【知られざる海外組ストーリー18歳スペインへ渡った鶴見昌平、ビジャの故郷クラブでもプレー

 イベリア半島の南東に国土面積がわずか6.5平方キロメートル、人口わずか3万2000人ほどの小国がある。スペインと国境を分かつ、イギリスジブラルタルだ。2016年に初めてUEFA欧州サッカー連盟)に加入したばかりのこの国のリーグに、初の日本人プレーヤーが誕生した。

 鶴見昌平(旧姓・坂本)。スペインの下部クラブを渡り歩いた男は今年、ジブラルタルでプロデビューを飾った。平成元年まれの30歳は、なぜジブラルタルへ渡ることになったのか。「UEFAチャンピオンズリーグに出場するためのラストチャレンジ」に挑んでいる“海外組”の1人にインタビューをした。

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 鶴見は山形の羽黒高校サッカー部出身で、高校卒業後に18歳で日本を飛び出した。ユニベルシダ・デ・オビエドというオビエド大学が出資していたクラブのBチームスペイン5部相当)からスタートし、CDクディレロ(同4部)や元スペイン代表FWダビド・ビジャヴィッセル神戸)の故郷でもあるアストゥリアス州トゥイージャに本拠地を置くCDトゥイージャ(同4部)、スペイン北部カンタブリアのSDノハ(同3部)といったスペインの下部リーグを渡り歩いた。

 今季は日本代表MF久保建英レアル・マドリード→マジョルカ/1部)を筆頭に、同MF香川真司(サラゴサ/2部)、同MF柴崎岳(デポルティボ・ラ・コルーニャ/2部)、同FW安部裕葵(バルセロナB/3部)など、これまでにないほど多くの日本人選手がスペインに集結している。だが、鶴見がプレーしていた当時、スペインの下部リーグプレーしていた日本人選手はほとんどいなかった。SDノハ時代には全国紙「マルカ」で特集されたこともあるなど、現地では注目を集めた。

 2014年に一度現役から退いた鶴見だったが、「もう一度サッカーがしたい」との思いから、およそ3年の空白期間を経て、2017年に6部相当のアトレチコ・マルベージャでプレーを再開させた。そして、現役復帰から2年が過ぎた今年、思わぬ展開が待っていた。ジブラルタル1部リーグエウロパポイントFC(Europa Point FC)からのオファーだった。

「僕が加入したエウロパポイントは、新たな投資家がチームに資金を投じてプロジェクトを進めている真っ最中。クラブUEFAチャンピオンズリーグ(CL)やUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場を目指しています。そして、欧州で日本人が注目されていることもあり、日本のマーケットを広げていきたいという考えがあります。そのなかで、僕にオファーが届いたんです」

スペインと陸続きにあるイギリス領の国、サッカーの特徴も「合わせた感じ」

 いざジブラルタルにやってきて、鶴見も初めは驚きの連続だったという。

「最初に話を聞いた時は『えっ?』という感じでした。ジブラルタルにはスタジアムが一つしかないんです。全試合がそこで行われている。トップチームだけでなく、ユースチームもそこで試合をするので、試合は毎日行われています。リーグ戦ではまだそこまででもないですが、代表戦やCLの試合ともなれば、スタジアムにもたくさんの人が来ます。クラブ間のライバル意識というのはあまりないですね」

 ジブラルタルといえば、“タックス・ヘイブン”(租税回避地)としても知られ、世界の有名企業も本社を置いている。サッカークラブスポンサーにもなっているオンラインベッティング企業「bwin」の本社もここジブラルタルにある。小さな国のなかに堂々とそびえる巨大な岩山“ザ・ロック”も有名だが、その近くにあるヴィクトリア・スタジアムが国内で唯一のサッカー用スタジアムだ。

 そのため、シーズンが始まればリーグ戦は毎日のように開催されている。同じ会場で1日に2試合行われることもある。練習場も足りないため、各クラブは近隣のスペインなどでグラウンドを借りてトレーニングしている。鶴見もスペインのマルベージャに住んでおり、車で45分かけてジブラルタルまで通っているという。

 そんなジブラルタルサッカー事情を、改めて整理しておきたい。

 国内リーグ2018-19シーズンまで8チームずつの2部リーグ制だったが、今季からプレミアディビジョンに統合され、16チームで優勝が争われている。優勝クラブにCLの予備予選出場権、リーグ2位と国内カップ戦優勝クラブはEL予選の出場権を手にすることができる。スペインと陸続きにあるイギリス領の国ということもあり、鶴見に言わせるとサッカーも「スペインイングランドの特徴を合わせた感じ」ということらしい。

開幕戦にスタメン出場 「ジブラルタルでもプロになれました」

 ちなみに、今季はCLにリンカーンレッド・リンプス、ELにはカレッジ・エウロパとセント・ジョセフスというクラブが参戦。国内リーグ最多優勝(24度)を誇るリンカーンはCL予備予選1回戦で敗退し、その後にスライドして参加したEL予選も2回戦で涙を呑んだ。カレッジ・エウロパとセント・ジョセフスの両クラブもEL予選1回戦で、いずれも強豪レギア・ワルシャワ(ポーランド)とレンジャーズスコットランド)の前に敗れ去り、本戦出場は叶わなかった。

 また、ジブラルタルの代表チーム2018年10月UEFAネーションズリーグの第3節でアルメニアに1-0で勝利し、UEFA加盟後初の公式戦勝利を挙げて話題にもなった。

 鶴見はそんなジブラルタル1部リーグで、初の日本人選手として歴史に名を刻んだ。8月14日に行われたライオンズジブラルタルFCとの開幕戦(0-0)にスタメン出場して新天地デビューを果たした。

「選手として僕が海外に行って通用すると思っていたという人もあまりいなかったと思うけど、スペインでもセグンダB(スペイン3部相当)までいくことができたし、こうしてジブラルタルでもプロになれました」

 鶴見は、これまでのキャリアを感慨深げにこう振り返った。

 前述したように、エウロパポイントは現在、大きなプロジェクトを掲げてチームの改革に乗り出している。クラブに新たに加わった投資家は、英国との強いコネクションを持っていて、今後はチェルシーアーセナルの下部組織でプレーしていた選手も加わる予定だという。これまでにもジブラルタルリーグからスペイン2部リーグなどに選手が旅立った例もあり、今後は才能ある若手選手を育てて売却する“育成型クラブ”としてのビジョンも描いている。

「東欧のチームなんかも、以前は知られていなかったところですけど、最近では日本人プレーするようになりましたよね。それは加藤恒平選手(元日本代表)などの活躍があって、日本でも知られるようになったと思いますけど、ジブラルタルもそういう国の一つになればいいなと思っています」

選手兼オーナーへの道 「日本人のための“入り口”を作っていければ…」

 いずれは日本人選手にとって、このエウロパポイントスペインイングランドへの架け橋となれるかもしれない。鶴見には、一選手としての枠組みを越えた役割に期待が懸けられている。

「僕はクラブプロジェクトに賛同しています。ただ、もう30歳なので、これからこの場所にやってくる日本人のための“入り口”を作っていければなと思っています。今は、昔からの夢だったCLに出場するためのラストチャレンジとしてプレーしていますが、将来的にはクラブの経営にも携わりたいという思いがあります。それがクラブオーナーにも伝わり、現在は経営権の一部を取得するためにクラブと交渉しているところでもあります。そうなれば、このクラブ日本人選手を連れてくるという点においても、プラスになるのかなと思っています」

PROFILE
鶴見昌平(つるみ・しょうへい)

1989年6月12日生まれ。30歳。羽黒高校を卒業後にスペインへ渡り、同5部ウニベルシダ・デ・オビエドと契約。その後、CDクディレロ、CDトゥイージャ、SDノハと渡り歩いた後、2014年に一度引退。17年にスペイン6部マルベージャで現役復帰を果たすと、17年8月にジブラルタル1部エウロパポイントとプロ契約を結んだ。選手以外でもワインの輸出を行うなどビジネスにも携わる一方で、現在はエウロパポイントの経営権一部取得に向けて交渉している。

[公式HP]www.shohei-tsurumi.com
Twitter]@saka_jp1989
Instagram]@saka_jp(石川 遼 / Ryo Ishikawa)

ジブラルタル1部リーグのエウロパ・ポイントFCとプロ契約を結んだ鶴見昌平【写真:本人提供】