軍産複合体――。

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 懐かしい響きの言葉である。米国の軍需産業と国防総省(ペンタゴン)が維持する相互依存体制のことだ。

 ドワイト・アイゼンハワー大統領1961年の退任演説で軍産複合体について述べたことで、世に広まった。

 演説全体を通して、軍需産業とペンタゴンの結託は危険であると警鐘を鳴らしている。演説の中ほどで、次のように述べている。

「軍産複合体により、市民の自由や民主的活動が危機にさらされてはいけない」

 そしていま、軍産複合体という言葉が再び注目を集めている。ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)のもとで、軍産複合体が拡大しているのだ。

 トランプ支持の論調を展開する保守系新聞「ワシントンタイムズ」でさえ、「軍産複合体の肥大化により、連邦議会は歯止めが効かなくなる危険性がある」という内容の記事を載せている。 

 いったいどういうことなのか。

 話を分かりやすくするために、まずペンタゴンの人事から眺めたい。

 トランプ政権の初代国防長官だったジェームズ・マティス氏が政権を去った後、今年1月から6月半ばまでパトリックシャナハン氏が国防長官を務めていた。ボーイング社上級副社長だった人物である。

 ボーイングは民間航空機メーカーとして有名だが、軍用機やミサイルの製造元でもあり、シャナハン氏自身、地上配備型のミサイル迎撃システムや次世代型戦術レーザー兵器プロジェクトを担当していた。

 そして7月から国防長官に就いたマーク・エスパー氏は陸軍士官学校を卒業した元軍人だが、2007年に除隊した後はペンタゴンと軍需産業の橋渡し役をしていた。

 2010年からは軍需大手レイセオン社のロビイストになり、その後、同社の副社長にまで昇格する。そして2017年ペンタゴンに戻ると陸軍長官になり、今夏からは国防長官に就いている。

 マティス元長官は海兵隊大将を務めた根っからの軍人だったが、同氏以降は軍需産業の「御用聞き」とも呼べるほど軍産複合体を体現している人物が長官になっている。

 ワシントンタイムズ紙は、軍需企業とペンタゴンの関係がかつてないレベルで便宜供与をする関係になってきていると指摘する。

 首都ワシントンにあるシンクタンク、国際政策センターで軍備・安全保障プロジェクトウィリアム・ハータング部長も、過去何十年も続いてきた軍産複合体は変わらないどころか、以前よりもさらに結びつきが強化されていると言う。

「エスパー長官はレイセオンのロビイストだった人物です。本来、国防長官は従軍経験が豊富で、軍事政策に長けた人物であるべきですが、いまは軍需企業のロビイストがペンタゴントップに立つのです」

「レイセオンのロビイストは爆弾をサウジアラビアに売却する手配をしてもいます」

「昔から民間企業と政府機関を行ったり来たりする関係(回転ドア)はありましたが、回転速度は速まっています」

 毎年、数百人単位の人間が軍需企業からペンタゴンに、そしてペンタゴンから軍需企業に転職している。

 ワシントンにある非営利団体「政府監視プロジェクト(POGO)」の調べでは、2018年だけで645人の上級職がペンタゴンなどの政府機関から上位20位までの軍需企業に転職していたことが分かった。

 政権が交代すれば、政府内の上級職はほぼ全員が交代する。逆に言えば、軍需企業に在籍する社員たちが数年でペンタゴンに舞い戻れることでもある。

 そしていま、軍需業界を揺るがすことが起きている。

 エスパー国防長官の古巣であるレイセオンが米航空・機械大手のユナイテッドテクノロジーズと合併するのだ。

 合併計画は今年6月に発表されたが、10月中旬に両社の株主総会で承認されれば、ボーイング社(約1011億ドル)に次ぐ業界第2位の売上(約740億ドル)を誇る軍需企業になる。

 企業名は「レイセオン・テクノロジーズ」である。

 このニュースを聴いたトランプは業界の寡占が進んでしまうとの憂慮を口にしたと言われるが、議会関係者やウォーストリートからは反対の声がほとんど聞かれない。

 トランプ本人も実は容認しているといういのが周囲の見方だ。というのも、両社が得意とする分野が違うため、今回の合併は好意的に捉えられているのだ。

 さらに法務省や連邦取引委員会(FTC)からも異論が上がらない。労組からの反対もない。むしろ潤沢な資金があることで、将来のR&Dの前進が期待されている。

 同社だけではなく、軍需企業は全米に製造工場を置く。

 例えば、ユナイテッドテクノロジーズが技術協力するロッキード・マーティン社製のステルス戦闘機F35」は、実に46州に点在する工場で様々なパーツシステムが作られ、12万5000人が雇用されている。

 しかもトランプ政権が要求する2020年会計年度の米国防費は7500億ドル(約80兆円)で、過去最高である。

 米国は戦時下であろうがなかろうが、軍需産業によって活力を得てきたと述べても外れてはいないかもしれない。

 前出のハータング部長が『ネーション』誌に書いている。

「米国の武器商人たちにとって、トランプ大統領は史上最高の支援者と言えます。そしてサウジアラビアが最大の顧客です」

「連邦上院も今夏、サウジアラビアアラブ首長国連邦に緊急の武器輸出法案を可決しました。その中にはレイセオン製の爆弾も含まれていました」

 そのレイセオンのロビイストだった人物がいまの国防長官である流れは、軍産複合体の一端を説明することになっているはずだ。

 レイセオンの社訓は「顧客の成功がわれわれの使命」というものである。

 軍産複合体は米政財界に連綿と続く便宜供与の仕組みだが、民主党政権時代でもほぼ変わらず続いてきた。

 複数の米市民団体(パブリック・シティズン、ムーブオン・ドット・オーグ、ウォー・ウィザウト・ウォーなど)は軍産複合体を弱体化させる意味で、国防費を2000万ドル(約21兆円)削減する計画を打ち出している。

 しかし国防費に多額の予算が計上され、武器が製造され、そして無辜の市民が犠牲になるという悪のサイクルを断ち切るまでには至っていないのが今の米国の姿である。

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米マサチューセッツ州にあるレイセオン社のオフィス(写真:ロイター/アフロ)