これまで数々の作品が映画化やドラマ化され、もはや「メディアミックスといえばこの人!」と言われるほどの人気作家として知られる東野圭吾。2018年に劇場公開されて話題となった『人魚の眠る家(2018)』(9月14日夜8:00 WOWOWシネマほか)ほか、東野原作の映画がWOWOWで9月に放送される。

『人魚の眠る家』

読書の秋にちなみ、ベストセラー小説の映像化作品を一気見するのに打ってつけのタイミングともいえるこの季節。東野作品の特徴といえば、本格ミステリーからサスペンス、SF、ラブ・ストーリー、ヒューマン・ドラマなど、硬軟織り交ぜた多彩なジャンルと、魅力的な登場人物、予想もつかないどんでん返し、人間の心の闇に迫る丁寧な心理描写などが挙げられる。

そんな東野圭吾原作の映画の中から、まずは涙なくしては観られない作品を紹介しよう。作家デビュー30周年を記念して彼が書いた同名小説を、「トリック」シリーズや「SPEC」シリーズなどで知られる堤幸彦監督が、篠原涼子西島秀俊のW主演で映画化した『人魚の眠る家』。

愛する我が子がプールで溺れたことがきっかけで“脳死”状態に陥るという過酷な状況下で、究極の選択を迫られることになった夫婦の姿を描く。原作は発売から1カ月で27万部を売り上げ、累計110万部を突破したベストセラーだ。

善悪の価値観を根底から揺るがす“東野ミステリー”の真骨頂ともいうべき要素が詰まった本作は、第31回東京国際映画祭でお披露目されるやいなや、国内外の観客に衝撃を与え、老若男女の感涙を誘っていたことも記憶に新しい。

奇跡を信じ、狂気ともいえる行動で我が子を守り抜こうとする母親を演じる篠原と、前例のない技術で娘を救おうと手を尽くしながらも、次第にエスカレートする妻の常軌を逸した姿に深く苦悩していく夫に扮する西島の迫真の演技が、観る者の心をつかんで離さない。

篠原&西島のみならず、自らの技術に妄信的になっていく若き研究者を演じた坂口健太郎、罪の意識にさいなまれる祖母役の松坂慶子など、豪華キャストが織りなす物語の世界に引き込まれる。脳死状態となった娘や弟、従妹を演じた子役たちの繊細な演技に、深く考えさせられてしまうのだ。

キャッチーなエンターテインメント作を放つ一方、同じく東野原作の『天空の蜂(2015)』でも骨太な人間ドラマを手掛けてきた堤監督のもと、俳優とスタッフが一丸となって生み出したとてつもないパワーに圧倒され、魂を揺さぶられること間違いなしの1本だ。

2本目は、全世界で1200万部を超えるベストセラーである東野の小説をもとに、中国人のハン・ジェ監督が映画化した『ナミヤ雑貨店の奇蹟-再生-(2017)』(9月9日15:15 WOWOWシネマ)。

原作は、過去と現在がつながる不思議な雑貨店を舞台に、現実に背を向けて生きてきた若者と、悩み相談を請け負う雑貨店店主の時空を超えた交流を描き、東野作品の中でも「最も泣ける」と評判を呼ぶ爽やかな感動作だ。

山田涼介西田敏行の共演で廣木隆一監督が映画化した日本版が、2017年末に中国全土で公開されて大ヒットを記録したことから、舞台を中国に移して再び映画化された。

実際、東野作品は中国でも多くのファンを持ち、「中国で最も稼ぐ外国人作家ランキング」で長年トップに君臨し続けた「ハリー・ポッター」シリーズのJ・K・ローリングを抜き、2017年にはついに東野圭吾が1位となったというから、当地での知名度の高さと影響力は絶大だ。

日本版では西田敏行が演じた雑貨店店主をジャッキー・チェンが老けメイクで演じるほか、ワン・ジュンカイ、ディルラバ・ディルムラット、ドン・ズージェンら中国の若手スターが共演。さらにロウ・イエ監督作品でお馴染みのチン・ハオなど、豪華な顔ぶれが揃っている。

原作との読み比べはもちろんのこと、日本版映画と見比べてみるのもオススメだ。ところどころにお国柄の違いが垣間見えるのも面白い。

「もっと東野作品の映画を観てみたい!」という人に向けて、WOWOWでは近年に劇場公開された上記2本に加え、少し懐かしい『g@me.(2003)』(9月23日9:45 WOWOWシネマほか)と『レイクサイド マーダーケース(2004)』(9月17日夜11:00 WOWOWシネマほか)もラインナップしている。

『g@me.』は東野圭吾の小説「ゲームの名は誘拐」をもとに、藤木直人仲間由紀恵の共演で井坂聡監督が映画化。

映画化にあたり狂言誘拐をテーマに繰り広げられる“ゲーム”の結末部分や、登場人物の性格などが大幅に変更されており、映像化作品ならではの演出が見どころだ。

レイクサイド マーダーケース』は、小説「レイクサイド」を原作に青山真治が監督を務めた、役所広司薬師丸ひろ子の共演作。

名門中学受験のために壊れていく家族の様子を、青山監督が深沢正樹と共に独自に脚色しており、こちらも『g@me.』同様、原作とはひと味違った展開が楽しめる。

秋の夜長、東野圭吾ワールドに思う存分ドップリ浸かってみてはいかがだろうか?

■ 文=渡邊玲子

インタビュアー・ライター。「DVD&動画配信でーた」「cinefil BOOK」「マイナビニュース」などでインタビュー記事やレビューを執筆中。国内外の映画監督や役者が発する言葉に必死で耳を傾ける日々。(ザテレビジョン

『人魚の眠る家』