TBSの日曜劇場ノーサイド・ゲーム」(よる9時)が、いよいよ今夜、最終回を迎える。前回、第9話では、トキワ自動車専務の滝川(上川隆也)が進めていたカザマ商事の買収が頓挫、滝川はその責任をとらされ失脚する。買収が中止されたのは、カザマ商事の扱うバンカーオイルをめぐって隠蔽工作が発覚したためだ。

君嶋、カザマ商事の不正を暴く
発端は、数年前に事故を起こしたタンカーでカザマの取り扱うバンカーオイルが使われており、事故との因果関係が疑われたことだ。トキワのラグビー部「アストロズ」のGMで府中工場の総務部長でもある君嶋(大泉洋)は、この情報を、トキワの研究所の所員・星野(入江甚儀)から耳にしていた。

タンカーを所有する商船会社は、オイルの分析を帝国工科大学の森下教授(辻萬長)に依頼、星野はその一部を大学時代の恩師である森下から請け負って分析した。そこで星野が出した結果は「因果関係あり」。それにもかかわらず、森下はなぜか「因果関係なし」と報告する。もし因果関係ありならば、カザマは商船会社から莫大な賠償金を請求される。そのときトキワがすでにカザマを買収していたのなら、トキワが賠償金をかぶることになってしまう。そう危惧した君嶋は調査を進める。

先々週放送の第8話では、カザマ子会社である府中グリーンカントリークラブのゴルフ場建設をめぐって地元住民の反対運動も再燃。カザマ買収後にはトキワが親会社となるとあって、府中工場にも住民たちが押しかけていた。ゴルフ場建設の担当責任者である青野(濱津隆之)に君嶋が問い合わせたところ、建設を再開したためだという。君嶋は反対派の住民にも会って話を聞くうち、気になることを耳にする。反対運動にかかわっていた大学教授が、最近になって運動から降りたというのだ。その教授こそ、森下だった。

君嶋は最終的に、森下がカザマから3億円もの賄賂と引き換えにオイルの分析データを偽装していたこと、そして賄賂を渡す役を担ったのが青野だということを突き止める。聞きこみを続けながら事実をあきらかにしていく手腕は、まるで探偵のようだ。しかも青野に疑惑が浮上しても、君嶋は単刀直入には切り出さず、まずアストロズプラチナリーグ開幕戦のレギュラーメンバーを決める部内マッチに誘い出した。学生時代にラグビーに打ち込んだ青野に、レギュラー争いのためしのぎを削る選手たちを見せることで、フェアプレイの精神を思い出してもらい、事の真相を明かすよう促すという作戦だ。これが奏功し、良心の呵責に耐えかねた青野は、すべてを打ち明けると約束してくれた。

ちなみに青野が学生時代ラグビーをしていたのも、フェアプレイ精神を切り札に告発を迫ったのも原作どおりだが、君嶋が彼に部内マッチを見せたのはドラマ独自の展開だ。そもそも青野は、原作ではアストロズに対しさほど関心を示さない。それをドラマでは、部員の佐々とのトラブルに始まり、青野がしだいにアストロズのファンになっていく過程を描いてきた。部内マッチを見せて彼に告発を促すという展開も、こうした描写の積み重ねがあったからこそ、説得力を持ったように思う。

さらにいえば、森下教授が、巨額の賄賂をもらってデータ偽装を働いたのは、彼の幼い娘が難病のため外国で手術を受ける必要があったためだ。森下はまた、カザマから求められてゴルフ場建設の反対運動から降りる代わりに、建設地に立つイチョウの大木を残すよう条件をつけたが、これもその木に娘との思い出があったからだった。いずれもやはり原作にはない設定である。病気の子供がいるという設定はベタではあるけれど、考えてみれば、まともな心を持った人間が巨額の賄賂のため不正を働くというのは、よっぽど借金を背負っているか、さもなければ身内の病気など差し迫った事情がなければできないのかもしれない。ただ、ドラマのなかで教授がちょっと幼い娘を持っているにしては、歳をとりすぎているような気がしたのだが……(教授を演じた辻萬長は75歳である)。

ともあれ、君嶋はこうして調べ上げたうえ、経営戦略室長の脇坂(石川禅)に報告書を提出、役員会議で滝川に真相を突きつける。最後の切り札として、森下の書いた3億円の受領書を見せられた滝川が「君嶋ぁぁっ……!」と叫ぶ姿がむなしかった。

君嶋の味方だったはずの脇坂が最大の敵に変貌
本社から関連会社に飛ばされた滝川に替わって専務に就いたのは脇坂だった。しかし、これまで君嶋の味方だったはずの脇坂は就任した途端、ラグビー部の予算の縮小を求めてきた。君嶋は反論するが、脇坂はそれならラグビー部をつぶつまでだとまったく意に介さない。そんなことは滝川でさえ言わなかったことだ。滝川は何だかんだいって、アストロズの地域活動など君嶋がGMとして打ち出す方針を認めてきた。ここに来て君嶋は、自分の本当の敵が脇坂であったことを思い知らされる。

アストロズでは、第8話で描かれたリーグ開幕戦のレギュラーメンバーを決める部内マッチで、スタンドオフのポジションをめぐってベテランの浜畑(廣瀬俊朗)と入部1年足らずの七尾(眞栄田郷敦)が激しく争う。その結果、七尾が開幕レギュラーの座を射止めた。だが、第9話、アストロズが快進撃を続けるなか、リーグ優勝への鍵を握るブレイブス戦で七尾は外され、代わりに浜畑が入る。七尾はニュージーランド留学中に大けがをした経験から、体を張ってラック(密集プレイの一つ)に入れないという弱点を抱えていたからだ。浜畑もまたひざを悪くしていたが、監督の柴門(大谷亮平)は、彼が下がればアストロズはその時点で守備も攻撃も崩壊すると、浜畑と心中する覚悟で試合にのぞんでいた。

はたして接戦となったこの試合で、浜畑らアストロズの部員たちは我慢に我慢を重ねて貴重な勝利をもぎとる。目指すはリーグに君臨するサイクロンズを下して優勝あるのみ……なのだが、たとえ優勝しても、脇坂はアストロズをつぶすつもりでいる。ブレイブス戦を前に選手たちにもその話が漏れ伝わり、動揺が走るなか、君嶋はチーム存続のため、全力を尽くすと約束する。

最終回にいたっても、サイクロンズに加えて脇坂、さらには君嶋がリーグ改革を要求し続けながらもまったく動こうとしない蹴球協会と、君嶋にはまだ戦わねばならない相手がこんなにもいる。はたして彼はいずれに対しても勝利を収めることができるのか。ついでにいえば、君嶋の妻・真希(松たか子)はラグビーに対ししだいに理解してくれるようになってきたものの、肝心のアストロズの試合にはまだ来てくれていない。最後の最後、サイクロンズとの試合に真希は来てくれるのか。それも含めて、今夜放送の最終回は見逃せない。
(近藤正高)

イラスト/まつもとりえこ