8月30日自民党の「茅葺き文化伝承議員連盟」(山口俊一会長)が菅義偉官房長官に対し、11月に行われる大嘗祭の舞台となる「大嘗宮」の屋根材を「茅葺き」にするように要請し、官房長官は「内部で検討してみる」と返答した。

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 この議員連盟は、5月に国際茅葺き会議が日本で初めて開催されたことに触発されて5月30日の設立総会で結成されたばかりである。

 大嘗祭に関しては、経費削減のために大嘗宮の屋根材が「板葺き」で造営される方針であることから、歴代の大嘗宮が「茅葺き」であったことに鑑み、文化伝承の立場から申し込んだというわけである。

 国際会議が動機となり議連が結成されたというのは、伝統や文化に対する議員たちの感性の鈍さを示して余りあるが、文化伝承を「茅葺き」に限定した点も視野狭窄症と言わざるを得ない。

「文化伝承」となれば「茅葺き」もさることながら、まず頭に浮かぶのは麻文化(正確には大麻草文化?)である。

 麻は古来、祭祀をはじめとして、日本人の日常生活に欠かせない素材であった。大嘗祭においても麻が重要な役割を果たす(区別のため大麻草をヘンプ、嗜好品をマリファナということもある。また大麻の麻と痲薬の痲は本来は異なる)。

 しかし、戦後は大麻取締法によって許可制となり、1950年には栽培者が2万5118人(作付面積4049ヘクタール)いたが、2005年は68人(同9ヘクタール)でしかない(赤星栄志著『ヘンプ読本 麻でエコ生活のススメ』)。

 しかも、大麻取締法は「立法目的」のない欠陥法律とも言われるくらい現実と乖離している。20世紀の石油化学が大麻を一掃したが、環境の悪化から再び大麻が国際社会の注目を浴びている。

 立法権を有する議員たちが尽力すべきは、日本文化を抹殺してきた悪法の見直しによる文化伝承と産業開発の促進ではないだろうか。

大麻は「健康上は問題ない」

 大麻がどんな精神的作用を及ぼすかによって、大麻の有用性や有害性などが科学的に検証されることが大切である。

『大麻アレルギー』の著者である武田邦彦氏は、権威ある機関が大麻に含まれ嗜好性となる「カンナノール」の精神作用について、「はっきりした医学的な研究報告」は全部で4つあるとし、下記を挙げている。

インド大麻薬物委員会(1893年):インド植民地にしていた英国政府がインド大麻の及ぼす身体的および精神的影響について2年がかりで調査した

②ラ・ガーディア報告(1940年):米国で大麻課税法が成立した直後に、「大麻は痲薬性がないのではないか」と疑うニューヨーク市長がニューヨーク医学アカデミーに要請し、4年がかりで行った報告

③世界保健機構(WHO)の報告書(1970年):ベトナム戦争を機に大麻が流行した結果、「大麻は若者の健康を大きく損なうもの」という時代背景下にWHOの要請で11人の学者が討論した

④シィーファ委員会(1972年):ニクソン大統領の要請による委員会

 以上の①②③の報告では「大麻は健康上は問題がない」という結論であった。

 そこで、「大麻を厳しく取り締まらなければならない」との意識をもっていたリチャード・ニクソン大統領は委員の過半数を自ら選任してシィーファ委員会を立ち上げた。

 ところがこの報告も「通常の摂取量ではマリファナの毒性はほとんど無視してよい」という結論であった。

 大統領は「烈火のごとく怒り、自分が作った委員会の報告書の受取りを拒否」するが、科学的事実は変わらないし、武田氏は政治的圧力をはねのけて「正しく学問的な判断を行ったのは、高く評価でき」るとしている。

 その後も米国では1975年の大麻についての医学的な会議や1991年ハーバード大学の調査などの主に医学系で研究会が開かれているが、「シィーファ委員会の結論と異なる結果は得られていません」という。

入り口(ゲートウェイ)論も誤り

 大麻が健康上は問題ないとされても、ベトナム戦争時の米国の社会的運動では「大麻は痲薬ではないが、若者が痲薬を使うキッカケになる」という「入り口論」があった。

 そこで、WHO報告はその点も検証し「大麻がきっかけになって、ヘロインなどの痲薬につながることはない」と否定した。

 現に、日本の大麻生産業者は何の囲いもなく通常の畑に栽培しており、誰でも接近できる状況である。極言すれば、普通には見向きもされない嗜好品(マリファナ)ということである。

 以上の事実などから、武田氏は大切なことを結論(意味を違えない範囲で簡略化)として以下の3つに纏めている。

 1つは、「マリファナは、嗜好品の中では、お酒、たばこ、コーヒーより習慣性、痲薬性が弱い。さらに大麻が痲薬の常習への入り口になることはない」

 2つ目が「今まで日本では、大麻を法律で規制すべきかどうかの科学的、社会的な検討がなされていない。特に、日本人の目から見ると、大麻を規制することは、日本の長い歴史の伝統に反する」

 3つ目は「大麻が麻薬かどうかという議論は混乱を呼ぶだけである。『大麻』が問題なのではなく、大麻草に含まれ精神的作用をもつ化合物カンナノール』に注目しなければならない」

伝統・文化を無視する日本

 科学的知見ではほとんど無害ということが示されたにもかかわらず、日本は厳しく取り締まっている。

 米国も連邦政府では禁止しているが、13の州政府とワシントンDCが解禁しており、連邦政府も同様な方向を追求するのではないだろうか。

 そうなると、最も古い伝統文化を有する日本のみが、GHQ(連合国軍最高司令部)の取り締まりを受けて洗脳された結果か、法改正の面倒さや取締官の失業防止など官僚の怠慢と都合からか、厳しい取り締まりを続けているとしか言いようがない。

 そもそも、日本には5000年前から大麻が自生していたとされ、祭祀や吊り蚊帳、草履・下駄の鼻緒など日常品として欠かせないものであった。

 麻の実から採れる油や繊維を採った後の茎、いわゆる苧殻(オガラ、麻幹とも)が灯りを得るための重要な素材として知られていた。

 飛鳥・奈良時代に仏教が広がると、大麻の燈火を用いた法儀も行われたという。戦後もお盆の迎え火送り火を焚くのに使われ、懐炉用の灰の原料でもあった。

 こうした神事・仏事をはじめ、日常の多肢にわたって使われていたが、今日は石油製品でほとんど代替えされるに至っている。

 ところが、二酸化炭素による大気汚染やプラスチック公害などによる環境問題が浮上するに従って、衣食住や燃料など、ほとんどの分野で活用でき、環境にも優しい麻が注目されるようになってきた。

 しかし、日本は科学的根拠を一切示さないまま、大麻取締法で許可制にしている。

大嘗祭は伝統見直しの節目

 大嘗祭に関しては秋篠宮殿下が「身の丈にあったやり方で」というご意見を発されたが、内廷費ではどんなに見積もっても実行不可のため全面的に採用されることはなかった。

 ただ、経費節減の趣旨は「板葺き」屋根などに生かされたのかもしれない。

 明治の頃は、建艦の必要があるが資金が不足すると陛下が御内帑金を差し出されることもあったが、今日では日々の御活動にさえ困難をきたされるくらいである。

 高給を食む議員たちが歳費からわずかに捻出寄付して一世一代の大嘗祭を古式に則り行えるように努力してはいかがなものかと思わないでもない。そうすれば、殿下の御心配も軽減されるに違いない。

 ところで、大嘗祭は新天皇が即位後に初めて行われる新嘗祭のことで、在位間にただの一度だけである。

 スメラミコトである天皇が着用される神事用の衣服が大麻からつくられた「麁服(アラタエ)」といわれる皇祖神の神衣で、阿波の忌部氏が栽培した大麻が加工されて皇室に献上されてきた。

 なぜ大麻か。大麻は日本の古神道文化において、古代から「依り代」といわれ、すっくと天に伸びるところからであろうか神々が寄って来るところとされ、御神事に欠かせない。

 大嘗祭ばかりでなく、天の岩戸に隠れられた天照大神を呼び出すために、岩戸の前で八百万の神々が集い歌舞音曲を協奏してお祭りを行い、大麻を取り付けた榊の太御幣を奉る。

 葦原中つ国に神々が降臨される時の依り代も大麻であり、また神社で鈴を振って願い事を天に届ける鈴紐も大麻であり、神社の注連縄は当然ながら大麻で作られている。

 地方における神社の荒廃、神楽など祭祀文化の廃れも、案外麻の使用制限が関係しているように思えてならない。

大麻草の「生産性」は莫大

「生産性」と言えば、LGBT関連で議論が沸騰し、『新潮45』の廃刊に繋がった。

 いつの頃からかポリティカル・コレクトネス(PC、政治的正義、政治的正当性など)が強調され、少数者意見の過剰保護となり、民主主義の基本にされてきた多数決原理をさえ排除しかねない状況である。

 そうしたところに、本音でPCを一蹴するような発言をするドナルド・トランプ大統領が出てきた。世界の警察官を降りたとしても、声高に言わないのが従来の大統領であった。

 そこに身もふたもない「アメリカ・ファースト」「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン」と平気で言ってのけ、米国第一主義を高々と掲げたのである。

「生産性」を印象付けるためにLGBTを出し、PCを取り上げた。大麻取締法を再検討せよというのは勇気が要り、PCに反しかねない発言である。

 しかし、今や事実は事実として述べなければならない。日本の大麻は「社会的には痲薬と錯覚されているが、本当は痲薬作用がない」(武田氏)と。

 近代社会を発展させてきたのは石油化学であると言っても過言ではない。エネルギー分野のほとんど、そして衣食住の多くも石油製品である。

 その石油(原油)は2億年をかけて生成されたが、需要の拡大で枯渇が心配され、他方で二酸化炭素の排出は環境汚染の原因ともなっている。

 また、近代化は建築や紙などの需要を拡大した。その原料は主として樹木である。今や何十年、何百年を掛けて成長した原生林の樹木も伐採され、地球環境の悪化に拍車をかけている。

 ところが、石油化学や樹木がもたらした恩恵に代わる素材が大麻草(ヘンプ)である。しかも半年で生育し環境に順応する植物である。

 2億年や何百年単位で生成した素材を、半年で生育する素材で代替えでき、しかも環境改善に有用となれば、「夢の実現」であり、世界が見逃すはずがない。

 現在は合成繊維の普及、生活の欧米化、大麻取締法による利用制限などから、目に触れるところでは横綱の化粧まわし、神社の注連縄と鈴縄くらいでしかない。

 しかし、ヘンプが解放されるとありとあらゆる製品が作られ、その数は2万5000種類の生活用品・工業製品に上るとされる(赤星氏)。

 衣料、食品、化粧品、紙、建材、複合素材、燃料、潤滑油、肥料、飼料、敷き藁など石油資源と木材資源の代替えができ、生活習慣病を予防するための食品や化粧品ができる。

 葉や花穂も利用できれば、医薬品、抗菌剤、天然農薬、ハーブ茶、香料も作れる。

 ざっくり言って、大麻草ほど生産性の大きいものはない。21世紀は「大麻草の世紀」といっても過言ではないかもしれない。

議員連盟には発想も勇気もないのか

 戦後も中国、ソ連、北朝鮮など多くの社会主義国資本主義国のフランス、韓国は栽培を続けてきたし、1993年には英国、94年にはオランダ、96年にはドイツオーストリア、2002年には豪州とニュージーランドがヘンプの栽培を解禁した。

 栽培禁止は米国のみであるが、先述のようにすでに州レベルでは解禁が進んでおり、大統領選に名を連ねている民主党の大物議員たちは解禁の方向だとされる。

 大麻栽培を許可制にしているのは日本だけである。戦前まで大麻は日本の歴史そのものであったが、戦後の悪法によって文化伝承が困難に直面している。

 大麻草は環境改善に役立ち、生活用品に加え、産業製品や医療への応用で20兆~30兆円規模(日本たばこ産業の5倍)の収益も期待できるとされるほどである。

 これを制約しているのが科学的根拠も示しえないで、法律に「目的」記載さえできない悪法の「大麻取締法」である。

 泥縄的に立ち上げた「茅葺き文化伝承議員連盟」から、茅葺きも麻文化も含めた幅広い文化に思いをいたし、麻文化を毀損している悪法を改廃するくらいの勇気をもって「文化伝承興業議員連盟」(仮称)位に早急に改称してはいかがであろうか。

「社会に害をもたらさないことが分かっている大麻、単に植物の名前である大麻を厳しく規制し、それによって無用な犯罪者を増やしている社会こそ、異常である」(武田氏)を追記して、議員たちに勇気を喚起したい。

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