先日、SNS上で「糖尿病の人心筋梗塞になっても症状が出ない」という投稿が話題になりました。症状がないからといって放置していたら、命に関わるという指摘です。本当にそのようなことが起きるのでしょうか。糖尿病専門医の市原由美江さんに聞きました。

動脈硬化が進むと心筋梗塞のリスク増

Q.心筋梗塞の原因や症状、危険度について教えてください。

市原さん「心筋梗塞は、心臓に栄養を運ぶ血管(冠動脈)の硬化(動脈硬化)が進み、冠動脈がふさがる『閉塞』、または狭くなる『狭窄(きょうさく)』という状態になり、心筋(心臓を構成する筋肉)が壊死、つまり死に至る病気です。

加齢や喫煙、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などが原因で起こります。症状は、突然胸が痛み(前胸部痛)、締め付けられるような激しい痛みが30分以上続きます。痛みが背中や左肩部分に広がったり、呼吸困難、吐き気、嘔吐(おうと)を伴ったりすることもあります。

心筋梗塞による死亡は発症直後に多く、亡くなる人の半分以上は、発症後1時間以内に亡くなっています。病院に到着する前に亡くなってしまうことも多いため、正確な死亡率は分かっていませんが、入院してからの死亡率は5~10%程度です。主な後遺症は、心臓の動きが悪いために起こる心不全です」

Q.糖尿病と心筋梗塞の関係について教えてください。

市原さん「糖尿病があって、特に血糖値のコントロールができていない人は動脈硬化が進みやすくなり、その結果、心筋梗塞のリスクが高まります。また、糖尿病の人は高血圧や脂質異常症など、動脈硬化を進める病気を同時に持っていることが多く、その場合、よりリスクが高くなります」

Q.「糖尿病の人心筋梗塞になっても症状が出ない」というのは事実でしょうか。

市原さん「症状が出ないことが多いのは事実です。糖尿病による合併症の一つである神経障害によって、心筋梗塞による痛みを感じなかったり、軽く感じたりすることがあり、これは決して珍しくはありません」

Q.症状が出ない場合、医師はどのようにして診断し、患者に説明するのでしょうか。

市原さん「症状が出ないため、たまたま測定した心電図や血液検査で心筋梗塞の疑いが分かることもあります。他には、不整脈を感じたり、息切れしたり、冷や汗が出たりすることで病院を受診して判明することもあります。心筋梗塞の診断は、心電図や血液検査、心臓の超音波検査などで行います」

Q.症状が出ないからといって放置した場合、どうなるのでしょうか。

市原さん「軽度の心筋梗塞であれば、症状がないままのこともありますが後々、心不全や不整脈の症状が出てくることもあります。重度の心筋梗塞を放置すると、不整脈などによって亡くなることも考えられますが、重度の場合、痛みはなくても、動悸(どうき)や息苦しさなどの症状が出ることがほとんどだと思います」

Q.症状が出ない場合、患者が自分で、もしくは周囲の人たちが気付く方法はありますか。

市原さん「本人が何も異常を感じていない場合、周囲の人が気付くことは難しいと思います。ただ、糖尿病で定期的に病院を受診している場合は、定期的な血液検査はもちろん、心電図など心臓の検査をすることも大切ですので、症状がない段階から、かかりつけの病院で検査をしてもらうことをおすすめします。

糖尿病のコントロールができていない人は心筋梗塞のリスクも高いので、特に検査が大切です」

Q.糖尿病患者が心筋梗塞を起こさないための注意点を教えてください。

市原さん「血糖値のコントロールをして、良好な状態に保つことです。1~2カ月前の血糖値の平均を反映するHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という検査で7%未満を維持することが推奨されていますが、これを満たしていても、食後の高血糖状態があると、それだけで狭心症心筋梗塞のリスクが高まることが分かっています。

食後の血糖値を上げないよう、適切な食事量、食べる順番(野菜から肉、魚、その後、炭水化物)にも注意しましょう」

Q.心筋梗塞との関係については、糖尿病ではないものの血糖値が高い、「糖尿病予備軍」の人たちも注意が必要なのでしょうか。

市原さん「糖尿病予備軍の人は食後の高血糖が認められます。この段階から、狭心症心筋梗塞のリスクが高まることが分かっていますので、予備軍であっても油断してはいけません。糖尿病への進展を防ぐために、過体重があれば、減量、定期的な運動、食べ過ぎずにバランスのいい食事、間食を控えるなどしましょう」

オトナンサー編集部

糖尿病だと心筋梗塞の症状がない?