【特別全文公開 #3】西川廣人さんに日産社長の資格はない――グレッグ・ケリー前代表取締役世界初告白 から続く

 日産・西川廣人社長が自身の不正報酬問題を理由に、今月16日付で辞任することを発表した。この疑惑が初めて明らかになったのは、「文藝春秋」7月号に掲載されたグレッグ・ケリー前代表取締役への3時間に及ぶインタビュー記事においてだった。そこで、彼は一体何を語っていたのか。日産問題の核心を広く世に問うため、24時間限定で同記事の全文を公開する。

(本記事は全4本の4本目です)

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 西川氏の現在の自宅登記簿(渋谷区内、約200平米のマンション)を確認すると、2013年7月に購入していることがわかった。それまでの自宅は世田谷区の一軒家。ケリー氏への相談は、渋谷の新居購入直前に行われたとみられる。

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――「買ってくれないか」と言われた不動産は、西川さんが現在住んでいる渋谷区のマンションのことでしょうか。

ケリー それはわかりません。ただ、西川さんは既に所有している不動産が一軒あって、さらにもう一軒、日産に買ってほしいという依頼だったのです。

――日本の経営者が会社に自宅購入を要求したという例は聞いたことがありません。普通はありえないことではないですか。

ケリー 日産では、先ほど話したようにビジネス目的で、役員から「不動産を確保して欲しい」と言ってきた例はあります。

――しかし、西川氏の依頼は日本国内の不動産の購入ですから、外国でのビジネス目的とは意味合いが違います

ケリー そうですね。私が知る限りでは、他の役員から、たとえ最終的にローンを支払うとしても、自分が暮らす国で「もう一つ不動産を買ってくれるか」というリクエストを受けたことはありません。

――西川さんはその家をどんな目的で使うつもりだったのでしょうか。

ケリー 詳しい目的については聞いていません。

――西川さんはその時点で8年間も日産の取締役を務め、2013年度にも1億3500万円の報酬を受け取っています。なぜ現金が必要だったのでしょう。

ケリー 私から「なぜ」という質問はしませんでした。彼からは「お金がないから」と話をされただけです。

西川氏の株価連動報酬は「特例中の特例」

――依頼があったのは、ゴーン氏がリオデジャネイロなどの不動産購入費を日産に負担させた後です。ゴーン氏の影響があるのでしょうか。

ケリー 西川さんは「ゴーン氏が不動産を買ってもらったから自分も……」とは言っていません。ゴーン氏が会社に不動産を購入してもらったという事実を西川さんが知っていたことは確かですが。しかし実際に、日産が西川さんのために不動産を購入することはありませんでした。それは西川さんがその頃、SAR(ストックアプリシエーション権)の行使を一週間ずらすことで、とても大きな額の現金を手にしたことも関係があったと思います。

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「SAR」とは、日産が導入している株価連動型の役員報酬のこと。あらかじめ基準となる株価が決められていて、その価格と、権利行使したときの市場株価との差額を日産から受け取ることができる。

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ケリー 西川さんから不動産購入を打診された際、実はもうひとつ尋ねられたことがありました。「自分はSARを何株分持っているのか」ということです。彼は既に「行使日」を決めていました。ところが行使日が過ぎた後、株価が上昇したため、行使日を一週間後にずらせば、相当な儲けが出ると考えたのです。そして私の知る限り日産史上初めて、行使日を後ろにずらしました。SARによって利益を得た後、「会社に不動産を買ってもらいたい」という提案は取り下げられました。

――そのSARで得た利益が、不動産購入の原資となったと認識されていますか。

ケリー そうですね。大金でしたから。

――実際の「行使日」は何月何日かわかりますか。

ケリー 5月22日だったと思います。本来であれば5月14日にSARを行使することになっていました。行使日を一週間ずらすことによって約4700万円が上積みされ、トータルで約1億5000万円の利益があったと記憶しています。

 行使日を一週間ずらすことによって、行使価格は約120円(約10%)上昇した。西川氏は数十万株分を行使したとみられる。

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――日産の負担は増えますが、行使日の変更は認められることなのですか。

ケリー 変更を担当したのは秘書室です。私が知っているのは5月14日に一度行使したのに、その後に日付だけを変更して「再行使」し、当初の行使のときよりもずいぶん大きな金を儲けたということです。具体的にどのような手続きが行われたのかはわかりません。

――ケリーさんは弁護士です。SARの行使をずらすことが認められたことをどうお考えですか。

ケリー 当然、特例中の特例です。西川さんからの不動産関連の相談は最初メールが送られてきて、その後、ディスカッションをしたのですけれど、とても急いでいることが伝わってきました。

 彼はもともと自分の報酬に関して非常に強い関心を持っていました。日産には、グローバル人材の報酬制度と日本人エグゼクティブ用の報酬制度があります。西川さんは自分が日本人エグゼクティブ用の報酬制度の中に収まっていることをすごく嫌がっていました。それは、他の日本人役員より多くの報酬を得たいと思っていたためであり、彼の言うところの「その他大勢」の一員にされることに我慢がならなかったからです。経営陣の報酬を決める権限は、ゴーン氏にありましたけれど、私に昇給のリクエストがあったこともあります。西川さんの要望が合理的なときは、ゴーン氏に昇給を勧めました。

社内で議論をすれば解決できたはずだ

――6月25日の株主総会では、西川氏の社長続投が認められる見通しです。西川氏の社長としての力量をどう見ていますか。

ケリー まず申し上げたいのは、世界的な自動車企業は極めて複雑な組織であり、それを経営する力のある人材は非常にまれだということです。

 企業のパフォーマンスは、株主にとっても、従業員の雇用の維持のためにも重要なポイントですけれど、過去2年間の日産の業績を振り返ると、経営不振に陥っていると言わざるを得ない状況にあります。今後数年を見ても、この業績が回復する見通しはなさそうです。それに対してゴーン氏は日産CEOとして収益を確保して強い体質の会社にすることを達成していました。これがご質問に対する私の答えです。

――西川氏は、ゴーン氏の報酬隠しなど一連の不正を指して、「一件だけみても、普通の役員であれば即解雇」と語っています。西川氏に社長を続ける資格はありますか。

ケリー 仮に、日産の株主と経営陣が承認するのであれば、そうなるのでしょう。しかし私は大いに疑問を持っています。

――ご家族とは会えているのですか。

ケリー 幸いなことに妻はものすごく強い人で、いまはできるだけ米国から来て気丈に振舞ってくれています。ただ、私の兄弟や息子はアメリカにいて、孫にはもう7カ月も会えていません。年末にはもうひとり孫が生まれる予定ですが、このままでは生まれた子を抱くこともできないでしょう。企業内の政治的な問題で、ひとりの人間がこのような扱いを受けることには納得がいきません。

――ケリーさんは、今回の事件を「政治的な問題」と思われているのですか。

ケリー もしゴーン氏の退職後の雇用契約について何らかの疑問があるのであれば、社内で処理、解決できたはずです。なぜ私、もしくはゴーン氏に「説明して欲しい」という話が一切ないまま、議論も会議もなく、突然の逮捕にいたったのか。この検討に関与していたのが私たち2人だけでないことを考えれば、本件での突然の逮捕は普通ではありえませんし異常です。

 私は、日産という素晴らしい会社に30年以上勤めたことに強い誇りを持っています。日産の才能にあふれた特別な人々と一緒に働いたことは光栄ですし、それらの人々の多くを友人と考えています。

 私は日産と長くかかわってきましたので、この会社が将来も発展し、繁栄することを希望していますが、西川さんがCEOを引き継いでからの業績を考えると、日産は危機に瀕していると言わざるをえません。現在の日産には、正常な軌道に戻るため、強いリーダーシップが必要ですが、西川さんにそれができるだろうかと不安を感じます。しかし、もっと先の未来を見据えた時、日産には成功してほしいと強く思っています。それは私もその一員として長い間過ごした場所だからです。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年7月号)

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