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 合成生物学(生物学と工学の学際的な分野)は人類を病気から救うだけでなく、衣服のあり方までガラリと変えてしまうかもしれない。

 今回紹介するのは、山形県鶴岡市に拠点を置く「スパイバー(Spiber)」というスタートアップ企業がついに販売を正式に発表したダウンジャケットだ。

 パッと見、確かにオシャレデザインなのだが、特に何かが変わっているという印象はない。

 だが、この「ムーン・パーカMoon Parka)」は、遺伝子を改変したバクテリアが紡ぎ出したクモの糸で作られているのだ。


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自然界で最強の物質とされるクモの糸が抱えるひとつの難題

 すぐにプツリと切れてしまいそうな感じがするのとは裏腹に、クモの糸は自然界で最強の物質のひとつだ。

 同じ太さの鋼より5倍も強く、ケブラーの3倍丈夫で、しかもカーボンファイバーよりも軽い。まさに驚異の特性であって、これに目を付ける人が現れるのも不思議はない。

 クモの糸の強靭さはかなり昔から知られていた。例えば1709年、太陽王・ルイ14世は、手間暇かけて集められたクモの卵嚢から紡がれた、クモの糸で編まれたストッキングを贈られている。

 ネバネバしないんだろうか?という着心地への懸念は別にしてもクモの糸にはひとつ難題があった。

 ルイ14世にストッキングを贈ったフランシスザビエル・ボンはその1年後、英王立協会への手紙の中でクモの糸を賛美しながら

唯一の難題は、そこから物を作るための十分な量を確保することである

と述べている。

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image credit:Pixabay

バクテリアが紡ぐクモノスで作られた機能的なダウンジャケット


 では、クモの糸に目をつけたスパイバー社は、それを入手するという厄介な仕事をどのように行っているのだろう。

 どうやら少々変わったやり方を取っているようで、なんとバクテリアに作らせるのだ。それが合成タンパク質素材・クモノス(QMONOS)である。

 2015年、同社はスポーツ用品を製造販売するゴールドウインと提携し、その商品化へ向けたプロジェクトを始動。

 アウトドア用品ブランドザ・ノース・フェイスと提携し、「アンタークティカ・パーカ(ANTARCTICA PARKA)」を元に、4年の歳月を経てついに完成したのが「ムーン・パーカ」なのだ。

 「ムーン・パーカ」は完全防水でありながら、透湿機能も備え、その機能性はザ・ノースフェイスの最上級ラインサミットシリーズ」と同等だそうだ。

 デザイナーは、その優れた機能性ゆえに、いつの日か月面基地で暮らす宇宙飛行士にも採用されるかもしれないとコメントする。

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長い年月をかけて開発された50年ぶりの大発明と評される素材


 驚異的な機能性だけでなく、「ムーン・パーカ」に使われるクモノスは、ポリエステルやナイロンに替わるかもしれない画期的な素材でもある。

 クモノスは遺伝子を改変したバクテリアによって紡がれる。そのバクテリアに与えるエサも、農業廃棄物から抽出した糖分だ。

 こうした製造法ゆえに、化石燃料由来の製品とは違って持続可能であり、それゆえに素材の分野では50年ぶりの大発明と評されるすごいものだ。

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 それでも開発に4年もの歳月が必要だったのは、クモノスには水に濡れると縮んでしまう「スーパーコントラクション」という性質があったためだ。

 「ムーン・パーカ」はアウトドアでの着用が想定されているために、水で大きく変形してしまっては使い物にならない。

 そこでバクテリアの遺伝子を解析して、この収縮性を排除する遺伝子設計を考案することで、この難題をクリアしたそうだ。

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50着の数量限定で発売される「ムーン・パーカ」のお値段は?


 「ムーン・パーカ」は2019年12月12日に50着の数量限定で発売される。お値段は15万円(税抜)とのこと。

 カラーはムーン・ゴールド、S・M・L・XLの4サイズ展開。10月31日14時まで公式サイトで先行抽選予約受付中だ。

 また、今回の発表のタイミングで、スパイバー社の第一弾商品となるTシャツも発売。ただし、こちらは250枚限定の抽選販売ですでに完売している。

 逃してしまっても悔しがる必要はない。嬉しいことに、スパイバー社はすでにタイ工場の建設に着手しており、今後さらに生産が拡大される見込みだ。

 近い将来、クモの糸で織られた衣服が化石燃料由来の繊維を駆逐してしまうなんてこともあるのだろうか?

References:Spiber / Official Moon Parka page / Zme scienceなど / written by hiroching / edited by usagi

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52282132.html
 

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