても行ける店、それで生き残っていけるカジュアルダイニングをマジョリティーにしたいんです。
HUGEでは、客単価が1万5000円を超える店は銀座のダズル1軒だけ。僕は本当は、そっちの方が得意なんですよ(笑)。
そういう高級店の総支配人をしていましたから。接待で予算が青天井みたいにバンバン使われる店とか、すごいですよね。
でも、そういう景気は絶対に続かない。それに寄りかかっていると経営のリスクになる。
だから、僕たちはデフレに強い企業でいたい。ポケットマネーで4500円払って、おいしかった、楽しかった、やっぱりHUGEが一番だよね、って言ってもらえる会社になりたい。
それが本物だと思うんです。
心の中は店長
最終的に、僕の心の中は店長なんですね。だからPL経営なんです。
もちろん、減価償却やキャッシュフロー経営などもいろいろ考える「社長の新川」もいる。でも、常に顧客目線を持つには、やっぱり店長の目線が一番なんです。
店長は毎日お客さんの顔を見る。昔から僕は、お客さんが帰る時に「ありがとうございました」と声をかけ、目を合わせてもらえないことがあると、何が悪かったのかと考えて、夜も眠れないほど気が小さい人間なんです。
でも、その感覚がプラスに働くな、とは思っていた。
だから今も、例えば社内で声をかけて目を合わさない社員がいたら、「どうしたの」と聞ける社長でいたいと思っています。
つづく=5日間連続、4回目は明日
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