年金2000万円問題によって、公的年金に対する信頼がこれまで以上に揺らいでいる。年金財政の状況を考えると、現時点との比較で2~3割の減額は必至であり、若い人にとっては、何の期待も持てない制度になっているのはよく理解できる。

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 だが、年金がアテにならないという話は、過去、何度も話題になったことがあり、(当時の)若年層は「自分たちはどうせ年金はもらえないので、保険料などを払いたくない」と強く主張していた。しかし、彼等が中高年になった今、自分はいくら年金がもらえるのかと血眼になっている。今、「公的年金など意味がない」と主張している若い人の大半が、20年後には「年金、年金」と騒いでいるはずだ。

 公的年金は減額が必至だが、制度として破綻する可能性は極めて低い。保険料はしっかり納付しつつ、年金に頼らない生活基盤を確立することが重要である。

●もともと「ショボ」かった日本の公的年金

 日本の公的年金制度は賦課方式といって、現役世代の保険料で高齢者を支える仕組みになっている。自分が積み立てたお金を将来、受け取るものではないため、高齢化が進むと制度の維持が難しくなるという欠点がある。

 しかしながら、日本の公的年金は設立当初から、明確に賦課方式にするつもりで制度設計したわけではなく、結果的に賦課方式にせざるを得なくなったのが実情であり、もともと老後の生活を完全にカバーできるようなものではなかった。

 年金受給者が受け取る年金は、あくまでも補助的なものにすぎないというのは、国民年金の給付金額を見れば一目瞭然である。国民年金は現時点において、月当たり約1万6500円の保険料を40年間支払っていれば、65歳以降、月額約6万5000円の年金を受け取ることができる。支払う保険料は少額ではあるが、もらえる年金の絶対額も少ないので、これだけで生活することはできない。

 つまり、日本の年金制度は、家族の誰かが老後の面倒をみるという前近代的な世代間扶養のシステムを制度として拡張しただけであり、欧州に見られるような完全な年金制度とは考えない方がよい(実際、厚労省もそう説明している)。

 今回の年金2000万円問題の原因の1つは、日本の公的年金制度が欧州型であると誤解している人が一定数存在しており、老後に2000万円が必要とした金融庁の報告書に対して「そんなこと聞いていないぞ」と驚いてしまったことである。

 若年層の人にとっては「何を今さら」という話かもしれないが、年金に対する誤解は、実は若い人たちにも存在するというのが今回の記事の趣旨である。

●今の中高年も昔「保険料払うのはムダ」と主張

 公的年金制度の持続可能性については、昔から何度も議論されており、1989年には急速な高齢化への危機感から、学生に対して国民年金に強制加入させたり(それ以前は、20歳以上であっても学生の加入は任意だった)、国民年金の不足を補うため国民年金基金を創設したりするといった制度改正が行われた(施行は91年)。

 当時、若年層だった人たちの多くは「自分たちが年金をもらう頃には制度は破綻している」「高齢者のために若い人からお金を取るのか」「保険料など払うだけムダだ」と声高に主張していた。学生に対する強制加入についても、反対の声が圧倒的に多かったのが現実である。

 ところが、「高齢者のために若年層が負担するなどまっぴらだ」と声高に主張していた当時の若者たちは、時を経て中高年になった。ごく一部の成功者を除けば、ほとんどの人が、自分がもらえる年金のことで頭が一杯という状況だ。公的年金だけでは十分には暮らせないことなどよく理解していたはずだが、厳しい現実を目の前にすると、「政府はなぜもっと年金を支払えないのか」という主張に変わってしまうのだ。

 厳しい言い方かもしれないが、現時点で「年金などアテにしていない」「高齢者ばかり優遇する制度だ」とうそぶいている若年層の多くが、20年後には「年金、年金」と大合唱し、20年後の若年層から総攻撃を受けていることだろう。

 ちなみに、今、50代の中高年社員が新入社員だった1980年代当時の記事を見ると、今どきの新入社員は「遊びにいくことばかり考えている」「私生活を最優先して会社に尽くさない」「会社をすぐ辞めてしまう」といった話のオンパレードである。新人たちも「自分たちは、上の世代のような会社人間には絶対にならない」と強く主張していたが、30年後に彼等がどうなったのかについては説明するまでもない。

 ちなみに3年以内に会社を辞める新人の比率は過去30年間ほとんど変わっておらず、日本のビジネスパーソンの行動に大きな変化は見られない。つまり、いつの時代においても若年層というのは「自分たちだけは違う」と主張するものの、結局は中高年になると似たような振る舞いをするものなのだ。

●結局、誰にとっても年金は「最後の砦」

 少々、意地悪なことを書いたが、筆者が主張したいのはそこではない。

 日本の年金制度はそもそも不完全なものであり、いつの時代においても、公的年金だけに頼ることはできないという現実について理解しておくべきだと言いたいだけである。

 現時点において、150万円以下しか年金をもらっていない高齢者は何と約6割に達する状況であり、もっとも多額の年金をもらっているはずの男性の厚生年金加入者に限定しても平均額は年間192万円しかない。年金などアテにならないという若年層の認識は正しいが、大事なのはその感覚を今後も保ち続け、老後の準備を継続していくことである。もし行動に移せないのであれば、今の中高年と同じ状況に陥ることは容易に想像できる。

 一方、政府がむちゃなことをしなければ、年金制度そのものが破綻する可能性は極めて低い。どの世代であれ、年金に頼らないと生活できないような人生設計を行うことは避けるべきだが、平均的な所得水準の国民にとって、公的年金が「最後の砦」として機能し続けるのもまた事実である。

 年金の保険料は満額、支払うことができるよう留意すべきだし、自分がどのくらい年金をもらえそうなのか、常にチェックしておき、10年に1回は人生設計を見直す必要があるだろう。将来、自分がいくら年金をもらえそうなのかは「ねんきんネット」にアクセスすればよいので、それほど大きな手間はかからない。今はまだ、将来のことについて考える余裕はないかもしれないが、それでも着実に準備をした方がよい。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家

【画像】若者に広がる「公的年金は無意味」論