『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、長期化する香港の反政府デモの根底にある、先進国の「中国依存」を指摘する。

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8月25日、香港でデモ隊と警察の衝突があり、警察側が初めて実弾を発砲しました。この問題のみならず、チベット族やウイグル族など少数民族に対する監視と迫害、国内の民主活動家への弾圧......それらの根本にあるのが、中国共産党の一党独裁であり、その独裁体制維持のための歪(ゆが)んだ経済システムであることには多くの人が同意するでしょう。

ただ、その歪んだシステムに依存することで経済的な恩恵を受けてきた多くの先進国も(もちろん日本も)、ある意味でこの状況に加担してきたといえます。日本でリベラルを名乗る人々は、この問題にあまりに無関心ではないでしょうか。

個人的な話になりますが、僕は10年ほど前、独立したメディアとして草の根で活動していた自身のポッドキャストチャンネルなどで、チベットウイグルの問題を積極的に扱っていました。その際、日本のリベラル派といわれる人たちの反応のにぶさや無関心に失望したことは一度や二度ではありません。

これは欧米でも同じ傾向がありますが、日本でチベットを支援する人々の多くは、チベット密教の神秘への憧れが強く、悪い言い方をすればファッションとして「Save Tibet」を叫んでいました。

イベントを開催すれば人は集まるものの、チベット問題を本気で解決しようとしていた人などほぼ皆無だったように思います。ウイグルに関してはさらに複雑で、在日ウイグル人の民族運動には日本の右派勢力がべったりと張りつき、偏ったイデオロギーにのみ込まれています。

つまりチベットにしてもウイグルにしても、純粋に議論や支援をしたくてもできない現実があり、僕も徐々に身を引くようになってしまいました。

あれから10年超、中国共産党の情報統制の巧みさは相変わらずですが、中国の軍事拡張の動きが明らかになってきたことで、右派は改憲の大号令をかけています。それに対し、左派は「9条」を持ち出して騒ぎ立てるだけ。中国国内の本当の問題には触れようとしません。

そして、先進国が独裁政権下の中国を"世界の工場"として利用し経済発展を支えてきたことの当然の結果として起きた環境問題、あるいは軍事拡張の脅威を、まるで人ごとのように煙たがりながら今も「Made in China」の便益を受け続けています。

今、中国が世界にぶちまけているあらゆる問題は、先進国で暮らすわれわれの便利さを追求したライフスタイルがその根源にあります。中国国内に雇用を生むからいい、中国を豊かにするから問題ない――そんな言い訳をしながら組み上げていった相互依存のなかで、中国は肥大化していったという「事実」といいかげん向き合わなければいけない。

最近、日本でも中国の"お行儀の悪さ"に腹を立てる人が非常に多くなってきていますが、いったいなぜそうなっているのか、その点を見つめてほしいと思います。

偏った社会で生きている「中国人」を責め立てるのではなく、彼らの社会、彼らの国が変われるようなアクションを、特にリベラル派は起こしていくべきではないでしょうか。日本の国内問題では「現政権は戦争する気だ」と言い、中国の諸問題には口をつぐむというのは、あまりにもバランスを欠いているというしかありません。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

「今、中国が世界にぶちまけているあらゆる問題は、先進国で暮らすわれわれの便利さを追求したライフスタイルがその根源にあります」と指摘するモーリー氏