非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、9月11日(水)、韓国による日韓のGSOMIA(包括的軍事情報保護協定)の破棄を受け、「日米韓3カ国による安全保障システムを今後も維持することは可能なのか」をテーマに座談会を開催しました。この中で、元自衛艦隊司令官で元海将の香田洋二氏ら3氏の安全保障専門家は、北朝鮮に融和的な韓国世論が強まる中で、日韓の防衛当局間が戦後積み重ねてきた信頼関係の修復は極めて困難な作業だとしながらも、日本と韓国が協力して米国の同盟関係を支えることが北東アジアの安定、日韓両国の国益に不可欠であり、そのための関係改善の努力を始めることが重要だ、という認識で一致しました。

議論の詳細な内容は、こちらからご覧になれます。
http://www.genron-npo.net/studio/2019/09/post_87.html

 議論には香田氏のほか、元航空自衛隊教育集団司令官で元空将の小野田治氏、防衛研究所の地域研究部中国研究室で主任研究官を務める増田雅之氏が参加しました。

文政権はまだ米韓同盟を壊す意図を持っていないが、
韓国世論の統一志向の高まりを政治が利用する動きが長期化すれば日韓の信頼関係に影響する

 香田氏はまず、GSOMIAの意義と、その破棄が与える影響の大きさについて、「日韓の協力関係を制度化し、中国、ロシア北朝鮮に対して『日米韓がしっかり協調できる』というシグナルを送ることができていた。韓国がそれを切ったことで、安定した三角形が、日米、米韓というフラフラした二つの同盟に戻った、という印象を与えることになる」と強調。また、米国がGSOMIAの維持を要求していたにもかかわらず、「GSOMIAを破棄せよ」という北朝鮮のの主張に沿う決定をしたことは、「米韓同盟に取り消すことのできない傷を残した」と指摘しました。

 これに対し、小野田氏は、韓国政府はGSOMIAを日韓二国間の関係でとらえており、日米韓の協力関係の枠組み自体を壊そうという意図はなかったのではないか、という解釈を示しました。

 一方、香田氏は韓国社会で起きている変化について、「世論が分極化する中、統一志向、反米的な志向を持つ人たちの主張を文大統領が利用しているのではないか」と指摘。小野田氏は、日韓の防衛当局間の信頼関係は現状では維持されているとした上で、今のような世論の状況やそれを受けた政治家の言動が長期的に続けば「韓国軍マインドに大きく影響する可能性がある」と懸念しました。





日韓が協力して米国を支えなければ、日本や韓国自身の利益にもならない

 3氏はそれでも「関係改善の努力を始めるべき」という意見で一致。香田氏は、「インド太平洋地域で不測の事態が起きたとき、米国を支えられる軍事力を持つ同盟国は日韓豪くらいしかない。日韓が協力して米国を支えなければ、日本や韓国自身の国益にもならない」と、その理由を語りました。
 増田氏も「日韓は関係を切ることができない国だ」とし、関係改善に向けた政治の役割について、「文大統領の性格や、日韓二国間の関係という閉じた議論ではなく、なぜ日韓の防衛協力が大事なのかを日本から主張し続けないといけない」と、香田氏と同様、地域や世界という大きな視点からの議論が重要だという認識を示しました。

 小野田氏は、今の緊張状態の要因を「韓国だけでなく、日本側の強硬な対応にも間違っているところはある」と指摘し、「政府間で対話が難しければ、民間対話を積み重ねるしかない」と主張。香田氏は、そうした対話を進める上での世論の重要性を強調し、「文政権は世論を煽って日本に揺さぶりをかけている。日米韓体制の維持を望む韓国軍は歯がゆいだろうが、何とか我慢している状況だ」とし、「国民が軍を統制するシビリアン・コントロール(文民統制)は万能ではなく、世論が本当に間違うと誰にも立て直せない」と述べました。

 最後に、司会を務めた言論NPO代表の工藤は、3氏が、北東アジア地域の平和の仕組みづくりを政府や世論に働きかける、言論NPOの民間対話の取り組みに携わっていることを紹介。世論がナショナリズムに走るのを食い止めつつ、こうした対話をより大きな動きにしていくことに意欲を見せ、議論を締めくくりました。




配信元企業:認定NPO法人 言論NPO

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