9月16日は「敬老の日」。長寿のお祝いと日頃の感謝の気持ちを込めて、祖父母に会いに行ったり、贈り物をしたりする人も多いことでしょう。ところで、昭和初期以前に生まれたおばあさんは、平仮名片仮名の名前の人が少なくありません。本名が片仮名ケースは、現代においては特に珍しく感じられるため、ネット上では「確かにカタカナ多い」「私のおばあちゃんも」「どうして多いのかな」など疑問に思う人もいるようです。

 おばあさんの「片仮名の名前」には、どのような理由や背景があるのでしょうか。和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

男性的精神の高揚という雰囲気

Q.昭和初期以前生まれの女性に、片仮名の名前が多く見られるのはなぜでしょうか。

齊木さん「江戸時代から続いた男尊女卑の影響と、名前を付ける親の世代がそれほど漢字を知らなかったという時代背景があります。

そもそも、平安時代以前は、文字を使用する際は漢字を使い、公的な文章を作成する人や学問をする人だけが使用していました。その後、平安時代の国風文化により、漢字の一部を取って片仮名が誕生しました。片仮名は、仏典の解釈と教育の必要から、その行間に読み方や注釈として書き込む記号に端を発しました。

明治から昭和初期の富国強兵が叫ばれていた時代、男性的精神の高揚が言い立てられた社会的雰囲気の中で、女性的とされる平仮名が出番を失い、男性的な印象の片仮名を使うことが生活の中でも推奨されるようになりました。また、漢字は『本字(ほんじ)』というほど格式高い文字とされ、片仮名は次に正式な字として使用されていました。この頃は、平仮名より片仮名の方が、正式な文字として教えられていました。

さらに、都市部に比べて農村部は、自分の名前や数字など最低限のレベルしか学問が必要とされず、漢字の読み書きすら教育されていませんでした。そこで、男子には気合を入れて漢字の名前を付けたのに対し、女子に名前を付ける際には『漢字は恐れ多い』という意識が強く、どの世代でも読み書きのできる片仮名の名前が付けられていたのです」

Q.当時の片仮名の名前は、現代では「新鮮」「斬新」な印象を受ける名前が多いですが、名付けのモチーフになったものはあるのでしょうか。

齊木さん「女子の名前は記号として分かればよいとされていたため、例えば、末っ子なら『スエ』、3番目の子どもなら『サン』など、出生の順番による分かりやすい名前が付けられていました。また、縁起のよさにあやかる『ツル(鶴)』『カメ(亀)』『マツ(松)』、さらに『ウメ(梅)』『タケ(竹)』『ハナ(花)』も人気を博していました。

動物をモチーフにすることも多く、『クマ』『トラ』『ウシ』といった名前まで付けられていました。沖縄では、生活用品をモチーフにした『カマ』『ナベ』『メガ』を使った、『ウシメガ』『カマドメガ』『カニメガ』など、より斬新な名前も非常に多く見られました。

また、定番を合体させた『カマドガマ』なども、典型的な名前として付けられていました。こうして、生活の中で親しみのある名前が付けられていたのです」

Q.「おばあさん世代には片仮名で2文字の名前が多い」との声も聞かれます。

齊木さん「女子の名前は『難しい意味を持つ漢字を付けるより、単純なものでよい』という考えから、片仮名2文字の名前が多くなりました。

また、江戸時代初期の女性は、名前の頭に『お』を付ける風習がありました。これは、人物と物を区別するためといわれていますが、『チヨさん』ならば『おチヨさん』となり、語呂がよいものとして、時代の背景を反映した流行であったといえます。この風習の名残は昭和初期までありました。

さらに、戸籍上は『シズ』など片仮名2文字とされていても、漢字を当てて『静』や『静子』という記載や名乗りを許される風潮がありました」

Q.一方で、おじいさんの名前には、おばあさんほど片仮名が多用されている印象はありません。

齊木さん「男尊女卑の思想があったからです。男子が誕生すると、稼ぎ手として歓迎されていました。特に、長男は跡継ぎなので大切に扱うという風習があり、学識ある人物の助けを得るなどして、立派な漢字の名前が付けられていました。

江戸時代の家系図を見ても、男子は漢字の名前がしっかりと書かれていましたが、女子は『女』の表記しかありませんでした。男尊女卑が激しい時代の風潮といえそうです」

オトナンサー編集部

おばあさんの名前はなぜ片仮名が多い?