スペイン発コラム】日本代表から合流後のビルバオ戦でホームデビュー、PK奪取のドリブルで輝き

 日本代表MF久保建英が、ついにスペインでもその才能の一端を発揮し、一夜にしてマジョルカサポーターのハートを完全に鷲掴みにした。

 久保は9月の代表2連戦、5日の国際親善試合パラグアイ戦 (2-0)、10日のカタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選ミャンマー戦 (2-0) でともに途中出場。右サイドで存在感を示してマジョルカに戻ってきた。しかし、13日にホームで行われたリーガ・エスパニョーラ第4節アスレティック・ビルバオ戦前に参加できた練習はわずか1回だったため、その試合のメンバー入りを疑問視する声が様々なメディアで伝えられた。

 実際、ビクトル・モレーノ監督も試合前日の記者会見で、「彼に代表戦がどうだったかを尋ねると、『すぐに別の遠征にも行くことができる』と言っていたよ。久保は試合出場に向けて若さと意欲でその疲労を補っている。そして何も起こらなければ起用することが可能であるし、他の選手同様、招集メンバーに入るチャンスもあるだろう。しかし彼は他の選手に比べてチームでの練習が不足しているため、招集メンバー入りは他の選手よりも難しいかもしれない」と語っていた。

 だが試合開始の1時間前に発表された招集メンバーには久保の名前がしっかりと記載され、マジョルカデビューを飾った前節バレンシア戦(0-2)同様、ベンチスタートとなった。

 午前中に大雨が降った後の曇り空のなか、リーグ戦2連敗中のマジョルカは2位のビルバオ相手にホームで拮抗した戦いを演じ、スコアが動かないまま前半を終了。久保は後半開始直後からウォーミングアップを開始。そして交代に向けピッチ脇に立つと、スタジアム中から「KUBO」コールが巻き起こり、後半18分、大きな拍手を受けながら本拠地ソン・モイセスのピッチに初めて立ち、ホームデビューを飾った。久保のユニフォームや日本代表のユニフォームを身にまとい、日本の旗を振るサポーターたちにとって待望の瞬間が訪れた。久保はそのことについて試合後、「とても嬉しかったし、交代した時のファンの歓迎に感謝している」と振り返っている。

久保本人もチームへのフィットに手応え 「ボールも来るようになっている」

 久保のポジションは、バレンシア戦と同じ右サイドハーフだった。最初はボールが入らなかったが、相手からボールを奪い返すシーンもあり守備面での高い意識を見せつけた。そして時間の経過とともに、足もとにボールが入ると本領を発揮する。後半35分、レアル・ソシエダエイバルパリ・サンジェルマンでもプレーしていた経験豊富な左サイドバック、DFユーリ・ベルチチェ相手にペナルティーエリア内で1対1を仕掛けてPKを誘発。 小さくも力強いガッツポーズで奮い立つ久保に、スタジアム全体がこの日一番の沸き上がりを見せた。

 しかしキッカーを務めたFWアブドン・プラッツがPKを失敗。その瞬間、スタジアム全体が頭を抱える仕草を見せた。もしあのシュートが決まっていれば、この試合最大の功労者は間違いなく久保になっただろう。しかし久保は「僕はPKを蹴らなかったので何も言うことができない。ゴールを決める時も外す時もある」と、PKを失敗したチームメートを擁護した。

 先制点は叶わなかったが、その後、久保が観衆にとって最大の“娯楽”となった。久保はその期待に応えるように、後半アディショナルタイム7分、2人のDFと対峙して相手からファウルを引き出し、強豪相手に勝利する希望の光を再び与えた。

 マジョルカはそのFKから、FWアレックス・アレグリーアがヘディングシュートでゴールネットを揺らす。しかしこれはオフサイドで取り消され、試合はスコアレスドローで終了した。

 久保は試合後、「前回よりも長い時間プレーする機会を与えてもらい、その分チームメートのことも徐々に分かってきて、ボールも来るようになっているので、このまま信頼を勝ち取っていきたい」と、徐々にチームにフィットしていることを語った。

 また日本代表とマジョルカの両方で、右サイドハーフプレーしていることについては、「そこが一番適しているかは分からないが、右サイドでも左でもトップ下でも、それぞれのチームの監督が決めたポジションでプレーするだけだし、どこでもできるのが自分の強み」と自信を窺わせた。

 スペイン紙「AS」は、この日の久保について「マジョルカを一歩前進させ、素晴らしいアクションでPKを誘発した」と高く評価し、2点(最高は3点)を付けた。同じくスペイン紙「マルカ」も、2点を付けて及第点を与えていた。

マジョルカ地元紙も評価 「均衡を破る力を示した」

 またマジョルカの地元紙「ウルティマ・オラ」は、「均衡を破る力を示し、試合の流れを変える可能性のあったPKを獲得した」と評価し、紙面でも久保の写真を大きく掲載している。

 スペインメディア「ラジオ・マルカ」のルイス・フォルテサ記者は試合後、「久保はピッチにいた時間でそのクオリティーの高さ、そしてチームに大きく貢献できることを証明していたよ。実際にPKを誘発したしね。また、私は彼のPKをもらった後のリアクション(スタンドに向かって雄叫びを上げる)も高く評価している。あれは観衆をさらに盛り上げるため、マジョルカのサポーターとつながるためにスタンドに向けたものだった。ここソン・モイセスでは今シーズン、間違いなく素晴らしいフットボールが見られることを皆が期待している」と、3試合連続で勝利を逃したものの、強豪相手のスコアレスドローに手応えを感じていた。

 久保はこの日、スペイン1部でも戦えるという確かなクオリティーを示した。次節は22日、ヘタフェとのアウェーゲーム。現在は3分1敗で18位に沈んでいるものの、ハードワークを売りにしたサッカーで昨季5位に躍進し、今季のUEFAヨーロッパリーグにも参戦している強固な守備を誇るチームだ。初スタメンの可能性も浮上している久保にとって、新たな試金石となる一戦になりそうだ。(高橋智行 / Tomoyuki Takahashi)

マジョルカのMF久保建英【写真:Getty Images】