(花園 祐:中国在住ジャーナリスト)

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 日本の主力産業は何かといえば、実力、規模ともに自動車産業であることに間違いはないでしょう。しかし、こと国際競争力という観点であれば、日本で最も高い競争力を備えているのは、米国発ながら日本で恐竜的進化を遂げたコンビニ産業であると筆者は睨んでいます。

 日本のコンビニサービスは世界最先端をひた走り、事実上グローバルスタンダードの地位を獲得しています。筆者の住む中国においても同様であり、日系コンビニ・ビッグスリーが日本市場同様、競争を繰り広げながら中国市場全体を牽引し続けています。

 前回(「夏でもおでん、中国のコンビニは日本とどう違うのか」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57463)は各データから中国コンビニ市場の概況をお伝えしました。今回は、日系コンビニチェーンの中国における動向とその課題についてまとめます。

 はじめに前回記事でも紹介した、主要マクロデータを軽くおさらいしてきましょう。

 下の表のとおり、2018年度における中国コンビニ市場規模は約3.4兆円で、日本と比べると約3分の1となります。店舗数は既に日本の2倍超となっていますが、店舗当たり平均売上高は日本の約7分の1で、いまだ大きな差が残っています。

(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57618

会社ごとに異なる出店地域

 では日系コンビニ・ビッグスリーの中国事業はどのようになっているのか。大まかなデータを下の表にまとめました。

 中国に初めて進出した日系コンビニはローソンとされています。上海市政府から招聘を受け、1996年に現地子会社(上海ローソン)を設立したといいます(参考:「中国における店舗数が2,000店舗突破」) 

 現在、日系コンビニ・ビッグスリーの中国における店舗数ではファミリーマートが最多となり、2番手がローソン、3番手にセブンイレブンがつく形となっています。

 3社ともに中国への進出以降、順調に店舗数を伸ばしてきていますが、北京商報によると、その展開方針に関しては各社で異なる傾向が見られます。

 まずファミリーマートは、上海市に代表される華東地域を中心に展開しており、実際に上海市内では最大シェアを有して他の2社を突き放しています。一方、中国西部の重慶市ではローソンが積極的に店舗を展開しており、2019年には市内に300店以上出店することを目標に掲げています。

 3番手のセブンイレブンは北京などの華北地域でも優勢ですが、それ以上に広州市をはじめとする華南地域での優位が顕著となっています。実際に香港の街中を歩くと、誇張ではなく数メートルごとにセブンイレブンの店舗が並んでおり、他の追随を許さない状況と言ってよいでしょう。ただかつて優位を誇った西部の成都では、近年はファミリーマートの激しい追い上げを受けていることが伝えられています。

スケールメリットの出にくい市場

 このように三社三様というべきか、日系コンビニ・ビッグスリーはそれぞれが異なる戦略で中国での店舗展開を進めています。各社は独自にターゲットとする都市を見定めてから当該都市圏で積極展開するという方針を取っており、日本国内のように全国津々浦々でネットワークを築くという方針は採用していません。

 特定地域を重点的に攻める方針をとる背景としては、やはり中国の国土が日本と比べて圧倒的に広いことが影響していると思われます。国土が広いため、複数都市で店舗展開を行おうとすると商品を供給するサプライチェーンが維持できないのです。

 そこで結果的に、サプライチェーンを維持できるターゲット都市内での集中展開に迫られることとなります。ある意味、日本と違って中国はコンビニチェーンにおけるスケールメリットが出にくい市場と言えるでしょう。

未整備のサプライチェーン

 こうした傾向は実際に並んでいる商品からも伺われます。商品やサービスは日本のコンビニとほぼ似通っていますが、お弁当とコンビニスイーツは都市によって非常に大きな隔たりがあります。

 中国のコンビニでも、軽食類の販売は売り上げを増やす商品として非常に重要視されています。しかし実際に並んでいる商品を見ると、おにぎりやサンドイッチなどはともかく、お弁当は日本で売られているものと比べるとおかずが少なく、種類もそれほど多くありません。またコンビニスイーツに至っては、最近ようやくプリンとか見るようになりましたがあまりおいしくなく、日本と比べると雲泥の差もいいところです。

 こうした背景はやはり、サプライチェーンの能力が大きく影響していると見られます。つまり、サプライチェーンが整っていないため、日持ちしない食品や冷たいお菓子を大量に仕入れられないのです。輸送中の劣化を防ぐコールドチェーンもまだまだという状況です。

 サプライチェーンの整備は、国土の広い中国では日本以上に大きな課題となっています。ただし、中国のサプライチェーンに問題があるというよりも、日本が異常なまでに進化し、整備され過ぎていると言ったほうがいいかもしれません。

 なお中国のコンビニスイーツが物足りないと記しましたが、上海のローソンでは「まるごとバナナハーフサイズ)」っぽい商品を扱っており、ローソンに寄るたびに筆者は買っています(本記事の冒頭の写真。撮影後はおいしくいただきました)。

地方都市進出における課題

 主要都市では、近年になってコンビニ間の競争が激化し、人件費や家賃も高騰しています。そのため、日系コンビニ・ビッグスリーはその周辺にある地方都市への進出を図ろうとしています。

 しかし地方都市進出に際しては、上記のサプライチェーンの問題に加えていくつかの課題があることが現地メディアから指摘されています。

 まず、中国の各地方都市には地元で強いネットワークを持つ現地小売チェーンが少なくありません。地元住民はこうした地元のチェーンに深い信頼を置いています。また、主要都市と比べると地方都市の所得水準は低く、主要都市で販売される商品がそのまま地方都市でも売れるのかという疑念が呈されています。

 こうした課題に対し、日系コンビニチェーンも対策を打ち出してきています。地元チェーンとの競争に関しては、直接競合するのではなく提携などの形を取って共同で店舗展開を図る方式がみられます。また所得水準の問題についても、たとえばファミリーマートでは今年、それまでの最低価格11.8元(約180円)を下回る8.8元(約130円)のお弁当を発表しました。地方への進出に向けて低価格帯商品を強化してきているとみられています。

 このほか、インターネットと連動したサービスの必要性や、コンビニ事業に参入するネット小売大手の登場など、日系ビッグスリーの中国事業にはさまざまな課題が存在します。とはいえ、中国が巨大な潜在力を備えたコンビニ市場であることに変わりはありません。日系各社が今後どのように課題を克服し展開を進めるのか、その動向には大いに注目していきたいと思います。

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