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  誰が言ったか知らないが、研究とはキワモノであるらしい。

 「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に対して送られる今年のイグ・ノーベル賞にも、そんな格言を体現するかのようなユニークな研究が勢ぞろいしている。

 ちなみに日本人は13年連続受賞なのだそう。イグ・ノーベル賞常連国には他にイギリスがあるとのこと。今年、栄えある賞を受賞し、10兆ジンバブエドル(約890円)を贈られたのは以下10部門の研究だ。

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イグ・ノーベル物理学賞:ウォンバットのフンが四角くなる仕組みと理由の研究(アメリカ)

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 ウォンバットは四角いキューブ状のフンをすることで知られる唯一の動物だ。ジョージア工科大学の研究チームは、ウォンバットの遺体を解剖し、なぜそうなるのかを解明した。

 答えは、腸の形状と柔軟性、ならびにウォンバットが暮らす比較的乾燥した生息環境との組み合わせにある。この新しい知識はいつの日か、キューブ状製品を生産する技術を拡充したい製造業者にとって有益なものとなることだろう。

論文:Bulletin of the American Physical Society

イグ・ノーベル解剖学賞:フランスにおける全裸および着衣の郵便配達員の陰嚢温度に存在する非対称性の計測(フランス)


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 男性の陰嚢の左側は右側よりもやや温度が高いかどうかについて議論があることはあまり知られていない。しかし、ときおり左の睾丸のぶら下がる位置が右側よりも若干低くなることはかなり有名だ。

 これは、おそらくは睾丸同士が衝突することを防ぐためか、冷却の効率性を上げるためか、どちらかであるとされる。

 また、位置と温度のふたつの要素が相互に関連している可能性もある。いくつかの研究によって温度に非対称が存在することが示されており、著者らはその相違を解き明かすべく研究を試みた。

 若い男性の郵便配達員の睾丸の温度を、着衣および全裸で各種姿勢をとらせた上で繰り返し測定した結果、確かに左右の陰嚢の温度は非対称であることが確認された。

 ついでに「この左右陰嚢の温度の差異は、男性の外性器の非対称性に寄与している可能性がある」と結論づけられた。

論文: How do wombats make cubed poo?

イグ・ノーベル医学賞:イタリアで地産地消したピザは、病気と死を予防できることを示す証拠を集めてみた(イタリア・オランダ)


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 研究者らはイタリアのピザを食べるとがん予防に効果があるかどうかを調べた。2004年、彼らはピザが急性心筋梗塞のリスクを低下させるかどうかを調査。さらに2006年、2003年の業績に基づき、ピザが乳がん、卵巣がん、前立腺がんのリスクを低下させるかどうかを調査した。

 確かにそうした健康効果が地中海食の作用全般である可能性は認められた。しかし、イタリア以外のピザにも健康効果があって欲しいと願う人は多いので、更なる研究が期待される。

論文:Does pizza protect against cancer?

ノーベル医学教育賞:整形外科手術の訓練に”クリッカートレーニング”という簡易な動物訓練法を使用したことに対して(アメリカ)


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 この2016年の研究は、「ロッキング・スライディング・ノット結び」ならびに「低角度穿孔法」というふたつの外科手術作業を主な対象としたもの。

 著者らが実証しようとしたのは、学習における「音響フィードバック」の有効性だ。これは一般に動物の訓練士が採用する方法だが、先行研究では人間でも有効で、従来の実演型の訓練よりも優れている可能性が示唆されている。

 このの研究では、「クリッカーは、言語フリー・審判フリーな伝達によって条件強化子として作用する」ことが観察された。

 クリッカートレーニングを受けた医学生グループは、対照群よりも学習に時間がかかったが、作業の正確さでは優っていた。外科手術において、正確さは何よりも重要なものだ。

論文:Is Teaching Simple Surgical Skills Using an Operant Learning Program More Effective Than Teaching by Demonstration?

イグ・ノーベル生物学賞:死んでいる磁化ゴキブリは生きている磁化ゴキブリと違う挙動をすることの発見(シンガポール)


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 ゴキブリなどの昆虫が磁場を検出できる(磁覚)らしいことや、自らを磁化できることが示されている。研究者らは非侵襲的な技法(マグネットリラクソメトリー)で、ワモンゴキブリの死んでいる個体と生きている個体の磁化と、それが解ける速度を計測した。

 結果、生きているゴキブリは死体よりもずっと早く消磁されることが判明。研究者らによると、かかる研究は「世界を可視化するさまざまな方法の理解を促進してくれるだけでなく、ゴキブリにインスパイアされた人工センサーの改良に応用できるかもしれない」そうだ。

論文:In-vivo biomagnetic characterisation of the American cockroach

イグ・ノーベル化学賞:典型的な5歳の子供が1日に分泌する唾液量の測定(日本)


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 1995年の研究では、さまざまな食品(ご飯、ソーセージマッシュポテトクッキーりんごたくあん)が5歳児から分泌される唾液量に与える影響が検証された。

 子供は食材をかみ、それから飲み込まずに吐き出す。それから最初に口に入れられた食材の重さと吐き出された食材の重さの差から、唾液の分泌量が計測された。

 唾液は消化を助けるだけでなく、歯茎を健康に保つ、細菌を除去する、口臭を抑えるといったさまざまな効果がある。

論文:The study on salivary clearance in children. 3. The volume of saliva in the mouth before and after swallowing

イグ・ノーベル工学賞:人間の幼児向けのオムツ交換器の発明(イラン)

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 赤ちゃんを育てたことのある人なら、オムツ交換が面倒で骨の折れる作業であることが骨身に染みているだろう。

 イランの技師であるFarahbakhshは、その負担を軽減するために何かしようと決意。そして考案されたのが、一般的な食器洗い機と同じ発想で作られた機械だ。

 特許の説明によれば、「オムツ交換機の中に赤ちゃんを設置すれば、オムツにも赤ちゃんにも触れることなく、自動的に数ステップのうちに交換が終了」する。また水の使用の削減にもつながるかもしれない。Farahbakhshは昨年、この発明をアメリカで特許出願している。

論文:Infant washer and diaper-changer apparatus and method

イグ・ノーベル経済学賞:どの国の紙幣が危険なバクテリアを一番伝染させやすいかの検証(トルコ・オランダ)


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 「世界的に、通貨は一番頻繁に手渡しされる物である」と2013年の論文では述べられている。「通貨は汚染されている可能性があり、したがって細菌を人から人へと感染させる役割を担っているかもしれない。」

 この仮説を検証するために、研究チームは、各国の紙幣(ユーロ、ドル、カナダドル、クーナ、レウ、ディルハム、ルピーなど)を黄色ブドウ球菌と大腸菌で意図的に汚染し、(1)紙幣の細菌がどのくらい生存するか、(2)紙幣の手渡しによって細菌が伝染するかを調べた。

 どちらの細菌も他人に伝染させたのはルーマニアの紙幣レウのみで、おそらくポリマーが使用されているためだと思われる。したがって今後はポリマーを使う紙幣には触らないか、キャッシュレスな手段を使った方がいいかもしれない。

論文:Money and transmission of bacteria

イグ・ノーベル平和賞:痒いところを掻いたときの快感の計測(アメリカ他国際研究チーム)


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 ずっと痒かったところをようやく掻けたときの心地よさといったらない。研究者らは、その快感を定量的に研究したものがないらしいことに気がついた。

 彼らは2012年の研究で、ハッショウマメという熱帯のマメ科植物を使い、前腕、足首、背中、肩甲骨の下に痒みを生じさせ、それを掻いたときの快感を測定した(なお、これらの部位は慢性単純性苔癬やアトピー性皮膚炎になるとよく痒くなる部位だ)。

 その結果、足首と背中の痒みは前腕よりもひどく、それを掻いたときの快感も強いことが明らかになった。もちろん、掻けば少なくとも一時的には大幅に痒みが緩和する。

論文:The Pleasurability of Scratching an Itch: A Psychophysical and Topographical Assessment

イグ・ノーベル心理学賞:口にペンをくわえて笑顔を作ると気分が良くなることを発見し、さらにそれが間違っていることの発見(ドイツ)

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 1988年ドイツの研究者、フリッツ・シュトラックは、口にペンをくわえて笑顔を作ると、気分が良くなるという、ある種の表情によるフィードバックメカニズムの存在を論文で発表した。

 これは非常に有名な研究で、その結果を疑う者は誰もいなかったのだが、2016年、シュトラック自身が同じテーマでメタ研究を行い、その結果を再現できないことを発見した。

 つまり無理やり口角を上げても特に気分が良くなるわけではないようで、新たな「再現性の危機」の事例が判明したわけである。

論文:Inhibiting and facilitating conditions of the human smile: a nonobtrusive test of the facial feedback hypothesis.
written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52282552.html
 

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