衰退した中心市街地をもう一度活性化するにはどうすればいいのか。山形県山形市の関係者が着目したのは若者たちの柔軟な思考と実行力だった。若者のまちへの定住を支えるため、産官学で構築した新たな住宅供給事業に注目したい。
商業を含む多様なテーマで活性化を図り始めた山形市

山形県県庁所在地山形市の人口は2005年をピークに微減し続け、現在24万9682人(2019年7月1日)である。「2000年から2006年の間には、山形市中心部から4つの大型商業施設や百貨店が撤退したほか空き店舗が目立つようになり、まちの衰退が始まりました」と山形市商工観光部山形ブランド推進課の岩瀬智一さんは話す。
その状況に歯止めをかけるため、山形市は中心市街地活性化基本計画を策定し、2019年2月には長中期ビジョンを公開した。そこで示されたグランドデザイン(将来像)のコンセプトは、「次世代へつなぐ魅力ある新しい『中心市街地』の創造」。大きな特徴は、商業への依存からの脱却。目指すべき方向として、居住(暮らし)、ビジネス、観光、医療・福祉・子育て、文化芸術など多様なテーマが掲げられている。まちのエリアごとの特性に合わせて、それぞれに合うテーマの取り組みが進められていく予定だ。

グランドデザインの具現化に向けて、2019年3月には、山形エリアマネジメント協議会を発足させた。会長は山形商工会議所会頭、副会長山形市副市長が務め、構成員には金融機関4社、山形県宅地建物取引業協会山形と不動産関連の組織が含まれている。事務局は山形市などが担う。「このようにテーマや対象エリアを明確にし、エリアマネジメントの考え方を導入した形で中心市街地の活性化を図るのは、初めてです」と山形エリアマネジメント協議会の佐竹優さんは説明する。

エリアマネジメントのベースとなるゾーニング図(出典/山形市中心市街地グランドデザイン)

学長同士の会話が機となった、中心市街地での“学生街”案

こうした動きの中、七日町など中心市街地に学生たちを含む若年層の「居住」を増やし、“学生街”をつくるための取り組みが始まった。空き家や空き店舗をシェアハウスやワンルームなどの賃貸住宅にコンバージョン(用途変更)して、なるべく低価格で住んでもらえるようにする。この取り組みには、山形県山形市、市内の大学、山形県すまい・まちづくり公社(以下、公社)など複数の関係者が連携している。
きっかけは、山形大学学長と、東北芸術工科大学学長の内々の話だったという。東北芸術工科大学企画広報課長の五十嵐真二(真は旧字)氏はこのように説明する。「まちなかの店舗の空きは減りつつあるものの、住んでいる人はわずかです。やはり、人が住まなければにぎわいは生まれにくいでしょう。そこから、まちなかに新たに学生街をつくってはどうかという話に発展しました。山形市は学んでいて楽しいところだという空気感をつくりたいですね」

大学も自治体も、多くの学生が在学中からに住んでもらうだけでなく、卒業後もここで就業してほしいという希望をもっている。学生獲得及び、市内に住むことで街に愛着を持ってもらうことが、人口減抑止の一手と捉えているからだ。現在、大学生の約7割が県外に住み、宮城県仙台市から高速バスで通う学生も少なくないという。仙台-山形間直通の高速バスは、7,8分間隔で走っているから無理もない。

市中心部の七日町周辺。近年、感度の高い若者が集まりつつあるシネマ通り(写真撮影/介川亜紀)

学生向け住宅増加を目指し、「住宅セーフティネット制度」を整備

山形市のまちなかでは現状、学生向けの賃料の安い住宅は多くない。そこで、大学と県、市、公社の産官学連携で、住宅や店舗などの空き家を、シェアハウスやワンルームなどの賃貸住宅にコンバージョン(用途変更)する仕組みが考えられたのだ。

課題はまず、建物のオーナーがコンバージョンに着手しやすくすることだった。コンバージョンのハードルは、金額がかさみがちな改修費用だ。これを解決するため、「住宅セーフティネット制度」を活用した。当制度は全国で展開されており、低所得者や障がい者など、住宅が借りにくい層を対象にした住宅として改修する際に、オーナーなどに改修費の一部を補助するもので、補助対象工事費の2/3、一戸あたり最大で200万円が充当される。山形県では当制度の対象に、全国で初めて、学生を含む「若者」を加えた。これにより若者を対象にした住宅への改修に、補助金が活用できるようになった。
ただし、対象の住宅として活用するためには、現行の基準を満たした耐震性が求められる。旧耐震の建物では、補助金が十分とは言えないケースも考えられるという。

もうひとつの課題は、建物のオーナーの安定した家賃収入だ。せっかくシェアハウスをつくっても、空室が続くなどして家賃が入らなければ経営は中断せざるを得ない。その対策のために、産官学連携の事業スキームも立ち上げられた。仕組みはこうだ。1.オーナーが対象となる建物を改修、2.公社がオーナーと10年間の定期借家契約を締結、3.公社はサブリース事業者として住宅を管理・運営、4.大学が公社住宅を学生に紹介し、入居をあっせん、5.学生は公社と2年間の定期借家契約を締結、6.事業期間終了後、公社はオーナーに建物を返還。返還の際、入居者はそのまま住み続けることができる。

学生向け住宅への改修・管理運営で産官学連携(資料提供/山形県

山形市中心市街地では、すでに若者が自ら空き家活用を開始

実は山形市の中心市街地では、居住用ではないものの、2014年ごろからすでに学生を含む若者たちによる空き家、空き店舗活用が始まっている。駅から徒歩20分ほど、往年は百貨店や映画館を訪れる多くの客でにぎわっていた七日町周辺だ。2014年に行われた山形リノベーションスクールのほか、東北芸術工科大学デザイン工学部の馬場正尊教授のゼミでシネマ通り沿いの空き店舗の再生に取り組んだ学生たちが、卒業後も関わった店舗の経営に携わり続け、にぎわいづくりに寄与している。長年空いたままだった物件をリノベーションDIYでコストを抑えつつ刷新し、カフェや書店、雑貨店などを経営。それだけでなく、これらの経営者らが中心となり、年2回のペースで“シネマ通り”でマルシェの開催などもする。今年6月に開催したマルシェは「日本一さくらんぼ祭り」とも重なり大いににぎわった。ちなみに、期間中の祭りの参加者は、累計27万3000人だったという。

学生時代からシネマ通りに関わり、卒業後、2014年12月に空き店舗を活用したカフェ「BOTAcoffee」を開店した佐藤英人氏はこう話す。「『BOTAcoffee』を皮切りに、毎年徐々に長らく空いていた店舗を再生した案件が増え、現在までで計8店舗になりました。並行して、シネマ通りに魅力を感じる人が集まるようになっています」

今後、山形市中心部で進む、若者を中心とした自主的な活性化の活動はどのような変化を遂げるのだろうか。
シネマ通りではすでに空き店舗が解消しつつあります。こうしたまちの活性化に関わる動きをさらに広げ、エリアリノベーションに発展させたほうがいい。まず山形の第一印象を決める駅付近まで、この動きを広げたいと思います」と、シネマ通りで「郁文堂書店」を再生した追沼翼氏は話す。
山形市全体が魅力的になることが重要です。僕は今、駅前のカフェとオリジナルメニューを共有するなどして、連携を始めています」と佐藤氏は付け加えた。

左が佐藤氏、右が追沼氏(写真撮影/介川亜紀)

BOTAcoffeeの店内。築50年の洋傘店を改修した(写真撮影/介川亜紀)

郁文堂書店。追沼氏と有志が山積みだった古い本を整理。最低限の解体をし、DIYで改修した(写真撮影/介川亜紀)

郁文堂書店の外観は昔の看板を残した。建物は約築85年(写真撮影/介川亜紀)

若者たちが自主的に仕事と仕事の拠点をつくり、今後そこに若者向けの住宅が増えて職住隣接が可能になれば、相乗効果で山形市のまちなかのにぎわいは増していくのではないか。産官学を巻き込む中心市街地活性化のひとつの方策として、注目の動きである。

●取材協力
東北芸術工科大学 
山形市商工観光部山形ブランド推進課 
BOTAcoffee
郁文堂書店
(介川亜紀)
(写真撮影/介川亜紀)