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Point

■光合成を利用して化学反応を引き起こす「人工葉」の開発に成功

■人工葉は太陽光を吸収しやすいアクリル樹脂でできており、流体を通す人工葉脈も内臓されている

■葉脈を通る特殊な液体が、太陽光の力で化学反応を起こすことで、特定の薬用物質を生成することが可能

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前代未聞、「薬のなる樹」が誕生するかもしれません。

オランダアイントホーフェン工科大学の研究チームが、太陽光によって人工葉の中にある特殊な液体に化学反応を起こし、特定の病気に効果を持つ化学物質を作り出せる人工葉を開発しました。

実証テストでは、抗マラリア活性を持つ「アルテミシニン」と寄生虫に効果のある「アスカドール」の生成に成功しています。

太陽光さえあれば活用できるため、マラリア発症率が高い地域への植樹なども期待されています。

研究の詳細は、8月6日付けで「Angewandte Chemie」に掲載されました。

人工葉の素材は「アクリル樹脂」

自然の葉は、その小さな葉の中にとても効率の良いメカニズムを隠し持っています。

葉の表面で集められた太陽光は葉の中にある葉緑素によってエネルギーとして用いられ、二酸化炭素と水分がグルコースに変化します。植物はこのグルコースを自らの燃料として使い、その過程で生産される酸素を同時に吐き出すのです。

研究チームは、このプロセスを人工葉にも応用しました。

人工葉は太陽光を吸収しやすいように、半透明の「アクリル樹脂」が使用されています。実は、同チーム2016年に作っていた人工葉には「シリコンラバー」が用いられていたのですが、あまり多くの太陽光を吸収することができないという問題がありました。

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一方アクリル樹脂は光の屈折指数が非常に高いため、取り込んだ太陽光を逃すことなく、安定して吸収することができます。

さらにアクリル樹脂には光に感応する多種の分子を付加することができるため、可視光スペクトルの全域にわたって吸収が可能です。

また、研究主任のティモシー・ノエル氏は「シリコンよりも安価で大量生産に向いている点も重要」だと話します。樹を作るには、膨大な数の人工葉が必要になるので、コスト削減は不可欠な問題でしょう。

液体を通すミクロの「人工葉脈」を搭載

人工葉には、本物の葉と同じように細くて小さな通路が通っています。

この中を流れる特殊な液体が、取り込まれた太陽光の力で化学反応を起こし、薬用の化学物質や燃料を作り出します。

今回の実験で生成されたのは、「アルテミシニン」と「アスカドール」の2種類ですが、今後の研究でより多様な薬剤を生み出せるでしょう。人工葉は太陽光さえあればどこでも使用可能で、ノエル氏によれば「月や火星など地球外の場所でも機能する」とのことです。

しかし、人工葉のメリットはそれだけに留まりません。特定の病に効く薬を現地で作り出すことができるからです。

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たとえばマラリアの治療薬を、マラリア感染のリスクが最も高い熱帯地域で製造し、医薬品を長距離輸送するコストや時間を省けます。

風土病に合わせた人工葉の活用により、多くの命が救われるかもしれません。ノエル氏は「大量生産も簡単なため、今後1年以内の実用化が期待できる」と話しています。

ゆくゆくは、個人に合わせて「頭痛に効く人工樹」や「発熱に効く人工樹」をつくれるのではないでしょうか。「薬のなる樹、一家に一本」という時代が来るかもしれませんね。

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