ニュースなどで目にする女性の薬物犯罪。未成年の子どもがいる女性が逮捕されることもあるが、彼女たちはなぜ薬物依存症になってしまうのだろうか。

薬物を使っているボーイフレンドと出会ったり、風俗で働くことになり客に薬物を勧められたりする場合もある。男性が背後にいるパターンだ。

また、過去にDVなどの暴力や虐待を受けた女性も少なくないようだ。あるシングルマザーは、薬物を止められなくなり、子どもと引き離されてしまったという。彼女が薬物依存症になった背景には、男性に暴力を振るわれるなどの被害体験があった。 彼女たちと関わる際には、何が重要なのか。薬物使用者の支援に携わるソーシャルワーカーの古藤吾郎さん(NPO法人アパリ)に聞いた。

●子どもがいる女性「SOSを出せる」向き合い方を

古藤さんは「違法薬物を使用する女性に限らず、多くの女性の受刑者は、男性や近親者たちによる『被害』的な体験があります」と指摘する。

しかし、覚せい剤などの違法薬物の使用は「犯罪」だ。女性に未成年の子どもがいれば、児童相談所が介入し、母子が引き離されることもある。

古藤さんは「子どもの安全が第一」としたうえで「支援の場では、母親をどう支えるかを大切にしている」と話す。

「『薬物を止めることができない母親から子どもを引き離そう』という姿勢で向き合えば、母親はますます殻にこもり、SOSを出すことができなくなります。その結果、薬物が止まりにくくなるかもしれないし、子どもの福祉が脅かされる可能性も高まってしまいます。

どのようにすれば、子どもが母親から引き離されることなく、そして母親が安心して回復や支援につながることができるか、という視点で考え始めることが必要です」

●「薬物を止めさせようとする」ことが解決ではない

古藤さんによると、子育て支援を受けながら母親が安心して回復できる場を提供する施設もある。その1つが薬物依存症の女性を支援する施設「ダルク女性ハウス」だ。

同施設は「母子プログラム」を2004年に開始。母親の心のケア、薬物依存症の回復、そして自立に向けたサポートに力を注ぎ、孤立しがちな母子を支援している。

古藤さんは「薬物を止めさせることで、本人が抱えている問題がすべて解決するわけではありません。薬物を止めたあとに生き延びていけるように、支援環境を整えていく必要があります」と強調する。

過去に辛い体験をし、薬物を使い続けることで生きてこられた女性たちが多いという。しかし、社会の中で違法薬物を徐々に減らしていくことは難しい。1度でも使用すれば、刑罰が科されるためだ。

「司法が関与すると『薬物を止めさせる』ことに重きが置かれます。本来は、地域の保健・医療・福祉で薬物使用を含め本人とその世帯の暮らしを支援できるはずです。違法ではない処方薬依存ならば、すぐに完全断薬させるような対応はなされないですし、地域で支援を受けることになります。ところが、違法薬物となると、地域の中で十分な支援が受けられないことが多くあります」

●女性の薬物依存症、背景に暴力や虐待

矯正統計年報によると、2017年末の時点で「覚せい剤取締法」違反で受刑中の女性は1483人。男性(10687人)よりも数は少ない一方で、全女性受刑者のうち、同法違反が占める割合(38.4%)は男性(全男性受刑者のうち24.9%)よりも高くなっている。

女性は男性よりも、薬物依存症などの物質使用障害になるスピードが早いのだという。

UNODC(国連薬物・犯罪事務所)は、女性の薬物依存症をめぐる原因とその影響として、①受刑していること、②HIVやC型肝炎などの感染、③PTSD、④ジェンダーに基づく暴力被害、⑤機能不全家族、⑥社会の中にある不平等、⑦女性に対するスティグマと差別、⑧幼少期の逆境的経験(たとえば虐待)などを挙げている。

ただし、過去に暴力や虐待を受けたすべての女性が薬物依存症になるわけではないという。古藤さんは「だれと出会うか、どのような環境にあるかによっても変わります」。

「母親なのに、薬物依存症になるなんて」。このような言葉に傷つき、支援の場から遠ざかってしまう母子もいる。「女性が被害を受けやすく、SOSを出しにくい。つまり、男性優位な社会構造を変えていく必要があります」と古藤さんは訴えた。

【古藤吾郎さんプロフィール】 NPO法人アパリ ソーシャルワーカー(精神保健福祉士)。日本薬物政策アドボカシーネットワーク事務局長。米国コロンビア大学大学院にてソーシャルワーク修士課程修了。薬物使用者の支援だけではなく、DV加害者男性教育プログラムなどにも従事。

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