箱根登山鉄道で終点の強羅まで乗ると、計3回途中で列車が後ろ向きに動き出します。スイッチバックと呼ばれる運転形態で、高低差のある地形を上るための工夫です。実際にスイッチバックを行う現場を見てきました。

ジグザグに走って勾配を克服

神奈川県の観光地・箱根。そこを走る箱根登山鉄道は、小田原~強羅間の15kmを上り下りします。

その高低差は約500m。途中には、ケーブルカーなどを除いた一般的な鉄道としては日本で最も急な勾配である80‰(1000m進むと80m上る計算)の区間もあります。また、連続する急カーブを走る電車は、レールの摩耗を防ぐため、走行中は車輪とレールのあいだに水をまきながら走ります。普通は油が塗られますが、急勾配で車輪が滑らないよう、箱根登山鉄道では水を用いています。

このような険しい地形を克服するため、列車は途中、進行方向を3回変え、後ろ向きに動き出します。スイッチバックと呼ばれる運転形態を、実際に見てきました。

箱根登山鉄道小田原駅を出ると、しばらくJR東海道本線と並走。東海道新幹線をくぐると、徐々に上り坂になります。途中の箱根湯本駅で列車を乗り継いで出発すると、窓の外は車両ギリギリまで崖や木々が迫る風景に。いよいよ電車は急な坂を上っていきます。

駅や信号場で計3回のスイッチバック

箱根湯本駅からひとつ目の塔ノ沢駅を出て、電車は出山信号場に到着。しかし進行方向は行き止まりです。乗客は下車できず、運転士と車掌がプラットホームのような所を歩いて交代すると、電車が後ろ向きに動き出しました。1回目のスイッチバック運転の一部始終です。

鉄道は、急坂を上るのは困難です。そこで、勾配を抑えるために線路をあえてジグザグに敷き、地形を克服している箇所があります。道路の「つづら折り」と考え方は同じです。

ひとつ目のスイッチバックを終え、電車は大平台駅に到着。乗客の乗り降りが済むと、ここでも電車は逆方向へ出発しました。先ほどの信号場とは違い、駅でスイッチバックを行ったのです。

大平台駅を出るとすぐ、電車はさらに上大平台信号場で3回目のスイッチバックを実施。信号場のため、1回目と同じく乗客の乗り降りはありません。小田原駅から約10km、計3回のスイッチバックを経て、ここまでで約330mの高低差を上りました。このように、進行方向を変えてジグザグに上ることで、険しい地形を克服しています。

急坂を上り、上大平台信号場に入線する強羅行きモハ2形電車。強羅へ行くにはここで進行方向を変えて、画面左の線路へ入る必要がある(2019年8月3日、大藤碩哉撮影)。