旅行者やビジネスマンを悩ませる飛行機の遅延。機材トラブルや悪天候など、さまざまな要因がありますが、たった1人の乗客を待っていたために、飛行機が遅れるということもあります。

都内のIT企業に勤めるアオイさん(仮名・30代)もそんな体験をした1人。遅れている乗客1人を待つという内容のアナウンスがあり、飛行機の出発が大幅に遅れたといいます。

「遅れてきた人は、悪びれることなく飛行機に乗ってきました。目的地には大幅に遅れて到着し、危うく予定に間に合わないところでした。もし、大事な仕事や乗り継ぎの便に間に合わなかった場合はどうしてくれるのか」とアオイさんは憤慨しています。

もし、遅れてきた人を待ったために飛行機が遅れ、ほかの乗客に損害が発生した場合、遅れてきた人に対して、損害賠償を請求することはできるのでしょうか。正木健司弁護士に聞きました。

●遅れた人に賠償を求めることはできない

「結論から言いますと、遅れてきた人に賠償を求めることはできないでしょう。

仮に遅れてきた人が、他の多数の乗客に対し損害賠償しなければならないとすれば、余りに過大な責任を負わせることになり、不当な結果を招くことになります。

この場合、むしろ遅れてきた人を待っていたがゆえに出発が遅れた、航空会社の責任が問題となります」

なぜ航空会社の責任問題になるのでしょうか。

「航空会社は、飛行機の乗客と運送契約を結ぶことになっており、その契約上、定刻通りに出発する義務があると考えられるからです。

そして、航空会社は、運送約款を定めており、顧客との運送契約について細かい取決めを行っています。運送約款では、定刻に遅れた乗客のために航空機の出発を遅延させることはできないとされています。

そうすると、遅れてきた人を待っていたために、出発が遅れた場合には、航空会社は乗客に対して責任を負うことになりそうです」

●「やむを得ぬ事由」に該当するかどうか

では、航空会社が賠償責任を負うということでいいのでしょうか。

「しかし、運送約款では、一般に、悪天候等のやむを得ぬ事由により、予告なく、航空機の運航時刻の変更等の措置をとることがありますが、その措置をとったことにより生じた損害について、乗客に対し賠償責任を負わないとされています。

そこで、遅れた人を待っていたことが、『やむを得ぬ事由』に該当するかが問題となります。先ほど説明したように、定刻に遅れた乗客のために航空機の出発を遅延させることはできないとされていることからすれば、これに反して遅れた人を待っていることは、『やむを得ぬ事由』に該当するものとは認められず、航空会社は免責されないと考えられます。

ただ、『やむを得ぬ事由』を広く解釈すると、航空会社に賠償責任を負わせることは困難でしょう。仮に『やむを得ぬ事由』に該当せず、航空会社に賠償責任が認められる場合でも、賠償の範囲については、因果関係が問題となり、遅延の程度にもよって、変わってくるでしょう。状況次第ですが、現実には航空券の払戻金程度と考えるのが妥当ではないでしょうか」

【取材協力弁護士】
正木 健司(まさき・けんじ)弁護士
先物取引、証券取引、デリバティブ取引などの投資被害事件、金融商品取引訴訟を多数取り扱う。名古屋投資被害弁護士研究会代表。先物取引被害全国研究会幹事。全国証券問題研究会幹事。愛知大学法科大学院非常勤講師(消費者法)。ケフィア事業振興会被害東海弁護団事務局長。K&A投資被害弁護団事務局長。
事務所名:弁護士法人名城法律事務所
事務所URL:http://www.meijo-law.jp/

たった1人の乗り遅れ、飛行機が「大幅遅延」して乗客激怒…賠償請求はできる?