内閣改造がスタート。新大臣はニコニコ顔だが、安倍政権では「官邸官僚」たちが大きな力を発揮している。大臣よりエライといわれる人もいる。長期安定政権のために、彼らはよくやっているのか。あるいはやりすぎだ、日本がおかしなことになっている、と批判的に見るのか。

 その評価は後世の政治学者にお任せするとして、本書『官邸官僚』(文藝春秋)は、サブタイトルにもあるように「安倍一強を支えた側近政治の罪」を問う立場の本である。

不祥事が噴出

 著者のジャーナリスト森功さんは1961年生まれ。週刊誌編集部などを経て2003年フリーに転じた。08年の『ヤメ検』と09年の『同和と銀行』の両記事で2年連続「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。『許永中 日本の闇を背負い続けた男』『地面師―他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』などの裏世界、経済事件物から『高倉健 七つの顔を隠し続けた男』などの芸能物まで幅広いジャンルの著作がある。

 近年は、『総理の影―菅義偉の正体』や、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞の『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』文藝春秋)など、安倍政権に関する著書が増えており、本書もその延長線上にある。

 「秘書官をはじめとした首相の分身である官邸官僚たちが、霞が関の中央官庁に働きかけ、無茶な政策を実現させていく。安倍政権でしばしば見られた光景である。官邸による意向がまかりとおり、それがときに不祥事として噴出してきた」

 これが著者の見る近年の安倍政権の姿だ。多くの読者もその「不祥事」のいくつかを直ちに想起できるだろう。森さんは付け加える。

 「安倍晋三一強体制の歪み――。一連の高級官僚の不祥事の原因として、そう言われて久しい。指示なのか、忖度なのか。その問題はさておき、霞が関の官僚たちがかつてないほど首相官邸の支配下に置かれている実態は、疑いようがない」

官僚権力図の全体像がわかる

 本書は以下の9章に開かれている。

 「第一章 総理を振り付ける『首席秘書官』」  「第二章 影の総理の影『首相補佐官』」  「第三章 政権の守護神『警察官僚』」  「第四章 破壊された日本の頭脳『財務官僚』」  「第五章 『文科省』次官候補の裏口入学事件」  「第六章 封印された『地検特捜』」  「第七章 霞が関を蹂躙する『内閣人事局』」  「第八章 官邸外交で蚊帳の外の『外務省』」  「第九章 官邸に潜む落とし穴

 BOOKウォッチでは安倍政権と官僚に関わる本をいくつか紹介してきた。森さんの本書は改めてその全体像を復習することができる。新聞記事などと違って、より踏み込み、はっきり語られているので、そうなのかと腑に落ちるところが多い。

 「安倍政権を支える官邸官僚たちは、出身の省庁で次官候補レーストップを走ってきたスーパーエリートではない。いわば二番手、三番手の官僚が官邸に抜擢され、忠誠を誓って権勢を振るってきた」

 このような役人間の序列のみならず、省庁間の序列も崩れているらしい。従来は財務省トップで君臨していたが、「第四章 破壊された日本の頭脳『財務官僚』」にもあるように、いまや経産省国土交通省出身者が「首相秘書官」「補佐官」として差配する。あるいは、「警察官僚」が個々の官僚のプライベートな情報まで握って揺さぶる。長年、財務省を頂点にしていた霞が関のヒエラルキーが軋んでいる実態を、本書は綿密な取材をもとに具体的に報告している。

 そういえば評者はかつて某省の役人から、「霞が関官僚だけが集まる高校の同窓会に出ると、後輩でも財務省出身者が上座に座っている」という話をボヤキ交じりに聞いたことがある。本書を読みながら、今では経産省警察庁の役人が真ん中に座っているのだろうか、と想像した。

水道民営化には官房長官秘書官

 「官邸官僚」というのは、霞が関の出身者だけかと思っていたら、周辺には民間人がいることも初めて知った。本書に登場するのは、官房長官補佐官だった福田隆之氏。水道民営化の旗振り役として霞が関では有名な人らしい。

 本書によれば、1979年生まれで早稲田教育学部卒。学生時代から自民党学生部に出入りしていた。野村総研から新日本監査法人に移り、竹中平蔵氏と昵懇になって2015年末に官房長官補佐官に。民間資金やノウハウを活用して公共施設の建設、維持管理、運営をするPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)による水道事業の民営化を推進した。ところが18年末の臨時国会で、水道事業の世界的大手ヴェオリア社との関係が取りざたされ、唐突に辞任したという。これは「第九章」に書いてあった。

 BOOKウォッチ『日本が売られる』幻冬舎新書)でも紹介したように、何かと問題になる水道事業の民営化だが、こんなところにも「官房長官補佐官」がからんでいたらしい。そういえば森永卓郎さんの『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)では、小泉政権で日本を外国に売り飛ばした人として竹中氏の名があったことを思い出した。

 「第八章 官邸外交で蚊帳の外の『外務省』」も興味深かった。北朝鮮による拉致問題ロシアとの北方領土問題でも、官邸の経産省警察庁出身者の動きが目立ち、外務省には不快に思っている官僚もいるようだ。

 加えて、外務省の官僚と河野太郎外務大臣の関係についても、いろいろと根深いものがあることがわかった。新聞記事でも、何となくそんな気配は感じていたが、本書はストレートだ。

 BOOKウォッチでは、関連して、『官邸ポリス――総理を支配する闇の集団』講談社)、『面従腹背』毎日新聞出版)なども紹介している。

追記:安倍晋三首相は2019年9月11日の内閣改造に合わせて、今井尚哉首相秘書官(政務担当)を首相補佐官兼務にする人事を決めた。産経新聞など各紙によると、兼務は極めて異例で、政策企画の総括担当として内政、外交の重要課題全般に関わるとみられている。(9月12日


BOOKウォッチ編集部
安倍改造内閣で大臣よりエライ官僚はだれ?