―[言論ストロンスタイル]―


◆半島と香港は、「日本が地球上で生き残れるか」という一つの問題なのである

 飛耳長目(ひじちょうもく)。

 吉田松陰先生の座右の銘だった。言うまでもなく、松陰先生は松下村塾で幕末維新の指導者となる若者を教育した。その時に「どうしたら日本が生き残れるか、自分が将軍になったつもりで日本のことを考えろ!」と教えていた。他の誰の責任にもしない、自分が日本を背負うつもりで勉強しろと教えていたのだ。

 そして自ら範を示し、国際情勢に関する情報を集めまわった。耳を飛ばすように情報を集め、目を長くして分析評価する。

 現代日本が生き残るためにこそ、必要な教えであろう。

 さて、我が国の周辺が緊迫している。韓国は日米から離反し、中露朝の陣営の国であると露骨に示しはじめた。一方、香港では反体制派のデモが半年も続いている。

 朝鮮半島問題について語る論者は腐るほどいるし、香港問題を解説してくれる論者も後を絶たない。では、この二つの場所で起こっている二つの事件が、独立した別個の問題ではなく、一つの問題だと教えてくれる識者は何人いるだろうか。半島と香港は、「日本が地球上で生き残れるか」という一つの問題なのである。

 現在の国際社会で、覇権国家(チャンピオン)はアメリカである。アメリカの覇権に中国が取って代わろうとしている。かつての挑戦者であったロシアは、中国の陰に隠れて、虎視眈々と失地回復を狙っている。三大国が東アジアで睨み合っているのだ。

北朝鮮はもはや韓国を乗っ取った

 ここに北朝鮮が、自己主張をしている。朝鮮半島は悲劇の土地で、常に大国に翻弄されてきた。ところが70年間に渡り北朝鮮の地で圧制を強いている金一族だけは違う。米中露の三大国の間を巧みに泳ぎ切り、自らの主体性を示して生き残ろうとしている。その為なら、人民の100万人を殺してでも核武装をするのが北朝鮮だ。

 北朝鮮は、12万人とも言われるスパイを送り込み、韓国を乗っ取った。韓国の文在寅大統領の行動を見よ。その愚かな行動の数々も、北朝鮮が送り込んだスパイだと仮定して考えれば、説明がつくことばかりではないか。

 19世紀以来、東アジアは海洋国家と大陸国家のせめぎあいで動いてきた。大英帝国vs.ロシア帝国アメリカ合衆国vs.ソ連、そして今はアメリカvs.中国。

 現在の形勢はどうか。海洋勢力と大陸勢力がぶつかる主戦場だった朝鮮半島では、韓国の陥落で大陸勢力が優勢だ。しかし、香港に火が点いて、中国も大わらわだ。

 世界の政治家は、地球儀将棋盤か碁盤のように見立て、勢力争いをしている。米中ともにお互いの勢力圏に攻撃を加えて、ポイントを挙げあっているように見える。だが、苦しいのはアメリカの方だ。

 この原稿を書いている最中にも、韓国で法務大臣予定者のスキャンダルが噴出し、香港では行政長官がデモ隊をなだめる声明を出している。これらに関しては、大陸勢力の方が対応に追われる。では、海洋勢力はこれ以上に攻め込めるのだろうか。このまま香港や韓国で騒ぎが広がったとして、中国から香港を取り返すことはできない。一方で、韓国は今のスキャンダルが広がったとして、反中反北の大統領が誕生する見込みはない。

 劣勢なのは、海洋勢力なのだ。なぜなら、アメリカは中露北の三か国を相手に、一人で立ち向かわねばならない。それどころか、韓国に至っては、もはや大陸勢力に寝返ったに等しい状況だ。

◆大陸勢力にとって、韓国の次の標的は日本

 そして、もう一国。役立たずの国がある。日本だ。

 韓国のように裏切りはしないが、同盟国として何の頼りにもならない。東アジアのすべての国が、韓国すらも国防努力をしている状況で、防衛力をまるで増やしていない。それどころか、韓国が敵陣営に回ったことを、喜んでいる有様だ。

 確かに、韓国の数々の所業は許しがたい。今や多数の日本国民は、文在寅を狂人だと見做している。雑誌でも本でも、韓国の悪口を書けば売れる。お怒り、ごもっとも。

 だが、韓国の狂気に対処しなければならないのは、日本なのだ。

 国際政治は動く時は一気に動く。北朝鮮にしても、後ろ盾の中露にしても、いきなり南北朝鮮が統一して、アメリカと直接対峙するのには慎重にならざるをえない。だが、世界の歴史を振り返れば、はずみで国が消えた事例など、山のようにある。

 古来、朝鮮半島が敵対的になった時、日本には戦う以外の選択肢は無い。白村江の戦い然り、元寇然り、日清日露戦争然り。そしてアメリカが代わりに戦った朝鮮戦争、然り。

 文在寅が、北朝鮮やその背後の中露に忠誠を誓うということは、日本は開戦前夜だとの危機意識を持たねばならない。大陸勢力にとって、韓国の次の標的は日本なのだから。

 北朝鮮は、軍隊を使わずに韓国を征服した。間接侵略だ。中国も台湾の間接侵略を狙っている。香港問題とは中国にとって台湾問題であり、隙あらば尖閣を奪おうとしているのも、台湾を大陸本土と尖閣で挟み撃ちにして孤立させるためだ。

◆なぜ軍隊を使って直接侵略をしてこないのか

 では、中国にしても北朝鮮にしても、なぜ軍隊を使って直接侵略をしてこないのか。米軍が東アジアで睨みを利かせているからだ。台湾にこそ米軍は駐留していないが、アメリカの「台湾関係法」は有事には軍事支援を行うことを決めており、事実上の軍事同盟である。韓国とは米韓相互防衛条約を結び、今でも在韓米軍が駐留している。だから、直接侵略はできないのだ。

 文在寅政権は、一刻も早く在韓米軍を追い出そうとしている。それが大陸勢力の利益だと信じているかのように。

 では日本人は、どう考えるべきか。もはや韓国は実質的に陥落した。だが、形式は残っている。大韓民国は実質的には北朝鮮の衛星国だとしても、形式的には主権国家である。アメリカを挑発するような行動を続けても、在韓米軍は残っている。

 日本にとって、在韓米軍の最終撤退までが、最後の猶予期間だ。アメリカを支えるに足る軍拡を行う。台湾や、同じく中国の侵略に怯えるアセアンとの結束を強める。等々、やるべき方策は明確だ。

 さて、実行できるか。150年前、列強の侵略を跳ね返した、先人達のように。心ある人たちは、自分が総理大臣になったつもりで考えよう。

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

―[言論ストロンスタイル]―


日本からの独立記念日である8月15日、韓国・天安で演説する文在寅大統領。韓国から呼びかけられる“対話”、動き続ける周辺諸国、我々が今すべきは何か 写真/時事通信社