電影少女 -VIDEO GIRL-」シリーズ(2018、19年、テレビ東京ほか)やバーチャルYouTuberドラマ「四月一日さん家の」(2019年、テレビ東京ほか)など、話題のドラマを数多く手掛けてきたテレビ東京プロデューサー・五箇公貴氏にインタビューを実施。前後編でお届けする。

【写真を見る】水風呂でくつろぐナカタ(原田泰造)

インタビューの前編では、現在放送中のドラマ25「サ道」(毎週金曜夜0:52-1:23、テレビ東京ほか)の制作の裏側や、撮影中のエピソードについて話を聞いた。

■ 「サ道」ドラマ化までの道のり

――以前からタナカカツキさん原作の「サ道」がお好きだったとお聞きしました。

若い頃からタナカカツキさんがすごく好きで、「バカドリル」「ブッチュくん大百科」「オッス!トン子ちゃん」などをよく読んでいたんです。カツキさんは、CG作品も出されていて、それも拝見していてすごく才能ある方だなと憧れていました。

そして、僕が(プロデューサーとして)駆け出しの頃、「やりにげコージー」(2004-05年、テレビ東京)という番組を伊藤(隆行)P(「モヤモヤさまぁ~ず」「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦」他多数)と立ち上げることになり、アートワーク関係を大好きだったタナカカツキさんにお願いしたんです。そこで初めてカツキさんとお仕事をしたのが始まりです。

――今回、「サ道」をドラマ化した理由は何だったのでしょうか。

2011年にパルコ出版からエッセイとして「サ道」が出たときに、すぐに買いました。「またカツキさん、すごい“ところ”に行っているな」と思いましたね。でも、その時は映像化には至らなくて。その後、漫画になったのが2016年。そこからいろいろな人が(「サ道」ドラマ化の)企画を持ち込むことが多くなり、目にすることもあったんです。でも「サ道」を映像化するには、具体的にどうしたらよいのかという明確な方法論が当時はありませんでした。

――そこからどのように進んでいったのでしょうか。

1年前に監督の長島翔さんが僕に「サ道」の企画書を持ってきたくれたところからスタートしました。長島さんは、すごくセンスが良く、音楽や文化はもちろんサブカルも通っている業界では珍しいディレクターさんです。私としては大好きなカツキさんの「サ道」ですし、もし映像化できるなら自分が、と思っていたのですが、やっと「この方とだったら一緒にやれるかもしれない」と思えるのが長島さんでした。これは大きかったですね。

もう一つは、今テレビ東京の深夜ドラマの傾向として、「孤独のグルメ」(2012年ほか、テレビ東京)以降、毎週ストーリーを追っていくというものではなく、ドラマのストーリーとは別にテーマがあって、主人公がそれに対してアプローチしていく、そしてそのアプローチするものに対して(視聴者の)皆さんが興味を持っていくという形が定着してきたことが大きいです。地上波だったら「孤独のグルメ」だし、BSだったら「ワカコ酒」(2015年ほか、BSテレ東)とか。

そして、サウナもいろいろな施設に細分化されるなど、今ブームがきています。

(会議では)いろいろな人が企画を持ち寄ってきますから部内で検討する際、「何が今、一番時代と合うのか」と考えたときに今こそ「サ道」を映像化するべきと主張しました。

■ キャスティング秘話も…

――キャストはどのように決まっていきましたか。

ドラマの柱を決める最初の頃のミーティングで、僕も監督もサウナが好きだったので、「スタッフも、キャストもサウナが好きな人たちで作ったドラマ」というのをテーマに掲げたらどうかという結論に至りました。

そこでサウナ好きの人は誰がいるだろうと調べて、その1番上に原田泰造さんがいました。泰造さんがサウナをお好きだということは聞いていましたし、(もう一つの理由として)泰造さんは、すごくフラットに色んな役になれる方だなと思いまして。

サウナに行ったことのない人がドラマを見て「サウナに行きたい」と思うのがこのドラマのゴールだと考え、サウナ好きだけど初心者的な演技アプローチもできる泰造さんにオファーさせていただくことになりました。

――イケメン蒸し男役の磯村勇斗さんは、本作に出演するまであまりサウナに入ったことがなかったとお聞きしました。

磯村さんがTwitterで「スーパー銭湯に行ってリラックスした」とツイートをしているのを見て、「この方は素質があるな」と思いました(笑)。話を聞いてみたら、スーパー銭湯や温浴施設に行くのが大好きだと言っていて。でも、今はすごいですよ! (サウナを)極めていますから!

泰造さんもすごいんです。先日のイベントで、「泰造さん、この後どうするんですか?」と聞いたら、明日浅草の現場が早いから上野にある(本作にも登場するサウナ施設)北欧に行って一人で泊まって、サウナに入ってから行くっておっしゃっていました(笑)。

三宅(弘城)さんも昔から地方公演とかで全国各地の施設に行ってはツイートされてますし。そんな2人に(サウナの)超英才教育を受けた磯村さんは、完全に“染まって”いて(笑)。

2人からも素質がいいって言われていました。「この子は伸びる」って(笑)。磯村さんは、吸収するのも早いし、フットワークが軽いからどんどん行くんです。「あそこサウナはどういう水質だ」とか、「湿度や水温がいくつだ」とか。ピュアサウナー磯村くんが“リアルサウナー”に変化していっているので、頼もしいです。

――普通のドラマとはキャスティング方法も違ったということですね。

サウナ好き芸能人一覧を会議で用意して、それをベースに話し合いました。私の作品はオーディションが多いんですけど。

■ 撮影で大変だったことは意外なこと…

――撮影中、大変だったことはありますか。

サウナでは普通タオルを腰に巻き付けるってことはしませんよね。でも、ドラマやバラエティーでは、腰にタオルを巻き付けていることが多いです。監督の意向で今回はそれをやめようということになりました。エキストラの方も10人~20人いますが、普通にタオルを置くだけという演出にしているのでたまに見えちゃったりするんです(笑)。それを現場でチェックしていく作業が大変でした。

(メインキャストの)3人も最初は前貼りを付けていたんですが、途中から面倒くさくなって付けなくなるんです(笑)。そうすると、それが見えて撮り直しみたいなことは結構たくさんありました。このドラマならではの大変さですね。

――裸での撮影を1日中行うのは大変そうですね。

大変ですけど、楽しそうでしたよ。(普通演者さんは)サウナ室の撮影が終わったら控室で次の出番まで休んでもらい、その間にお客さんの様子やサウナストーブの寄りを撮ったりします。

でも泰造さんは、ずっと大浴場にいるんです(笑)。「いいんですか?」って聞いたら、にこにこしながら「いいんですよ」って。ちょっと暑くなったら外の外気浴スペースで休憩したり、水分補給したりして、控室に戻られないんです。

「最高だぁ~、この仕事」とか言って(笑)。とはいえ編集してみると、きちんと細かい芝居をされていますし、そういう意味でもこのドラマは、泰造さんにとって“天職”なんじゃないか思います。

ちなみに、私たちもエキストラで裸になってサウナに入っています。スタッフ全員やっているんですよ(笑)。どこかに映っているので、分かる人には分かると思います(笑)。

――撮影中の印象的な出来事を教えてください。

泰造さんは本当にサウナがお好きなので、撮影に前乗りしてくるんです。前の日からサウナに泊まっているから、誰よりも早く現場に来ている(笑)。

ある時、撮影の前日にまた前乗りしようと思ってサウナに来たら、いっぱいで入れず、別のサウナに泊まったそうです(笑)。

現代社会の新しいストレス解消法とは…

――五箇さんにとってサウナとは「行き詰まったらいくところ」とお聞きしました。

サウナは、中に携帯を持っていけないし、遮断された空間の中で自分と向き合うことができます。この殺伐とした現代に生きてると毎日何かしらストレスってあるじゃないですか。

でも熱いサウナ室でじっくり自分と向き合い、キンキンの水風呂に入ってクールダウン。そしてゆっくり休憩。これを3回程繰り返すと自分を解放できる。それで行き詰ったことも忘れられます。ご飯を食べてストレスを解消する「孤独のグルメ」に対し、本作は、サウナに入り“ととのって”ストレスを解消する現代のドラマという位置付けもあるんです。

――現代社会の新しいストレス解消法を提唱しているのですね。

私はサウナで“ととのって”から仕事の打ち合わせをしたり、会食に行ったりすることもあります。そうすると「まぁ、いっか。なるようになるさ」という気持ちになれます。

仕事のプレッシャーから解放されるというか。なので私は働き方改革、ワークライフバランスをとる上で欠かせない存在がサウナなんじゃないかと思っています。

■ 第8話(9月6日[金]放送)のあらすじ

都内で働くミズキ(小宮有紗)は、週末になるとサウナを求めて各地を訪れている。今回も仕事終わりに“おしゃれな女性が集まるサウナ”のため、新幹線名古屋にやって来た。ミズキはビルの中と思えない北欧テイストの店内やおしゃれな雰囲気に感動しながら、サウナを満喫していると、とある二人組の女性と出会う。(ザテレビジョン

「サ道」について熱く語る五箇公貴プロデューサー