2019年9月19日(木)~9月23日(月・祝)浮世企画『誰そ彼』下北沢駅前劇場にて上演される。浮世企画は多彩で濃厚な座組、さらに役者一人一人の魅力を最大限引き出すことを特徴に、プロデュース形式で公演を行っている。作・演出の今城文恵に作品について話を聞いた。

ーーまず浮世企画のはじまりについて教えてください

武蔵野美術大学に在学していた時に、仲間内で芸祭で演劇をやろうという話がもちあがりまして、私が脚本と演出を担当することになりメンバーを集めました。その時、せっかくなら団体名をつけようと、私ともう一人の子で命名。「浮世企画」が決まった時の、国分寺バーミヤンでクロッキー帳を広げた景色はいまだによく覚えてますね。結局、芸祭が終わっても私だけは演劇をやりたくて、公演ごとにあちこちから人を集めるスタイルで今も続けています。

ーー本作「誰そ彼」というタイトルの由来は?

妖怪に出会ったという民話を読んでいると、妖怪の出没時間って夜より夕方が多いんです。太陽が沈んで、昼から夜に移り変わっていく時間帯。その境目を利用して、異世界のものが入り込んでくる。

そこから広げていって、薄暗くて目の前の人間の顔が識別できなくなることから、夕方を「あなたは誰ですか?」という意味の「誰そ彼」という言葉で表現すると知って、お話の内容にピッタリだなと決めました。家族でも「あなたは誰ですか?」と問いたくなる瞬間があるよな、という。

ーー“家族”と“妖怪”がテーマになっていますが、着目するようになったきっかけは?

家族は常に意識しています。誰でも身近に感じざるを得ない関係性だし、血の繋がり、切っても切れない縁というのは描いていて面白いです。一方で血縁や結婚を起点にしない家族もあって、そこに生まれるものを描きたいなとも思っていました。

妖怪も以前からヒョイヒョイ私の作品に出てくるんですが、日本の妖怪って、みんなユーモラスで愛嬌があって、でも人間の業を煮詰めたような哀しさも背負ってもいて、描いていて単純に楽しいんです。

家族を描こうとした時に「居場所のない人が、住人を失った家を利用して疑似家族みたいに暮らしている」というアイディアを思いついて、じゃあ妖怪にしちゃおうと思いついて進んでいきました。

ーーこの作品の見どころを教えてください。

まずは魅力的な俳優が体現するクセの強い登場人物たち。誰に共感して、誰にムカついて、誰を笑えるか、ぜひ楽しんでいただきたいなと思います。

あとは、現代の民話といえるお話の、特に終盤15分。これを通して、お客様がお話をどう捉えるか、多分一人一人全く違うと思うので、私も感想を伺うのが楽しみです。

ーー確かに、今回のキャスト陣は個性豊かなメンバーが集まっていますね。稽古場はどのような雰囲気ですか?

最初はあまりに出自がバラバラなせいか、緊張感がありました(笑)。

でも今はそれぞれがどんな武器を持っているか分かってきて、お互いにヘンな気は使わず面白がりあっているような感じです。あと、自分が出ていないシーンでも積極的にアイディアを出してくれる人が多いですね。

ーー登場人物のモデルとなった人物や、参考になった実体験はありますか?

最近の私の作品の登場人物は、だいたいモデルになっている人がいます。例えば、松本亮さん演じる主人公・眞一郎役は今年亡くなった某俳優さんがカッコイイのはなぜか、そこを考えて要素を抽出していきました。政治家や落語家の喋りを書き起こして、それを元にセリフを書いたキャラクターもいます。知人でいえば、あっけらかんと男好きを公言している魅力的な女の子がいて、こっそり鬼婆役のモデルにさせてもらったりしてます。

ーー漫画や映画など、妖怪がテーマのものが多くありますが影響を受けた作品はありますか?

根っこのところは、幼い頃に読んだ「クレヨン王国」シリーズや柏葉幸子さんのお話だと思います。非日常の世界の住人と普通の人間が交わる様子が、双方の哀しさや切なさも含めて活写されていて大好きでした。あとは筒井康隆さんの作品も、非日常の世界をリアルに、でも理屈や倫理をぶっ飛ばして描くという点で影響を受けています。

以前「ザ・ドリンカー」という作品で主人公にした河鍋暁斎の絵も、地獄の鬼や妖怪が宴会をしてる絵が何ともマヌケで説得力があって、そうだよね鬼だって息抜きするよね、って想像する楽しさを教えてもらいました。

あとは何年か演出助手をさせて頂いていた、表現・さわやかのコント。コントの中に妖怪やゾンビがたくさん出てきてたんですけど、「お城に長年引きこもってるからアロエを知らなくて、食べたアロエヨーグルトに異物が入ってると怒る」とか、そういう日常とリンクさせたユーモラスな描き方には大きな影響を受けてます。

今城文恵

今城文恵

ーー最後に、ご来場いただくお客様に一言お願いします。

手軽に楽しめる娯楽が色々ある中で、劇場に演劇を観にくるというなかなかに面倒な選択をして頂けること、さらに浮世企画を選んで頂けることに、まずはありがとうございます!

今の社会で生活していて「ここがヘンだよ日本人」とか「どうにも解決できないこの問題はどうしたらいいんだ」とかモヤモヤしている方には、「誰そ彼」という現代の民話をぜひ観にきて頂きたいなと思います。

今城文恵