立花孝志

亜細亜大学講師で「国体文化」編集長、里見日本文化学研究所所長の金子宗徳氏に、先の参院選で議席を獲得したNHKから国民を守る党N国党)が、なぜ人を魅了するのか聞いてみた。

■躍進の背景は…

———今回の参院選では、れいわ新選組N国党が躍進しました。N国党はほとんど選挙運動に金を費やしませんでしたが、全国で2%超の票を得ましたね。その要因・背景は何だと思いますか?

金子:「躍進」というより「芽生え」という段階ですかね。ただ、出来レース化した現在の政界に対する有権者の不信感が可視化されたことは、間違いないと思います。

第2次世界大戦に敗北してから70有余年、我が国は、アメリカによる庇護の下にありました。もっと露骨に言えば、アメリカの「属国」でした。そして、田中角栄など例外はありましたが、自由民主党はアメリカの意図を汲み続けてきました。

もちろん、これに対する反発はありましたが、55年体制下の日本社会党はソ連を礼賛し、現時点における野党第一党の立憲民主党も中国や韓国に甘いなど、結局のところ他国の意向を忖度しています。

こうした状況下、他国の意向に忖度されず、自国のことは自国で決めたいという思いを抱く人は少なからずいました。

しかし、アメリカをはじめとする他国の意向を忖度することが習い性になっている政治家・官僚・大企業経営者・知識人・メディア関係者の「勝ち組」からすれば、そのような存在は目障りですから黙殺されてきました。

インターネットの発達により、そうした黙殺されてきた思いが噴出するようになります。その最も典型的な表れが、「ネット右翼」の抬頭です。

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■立花代表の強み

———ネトウヨは生まれるべくして生まれた、と。

金子:はい。既存のメディアから黙殺されてきた主張が自由に展開されるようになり、さらにはネットからリアルに進出する動きも生まれます。

立花孝志・党首も、そうした流れの中で出てきた人物です。彼に確固たる思想的確信があるか、正直なところ分かりません。

ただ、大阪府泉佐野市に生まれ、府立信太高校を経てNHKに入社し、経理に携わっていたという経歴からは、反都会・反エリートの土俗的な匂いと地頭の良さを兼ね備えた人物という印象を受けます。

■他のネトウヨとの違い

———立花氏が他のネット右翼と二つの点で異なると仰っていますね。

金子:第一に、攻撃の標的をNHKに絞ったこと。もちろん、彼がNHKの元職員であったからでしょうけれども、有権者の多くがNHKと接点を持っているという事実は大きい。

在日コリアンの問題を重視する政治団体は少なくありませんが、在日コリアンと接点のない有権者からすると、全くリアリティがありません。けれどもNHKの場合、安くもない受信料を払わされています。

現在のように可処分所得が減る中で、なぜ受信料を払わされねばならないのか。あるいは、払うのは構わないが、それならば報道内容に自分の意見を反映させてほしい、また無駄遣いは止めてほしい。そういう国民の潜在的ニーズを、上手く掬い取ることができたのです。

第二に、NHK解体を訴えるだけでなく、集金人を撃退する活動を継続的に展開してきたこと。受信料の不払い運動は何度もありましたが、シールを配布するかせいぜい訴訟を提起するまでで、自宅まで押し掛けてくる集金人を追い払うことは不可能でした。

けれども、立花氏は集金人を動画に撮影してネット上に晒すという手法を編み出し、さらには集金人撃退のコールセンターまで運営しています。手法の是非については評価が分かれるところでしょうけれども、効果的であることは事実です。

その結果、一定の存在感を確立した立花氏は、まずは自らが地方議員となり、さらにはN国党の仲間を地方議員として各自治体に送り込みます(中には、地方議員となるために仲間を装った者もいるようですが…)。

■戦略的な選挙戦

———参院選の戦い方も戦略的だと評価されていますね。

金子:今回の参議院選挙では、本命の比例区だけでなく、大半の選挙区にも候補を立てました。

これは比例区の得票を掘り起こすためで、維新政党新風など議会進出を目論む政治団体も採用した手法ですが、資金の限界もあって大都市のある一部の都道府県に限定されていました。

これに対して、N国党は全都道府県の3分の2超に当たる37の都道府県に候補者を立てました。各候補者は趣向を凝らした政見放送を凝らした政見放送を行い、有権者の関心を集めました。

とかく、政見放送における立花氏のパフォーマンスにばかり目が向きがちですが、それだけでは議席の獲得には至りません。N国党が議席を確保し得た要因や背景を考える上では、それまでの活動や選挙戦略全体に目を向けるべきだと思います。

■キャッチフレーズの強さ

———「NHKをぶっ壊す!」というシングル・イシューで臨むN国党をどう思いますか。

金子:キャッチフレーズはインパクトが極めて大きいですね。それだけでなく、NHKは庶民から安いとは云えない受信料を取り上げ、編集権を盾にして好き勝手に番組を製作しています。

さらに、職員の平均給与たるや1000万円を超えるらしいですね。こんな「電波貴族」に対する憤懣の表現として共感を集めたのでしょう。シングル・イシューで臨むことについては、政党の在り方という点から考えるべきだと思います。

政党には、特定の世界観を党員に共有することを求める「世界観政党」と議席を確保するための「選挙互助会政党」という二つの在り方があります。

マルクス主義に基づく社会改造を目指す共産党は前者の代表格で、憲法問題という国家の基本問題さえ党内の意思統一のできない自民党は後者の典型です。

■一種の選挙互助会政党

———N国党はそのどちらにも入らない、と。

金子:NHKをぶっ壊す!」こと以外は各人の自由というスタンスを採るN国党は、一種の「選挙互助会政党」と言ってよいでしょう。この「選挙互助会政党」というスタイルは、「数こそが力」である議会制民主主義において極めて有効です。

逆に言えば、N国党の存在を否定するには「選挙互助会政党」という在り方を否定せねばならず、選挙互助会政党を否定するためには議会制民主主義それ自体を否定せねばなりません。

議会制民主主義を是とする以上、N国党的なるものを認めざるを得ないのです。なお、聞くところによると、NHK問題以外の政策についてはインターネットを通じて支持者の意向調査を行い、その結果に従うことにするという計画も進んでいるそうです。

それが実現したなら、面白いことになると思います。

■賞味期限は6年弱

———最後に伺います。今後N国党はどのような方向に行くと思いますか?

金子:このままNHK問題に進展がなければ、シングル・イシューを掲げる「選挙互助会政党」たるN国党は求心力を失うことでしょう。

その賞味期限は、長くて立花氏が改選を迎える6年弱と見ています。もちろん、二瓶中央区議に対する「脅迫」意見などで立花氏が立件されたりすれば早まるかもしれません。

ただ、その間に、立花氏以外のN国党関係者が存在感を持つようになれば事態は変わってくるでしょう。

私自身は、N国党のみならず、れいわ新選組、さらには別の政治勢力が結集する形で、正しい国体認識に基づく「世界観政党」が登場することを願っています。

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(取材・文/しらべぇ編集部・及川健二

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