―[2020 TOKYOに輝く女神たち]―


<第2回>及川栞(女子ホッケー日本代表さくらジャパン」)

オランダ移籍、アジア最優秀選手、そして東京

 東京五輪で5大会連続5度目の五輪出場を果たす女子ホッケー日本代表さくらジャパン。過去4大会は予選を勝ち抜き五輪出場を果たしたものの、’04年アテネ大会の8位が最高とメダル争いとは無縁だった。

 しかし、東京五輪に向け海外遠征を増やすなど、強化を進めるなか昨年はアジア大会決勝でインドを破って初優勝。今年7月には世界ランク1位オランダリオ五輪金メダルイギリス(同4位)をホームに迎えて、それぞれ2試合を戦い2勝2敗。世界最強といわれるオランダにはいずれも惜敗(●2-3、●1-3)したものの、イギリスには連勝(〇1-0、〇3-2)するなど、1年後の本番に向けて確実に力を付けていることを印象づけた。

 そんなさくらジャパンの注目選手の1人が、昨季まで強豪オランダ1部リーグの新鋭クラブ・オラニェ・ロートで3シーズンプレーし、今夏サッカークラブで知られる「東京ヴェルディ」が新設した女子ホッケーチームに加わったDF及川栞(30歳・岩手めんこいテレビ)である。

 昨季はアジア大会優勝に貢献するなどアジア最優秀選手にも選出された及川が帰国したのは、もちろん東京五輪を睨んでのこと。昨今、多くの日本人アスリートが更なる成長を目指して海を渡るケースが多いが、そうした流れに逆行して日本に戻った理由について及川はこう話す。

「正直、オランダプレーを続けたい気持ちもありました。ただ、自分は新しいことにチャレンジするのが好きだし、東京ヴェルディの女子ホッケーも新しいチャレンジで、自分のやりたいこととマッチした部分がありました。それに、これからの1年は日本代表での合宿も増えますし、オランダにいるとほとんど合宿には参加できない。戦術的な練習も増えるなか、果たして東京五輪の直前に合流して不安なく臨めるのか、自分自身に問いかけました。

 監督(ホッケー女子日本代表監督のアンソニー・ファリー氏。リオ五輪カナダ男子代表を率いたオーストラリア人)とも相談しましたし、私としてもやっぱり最高の状態で東京五輪に臨みたいという思いが強かった。そこで、この3年間は個人の技術を高めてきましたが、残りの1年は代表の活動を優先しようと思ったんです」

リオ五輪代表落選、オランダに渡り無我夢中でボールを追いかけた

 及川は前回のリオ五輪、最終選考でメンバーから漏れ、五輪出場を逃した。オランダへ渡ったのはその直後で、当初は悔しさを押し殺し、ただガムシャラに世界ランク1位の国で自分がどこまでできるかを試したいという思いだったという。東京五輪のこともいったんは忘れて、無我夢中でスティックを握り、ホッケーボールを追いかけた結果、新たな目標ができたとふり返る。

「もともと海外志向が強かったわけではないです。最初は(リオ五輪に行けなかった)ショックもありました。ただ、オランダに行って世界のトップで戦うチームメイトらに刺激を受けて、次の東京こそグラウンドに立ちたいと思うようになりました。

 欧州では環境や指導法も日本とは違っていて、学ぶことが多かった。大きい選手は当然、リーチが長く、そういう選手と対峙することは毎週国際試合をするようなもの。DFはあまり目立つ役回りではないですが、それでも相手を苛立たせられたら『よっしゃー』ってうれしくなって(笑)プレーしているうちにDFとしても自信が持てましたし、やるからには世界一のDFを目指そうと思ったんです」

 オランダで普段からプレッシャーや強度の高い試合をこなすことで、アジアに戻ってくると自然とプレーに余裕が生まれた。

オランダでやっていたせいか、1つひとつのプレーが冷静に判断できるようになったというか、安定したプレーができるようになった感覚はあります。ただ、逆にいえば、それがアジアと欧州の差かもしれないですね」

 ホッケーサッカーより少し小さいコートで、1チーム11人ずつ(GK1人を含む)で行われる。約550gのスティックを操り、野球の硬式球よりも少し大きく、少し硬いボールを使用し、時間は各15分の4クォーター制でゴールの数を競い合う。

 見せ場の1つは、ゴール前に描かれた半円の中で守備側がファウルを犯した際に攻撃側に与えられるペナルティコーナー。攻撃側が全員参加できるなか、守備側はGKと4人のフィールドプレーヤーで守らなければならず、フィールドプレーヤーの4人も一時的にマスクやすね当てなどの防具を付けてゴール前を固める。

「ペナルティコーナーサッカーでいうPKとCKの間のようなもの。守備の時はもちろん体を張りますし、攻撃の時には私もシューターになります。ドラッグリックスティックのプッシュ動作で球を浮かせて打つシュート)は私の武器のひとつなので、注目してもらえたらうれしいです」

◆数年前まで代表合宿参加は自費、自炊。体育館にベッドを並べ……

 ホッケーは野球やサッカーなどのメジャー競技ではなく、選手の置かれている環境は決して恵まれているわけではない。いまでこそ東京五輪が近づくなか、代表チームスポンサーがついたことで海外遠征での個人負担はなくなったが、ほんの数年前までは日本代表といえどもそのたびに社会人10万円、学生8万円などと個人負担をするのが当たり前。国内合宿に至っても、学校の体育館や美術室にベッドを並べ、食事は調理室で“自炊”という厳しさだったという。

 環境面は自国開催の五輪を前に大きく改善されつつある。ただ、急激に変わる一方で「アフター東京」を考えると不安がないわけではない。

「また、元に戻っちゃうかも。そういう話は選手やスタッフの間でも出ます」

 だからこそ東京五輪では目に見える結果が欲しいのだ。

 東京五輪金メダルの最有力とされるのはオランダで、世界的に見ても実力は頭1つ抜けている、と言われているなか、さくらジャパンは7月のオランダイギリスとの連戦に続き、8月に入って世界ランク6位のニュージーランドを招いた強化試合で2連勝。8月17日から21日にかけて東京五輪の会場となる大井ホッケー場で行われた五輪のプレイベントでは決勝でインドに1-2と敗れたものの、予選リーグでは世界ランク2位のオーストラリアと2-2で引き分けるなど準優勝で終えた。

 7月のテストマッチオランダには連敗したが、2試合ともに得点を奪い、イギリスには連勝した。この結果をどう捉えているのか。

オランダイギリスニュージーランドとの試合を終えて、いい準備ができている手応えはありました。いままでオランダとやるときは6点差とか7点差という大差で負けてしまっていたのが、今回は2試合とも得点だけみれば接戦に持ち込めたのは収穫。ただ、つなぐホッケーを目指している以上、勝つためには自分たちでボールを持つ時間をもっと長くしないといけないとも感じました。東京五輪プレイベントではインドに負けてしまい、インドが昨年のアジア大会からレベルアップしていることを強く実感しました。もちろん、この時期にオリンピックの会場となる場所で、試合ができたことはホントにうれしいし、タイプの異なる国々に対し、様々な戦い方をトライできたのはよかったと思います」

 メダルを争うライバル国との対戦でいままでにない手ごたえを感じた一方で、課題も口にした。

「自分たちのなかでの目標は金メダル。そう考えると、オランダを倒さないとそこには届かない。やっぱり負けるのは悔しいですから」

 チーム力は確実に上がっており、メダル獲得も夢ではない。女子ホッケーは、東京五輪での密かな注目競技といえるかもしれない。そして、前回リオ五輪で土壇場でメンバーから外れた及川は、誰よりも強い気持ちを持って東京を迎えるはずだ。

「日本で開かれる五輪に出られるなんて、一生に一度。そのチャンスに恵まれたことにはワクワク感しかない。東京五輪さくらジャパンが結果を出せば、女子ホッケー全体が盛り上がる。去年はアジア大会で優勝できたので、次は東京五輪。簡単ではないですが、覚悟を持ってアグレッシブに戦いたいと思います」

プロフィール
おいかわしほり ‘89年3月12日岩手県生まれ。不来方高校、天理大を経て、’11年にソニーHC BRAVIA Ladiesへ加入。’16年からの2年間はオランダのオラニェ・ロートへ期限付き移籍し、3年目の’18-‘19シーズンはプロ契約を結ぶ。’19年夏に帰国し、岩手めんこいテレビに所属(正社員)しながら、東京ヴェルディプレー。’18年アジア最優秀選手。ポジションはDF 。164cm、58kg

取材・文/栗原正夫 撮影/ヤナガワゴーッ!

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及川栞(女子ホッケー日本代表「さくらジャパン」)