破竹の勢いで快進撃を続ける飲食業界の風雲児、HUGE。

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 最終回の今回は、流行すたりに影響を受けない経営の在り方について聞いた。一過性のブームに乗るだけでは、人は育たないし会社も長続きしない。

 100年続く会社を目指すには何が必要なのか。そこには、飲食業界のみならず、日本の多くの企業が参考にできる秘密があった。

 前回の記事はこちらから=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57125

インタビュー:川嶋諭、編集:松浦由希子

飲食産業とHUGEの未来

 街の中のリテール、ホスピタリティー産業というのは、あまり変わらないというのが僕の持論です。

 レストランで言えば、業界規模は26兆円くらいで行ったり来たりしている。

 1997年の29兆円がピークで、それもバブルとは関係ないんですね。そこがほかの業界と大きく違う。

 例えば昔は、田舎の町を歩けば、十字路の角には必ずガソリンスタンドがあったのに、今では、ガソリンスタンドの数はピーク時の20%になっている。ものすごい減り方ですよね。

 でも外食はもっと生活に密着しているから、レストランの市場規模が10兆円になるかと言ったら、ならないと思うんです。

「この街でお店をやってくれてありがとう」
と言われたい

 もちろん、中身は変わっていて、フランチャイズ経営が広がったり、お店をREIT(不動産投資信託)として売ったり、ビジネスモデルは近代化されている。

 市場規模が大きく変わらなくても、お店はそれこそ激しく入れ替わります。

 そうしたなかで、最後に残るのは、必要とされる店しかないと思うんです。「この街でお店をやってくれてありがとう」とお客さんに言ってもらえる店です。

 店側のロジックで「流行そうだから」「流行っているから」と出す店が多くて、例えば、今はここ原宿界隈を歩いていてもタピオカの店ばかりですよね。

 これを否定するつもりはないんです。街にはトレンドも必要ですから。でも、そういう店は一時的だから、僕には無理です。

 息の長い商売をやりたいと思ったら、本当に残る可能性が一番高いのは、その街にしかない店だと思うんです。

 そう考えると、僕の狙うマーケットはそんなに大きくない。これまでも仙台など各地に、「この街にはこれがいいよね」と考え抜いて出店してきました。

 そういう店を「いいね」と言ってくれるお客さん、将来ステークホルダーになってくれる方々が「この価値観のなかでは、新川のところが一番だよね、巨大だよね」と言ってくれる会社になりたい。

 社名のHUGEは、そういう意味での巨大ということなんです。

 ただ大きくなるならフランチャイズが手っ取り早いけれど、本当の意味で「一番デカいもの」を、それも長くやっていくのに、フランチャイズでできるのか――。

 そこに僕は一石を投じたいと思っているんです。

新川商店からの脱却、「I」が「We」に

 起業する時から「長く続く組織」と併せて掲げているビジョンが「従業員が辞めない会社」です。

 食堂の息子だった原体験から来るのかもしれませんが、長く商売をやって、お客さんに可愛がられるのが自分たちの幸せにつながることが身に染みて分かっている。

 だから、従業員は家族みたいなもの。その従業員が安定した労働力になってくれるからこそ、会社はまた新しいことができる。

 なので、HUGEでは、インセンティブとして多少の実力主義を取り入れながら、安定した給料を出すことをまずは大事にしています。

 安定した給料が出るから、人は家庭を築いて、子供を持てるんですから。

 思い返せば、HUGEの株式をベンチャーキャピタルからすべて買い取った頃に、考え方がものすごく変わったような気がします。

 それまでは、人に仕事を聞かれたりすると、「俺が」「俺の店が」と言っていた。以前は新川商店だった。それは当然ですよね。命をかけてやっているんだから。

 当時は多額の借金も個人保証していましたし、1億円借りる時には、本当に毎回手が震えました。

 でも、全株を買い取って、新川商店から僕らの会社になった時に、経営のステージが変わったんだと思います。

 いつの間にか、「我々の店」「我々の会社」と言うようになっていた。「I」から「We」になって、「My company」から「Our company」になった。

 社員のため、という気持ちはもともとあったけれど、その意識がもっと強くなったと思います。

60歳で社長は辞める

 僕は42歳で起業した時に、60歳まで18年頑張る、そのあとは後継者に譲ると宣言しました。

 形は何でもいいんです。もし、僕が60歳になっても、まだしばらくいてほしいなら新社長とダブル代表取締役の会長になってもいいし、代表権のない会長でもいい。あるいは、たまに会社に来る相談役でもいい。

 創業者なので何らかの形で会社にはかかわり続けますが、その3つの選択肢から選んでくれればいい、とみんなに言ってあります。

 当然ですけど、後を継いでくれる人がいないと会社は成り立たない。

 僕は最初から長く続けられる組織にしたいと思って、「100年品質」という言葉を掲げてきました。100年続く会社、100年品質を保てる会社です。

 100年と言ったら、3世代ないとできません。

 もう一つ、会社を親族に継がせないことだけは決めています。

 もしかしたら僕に娘しかいないからかもしれません。でも、会社は私物じゃないんだし、今一緒にやっている仲間から僕の後を継ぎたいと思う人が出てきてほしい。

 世襲をせず、会社にとって一番いい人材に後を継いでもらう。ホンダの創業者の本田宗一郎さんにしてもそうでしたが、それってやっぱり、カッコいいじゃないですか。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  レストラン経営の極意は一度来たお客を戻すゲーム

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