発生以来1週間を経過しつつある、台風15号による千葉県を中心とする停電・断水被害。

JBpressですべての写真や図表を見る

 そもそも首都圏至近で100万戸に迫る大規模停電が起きるということ自体が「想定外」であったことに加え、東京から遠くなるほど、復旧に著しい時間を要するとみられる被害の「同心円構造」が、極めて深刻な問題を垣間見せています。

 この症状は「遠心性麻痺」と言い換えた方が適切かもしれません。

 比較的都心に近い木更津、佐倉、成田などの周辺エリアでも、被災から復旧まで10日ほどを要し、君津、勝浦、大多喜など上総エリアでは2週間以上、南房総 鴨川 館山 鋸南町など安房エリアでは3週間に及ぶ停電が続く恐れが高い。

(以上は9月13日時点での発表をもとに記したものでしたが、本稿校正時点の9月15日木更津市などを含むさらに多くの自治体で、復旧が最大9月27日までずれ込む見込みとの発表=https://www.asahi.com/articles/ASM9H4D4XM9HUTIL00C.htmlがありました。基本的な「遠心性麻痺」の傾向は一貫しています)

 報道では、そもそも火力発電所が被害を受けたこと、送電線の鉄塔倒壊から電柱、電線の損壊まで、目に見える被災状況が報じられているようです。

 しかし、被害の「遠心性麻痺」という露骨な現実が示しているのは、より本質的な国土計画、国や自治体のインフラストラクチャーに関する基本政策の問題、ないし気候や社会の変化に対応できていない限界そのものであるように思われます。

 千葉では停電、断水、また携帯電話などコミュニケーション網の寸断によって、大都市至近ながら被災地が「陸の孤島」化する現象が発生。

「断水」も「通信障害」も本質的には「停電」に起因するものと考えられ、エネルギー政策の根幹が問われていると考えるべきと思われます。

過疎と並行する都市の老化

 復旧の「遅れ」それ自体もさりながら、被災直後、回復の「めどが立たない」という報道が社会にショックを与えました。

 送電経路が絶たれた場合、迂回路が見当されるわけですが、ネットワークが緊密であれば、いくらでも第2、第3のルートを選ぶことができるでしょう。

 それがなかった。つまり1回の台風被害によって「ネットワーク」=網目構造が成立しない状況になったこと、それ自体をまず認識する必要があるでしょう。

 人体にたとえて言うなら、毛細血管が多数張り巡らされた身体各部位へと安全に酸素や栄養を送り届けるのには、複数の動脈経路が確保されている方が確実性が高まるでしょう。

 逆に、幹線となる動脈が梗塞したり、断裂してしまったりすれば、致命的なことにもなりかねない。

 今回、安房という房総半島の先端で発生している現象は、中枢や心臓部方向から送られてくるべきエネルギーが絶たれてしまったことで、いわば末端壊死に近い症状が出ていると考えることができます。

 現実に、漁港では養殖魚を放していた「いけす」に供給されていた電力が絶たれ、ポンプが停止したために大量の魚が窒息死。

 さらに早期であればそれらの魚を出荷も不可能ではなかったものが、製氷機が動かないため売り物にならず、腐らせるに任せることになりかねない、といった2次被害も発生しており、「壊死」という表現がそのまま成立する状況になっている。

 東電の社名は「パワーグリッド」と変更されましたが、肝心のパワー、つまり電力を供給するシステムが「グリッド」つまり格子状のネットワークになっておらず、数か所断たれると機能しなくなる「パワーライン(ズ)」であったことが露呈してしまった。

 千葉県内には13の火力発電所が稼働していますが、その大半は内房の東京湾沿いに集中しています。

 例外的に成田の先の匝瑳や、上総大多喜の面白峡、鴨川北部のソーラーがあるほかは、房総半島の先端、安房地域には発電設備が払底していることが、今回被害の本質的な原因であるというべきでしょう。

 本当にパワーをグリッド化しようと思うなら、本格的な自律分散型の電力供給網システムを抜本的に再構成する必要があるように思われます。

 今回千葉で発生した同心円状の被災は、こうしたエネルギー政策の必然の結果であったと理解すること、そこから立て直しを考えなければ、同様の被害の再発を食い止めるのは困難であると言わねばなりません。

大規模気候変動と新陳代謝しない町

 今回甚大な被害を受けた房総半島最南端の安房エリアは、当初の台風被害に続いて、停電などの永続により2次的、3次的な被害の蓄積度合いを深めています。

 館山市や鋸南町など、甚大な被害を受けたエリアの空撮映像などからは、屋根がまるごと持って行かれてしまうような民家の甚大な被害や、トタン板などを張って作られた年代物の作業場が壊滅的な打撃を受けた様子などが見て取られました。

 これらのエリアは例外なく、人口が減少し続けており、著しい高齢化傾向を確認することができます。被災者の中には年金で生活を支える人も少なくないでしょう。

 こうした事実はまた、単に居住者が高齢化しているというだけでなく、街そのもの、つまり個人の住居から企業の建物、工場や作業所など、自治体そのものの作りが老朽化しつつあり、かつ新たな建て替え、いわば新陳代謝が少ない状況を、見せているかと思います。

 40年来操業してきて、こんな被害はなかった・・・といった、被災者インタビューの声が紹介されていますが、ここでは2つの現象の交錯を指摘しておくべきでしょう。

 一つは、すでに否みようのない事実であるところの「気候変動」すなわち、20世紀生まれの筆者の世代に懐かしい、あのかつての日本の四季は、すでに失われつつあるという現実を認めねばなりません。

 それが「温暖化」と一言で言えるものなのかは、率直に言ってわかりません。ローカルには温暖化もあれば寒冷化もありうるでしょう。

 ただ、明らかにグローバルな地球の気候は変化しつつあり、日本を襲う豪雨や熱帯低気圧は、明らかにかつてより大型化し、より多くの風や雨をもたらすものとなっている。

 20世紀までの「従来型」の防災では、そもそも間に合わなくなっているのは、歴史的な城址などで、保全措置が取られていたはずなのに、瓦が崩落するような現象からも、すでに如実な現実になっている。

 そもそも20世紀型の防災では、すでに間に合わなくなっている。

 加えて、その、すでに実情と合わなくなっている仕様で30年、40年前に作られた施設、建てられた家やビル、作業場から漁港設備まで、町のあらゆるものが老朽化し、要するに「弱ってしまっている」。

 そこに、かつてない規模の台風が直撃し、一番弱い部分に顕著な被害が集中してしまっている。

 しかし、この傾向は、残念ながら今後、より一層悪化することはあっても、徒手したままで緩和するとは到底思われない・・・大変遺憾ながら、そのリスクを認めないわけにはいかないでしょう。

 今後、さらに大きな「かつてない規模」の大型熱帯低気圧が日本に上陸する可能性は、決して低くないと思われます。

 気候はすでに大規模に変化してしまっている。もっとはっきり言えば、地球はいろいろな場所で壊れつつある。

 いまでこそ「ゲリラ豪雨」などという賞味期間の短そうな名で呼ばれる驟雨も、スコールのようなものとして定着してしまえば、ごく当たり前に起きる天気の変化となる。

 19世紀までの奥ゆかしい日本の四季は早晩、絶滅し、フィリピンマレー半島に近い大型台風やスコールが当たり前の「季節現象」になってしまえば、それに合致する街づくりを徹底しないかぎり、今回同様、あるいはさらに甚大な被害が発生しても、全く不思議ではありません。

 かつ、日本の多くの「動脈」は、20世紀中半、高度成長期に計画、建設された骨格を脱していないといえる状況と思います。

 端的にそれが見えたのが、東京を中心とするドーナツの典型というべき、今回千葉で発生した「遠心性麻痺」ないし「末端壊死」の被災状況は、今後日本全国の都市やその周辺部で、繰り返し発生しうる「複合型災害」のひな型を見せていると考える必要があると思います。

 人は老い、子供は生まれず、社会が高齢化するだけではなく、都市全体が老朽化し、はっきり言えば「放っておけば壊滅するに任せる」程度まで、新陳代謝しなくなってしまっている。

 そこで単に手をこまぬいているだけであれば、確実に甚大な被害が訪れることでしょう。動きが悪い、といったコンシュマーの意識で対処しようとしても、はっきり言って無理がある、

 なぜといって、そうした過疎化が進み、住民の高齢化と都市全体の老朽化が進む、20世紀型「末端」地域を再活性化する、どのような財源が確保されているのかと問われたとき、明確な答えを誰が出すことができるでしょう?

 今回の「断水」状況を見るだに、今後上下水道「民営化」などが進んだ日には、こうした「末端」部に何が起きるかは、言わずともしれた事態、切り捨てに漸近することが懸念されます。

 具体的に明るい未来図を描くことに、現状では困難があるのは、間違いありません。

 改めて今回被災された方には、心からのお見舞いを申し上げます。

 9月16日朝には、降り続く大雨のため土砂災害のリスクが高まっているとして館山市全域と南房総市の一部に避難勧告が出されています。

 強風も予想され、ブルーシートで損壊部を凌いでいる家屋などには2次、3次被害の波及が心配です。

 本稿公開予定の17日には風雨のピークは過ぎていると思われますが一部にはにわか雨もあるだろうとの予報になっています。

 とりわけ、千葉の当該エリアは「チバニアン」問題の連載でも触れたように、私自身、中学高校生時代に地質調査で通った地域であり、懐かしく思い出深い地名が被災地として紹介されることに心を痛めざるを得ません。

 と同時に、受け身で待っていても、状況の改善は期待しづらいでしょう。

 具体的なアクションにつながる新たな再生プランが、必要不可欠であると思います。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  被災地の子供を救うサバイバルの叡知を!

[関連記事]

データが如実に語る、京アニ事件の罪深さ

少女との乱交、不審な自殺とMITメディアラボ

首都圏を直撃した台風15号で千葉県を中心に大きな被害が生じた(写真:ロイター/アフロ)