TBSの日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」が、9月15日に最終回を迎えた。

最終回で大勝負に挑んだ君嶋の運命は?
トキワ自動車のラグビー部「アストロズ」のGM・君嶋(大泉洋)は、常務取締役に昇進したかつての上司・脇坂(石川禅)から、ラグビー部予算の大幅圧縮を突きつけられていた。予算が削られれば、アストロズは国内リーグプラチナリーグ」から離脱せざるをえない。君嶋は選手たちのために何としてでもそれを食い止めなければならなかった。そのためにも蹴球協会にリーグ改革を断行してもらわねばならない。だが、協会を取り仕切る専務理事の木戸(尾藤イサオ)は、協会長の富永(橋幸夫)に忖度して、改革に及び腰だ。それでも君嶋のアストロズ改革は、ほかのチームのGMからも注目され、彼の協会改革案についても徐々に支持者が増えていく。最終回冒頭では、嵐の櫻井翔演じる赤木という他チームの新米GMが、アストロズに学ぶべく練習試合を見学に訪れていた。

他方、アストロズリーグ最終戦となるサイクロンズとの試合を控えていた。昨シーズンはあと一歩というところでサイクロンズに敗れて優勝を逃しただけに、今シーズンこそ雪辱を晴らさねばならない。

脇坂に蹴球協会、そしてサイクロンズと、いずれ劣らぬ手ごわい3者を相手に大勝負を挑むことになった君嶋。果たしてその結果は……ということで、最終回ひいてはドラマ全体を、いくつかの視点から振り返ってみたい。

日曜劇場名物、けれん味たっぷりの企業劇
まずは脇坂との対決。本社の役員会議に出席した君嶋は、脇坂のラグビー部予算圧縮の提案に猛然と反論する。しかし同案を撤回させるには、プラチナリーグ改革の実施が必須だ。そのために君嶋はこれまで木戸に再三訴え続けていた。じつは木戸も日本のラグビーの行く末を案じていた。ワールドカップ招致もその打開策として木戸が主導したものだった。だが、そのために大物政治家でもある富永に協力を得て以来、彼に頭が上がらなくなってしまっていた。君嶋はそこを突いて、あらためて改革の断行を訴えたのだ。これを受け、木戸も悩んだ末についにある決断を下す。

役員会議で君嶋が脇坂と対峙していると、スマホが鳴る。じつは同じ時間に、蹴球協会でも理事会が開かれていた。そこで木戸は富永の会長解任を発議、ほかの理事の賛成多数で可決される。君嶋はスマホを掲げると、富永会長解任を伝えるニュース速報を脇坂に見せつけた。いよいよリーグ改革が端緒につき、脇坂のラグビー部予算の圧縮案も取り下げられたのである。

脇坂に一矢報いた君嶋だが、本当の戦いはここからだった。島本社長(西郷輝彦)の許しを得て議場にとどまった君嶋は、先のカザマ商事買収劇が、脇坂によって仕組まれたものだと暴露する。じつはカザマ商事社長の風間(中村芝翫)は脇坂の中学時代の同級生だった。風間は自社の扱うバンカーオイルとタンカー事故との因果関係が取り沙汰されると、脇坂に相談、オイルの分析データを改竄して疑惑を払拭するよう指示される。脇坂はさらにカザマ商事の買収を、トキワの常務だった滝川(上川隆也)に持ちかけた。それは滝川を追い落として、自分が出世するための謀略だった。買収が決まりかけたところで、脇坂は先のデータ改竄を暴露して、滝川を失脚させると、まんまと常務の座に就く。

君嶋は、証人として風間を呼び出していた。風間から「脇坂、よくもおれをハメてくれたな!」と指を突きつけられ、さらに君嶋に「このトキワ自動車から、さっさと出ていけぇぇっ!!」ととどめを刺され、脇坂はその場で崩れ落ちる。前回の滝川の解任劇も芝居がかっていたが、今回はそれにも増してけれん味たっぷりの演出だった。

日曜劇場では、本作と同じく池井戸潤原作の「半沢直樹」をはじめ、企業における逆転劇をこのような派手な演出で視聴者にカタルシスを与えてきた。思えば、それを演じるのは舞台出身の俳優が目立つ。今回もまた、君嶋を演じる大泉洋北海道の劇団出身で、いまでも演劇ユニット・TEAM NACSの一員であり、また滝川役の上川隆也は小劇場、脇坂役の石川禅は新劇出身で現在はミュージカルを中心に活躍し、そして風間役の中村芝翫はいうまでもなく歌舞伎と、分野は違えどいずれも舞台出身者だ。それだけに、前回、そして最終回の役員会のシーンは、芝居の一幕を見ているようだった。

リアリティあふれる試合シーン
ノーサイド・ゲーム」の見どころは、そうした企業物としての部分だけではなく、ラグビーの試合を徹底してリアルに描いたことだ。私は当初、本作の予告に接したとき、今年のラグビーワールドカップ日本大会(今週末に開幕する)に合わせた企画なのだろうと、ちょっと高をくくっていた。しかしいざドラマがスタートして、ドラマのなかで、ラグビーの試合がリアルに描かれていることに驚いた。

マラソンなどの個人競技、あるいは団体競技でもピッチャーバッターとの1体1の対決の多い野球なら、編集によって本物らしく見せることは比較的容易かもしれない。しかしラグビーのように試合中、選手たちが動き回り続けるスポーツを俳優に演じてもらうのは至難の業だろう。「ノーサイド・ゲーム」はその難題に挑み、見事にクリアしてみせた。勝因はまず何より、元日本代表の広瀬俊朗(浜畑役)をはじめラグビー経験者を多数集めたことだろう。彼らが本気で体をぶつけ合う姿からは、効果音(なかでも筋肉がねじれるような音はいかにも痛々しかった)もあいまってこのスポーツのハードさが十分すぎるほど伝わってきた。

最終回で描かれたアストロズサイクロンズによるリーグ最終戦では、昨シーズン後半に鮮烈にデビューした新星・七尾(眞栄田郷敦)も、サイクロンズに徹底してマークされ、本領をなかなか発揮できなかった。おかげで前半に大量得点を許してしまう。それが後半、けがでスターティングメンバーから外れていた浜畑が入ると、ようやく七尾も調子を取り戻し、徐々に点を入れ返していく。このとき浜畑は選手生命をここで終える覚悟で試合にのぞんでいた。一度は倒れ込むが、残る力を振り絞って立ち上がり、プレイを続行する。その姿にアストロズのチームメイトも奮起し、点差をどんどん縮めていく。あとワンプレイで逆転というところで、ボールを受け取った浜畑は、すでにぼろぼろになった足でふらつきながらも走る。そこへ、かつてのチームメイトでサイクロンズに移籍した里村(佳久創)にタックルされると、浜畑は七尾にボールを託す。ボールを手にした七尾は、見事にトライを決め、アストロズは最後の最後で逆転、そのまま試合終了となった。ベテランの浜畑と、新人の七尾の連係プレイがチームに優勝をもたらしたのである。

浜畑役の広瀬俊朗はこれが俳優デビューとあって、まだ素人っぽさが残る。はっきりいってセリフも棒読みだが、それがかえって、ぶっきらぼうだけど熱い心を持つ役柄とマッチして、妙な魅力を感じさせた。後半戦を前に、浜畑が君嶋に引退を告げると、「あなたに会えてよかった」と言い残してグラウンドに向かう姿にはグッと来た。

ノーサイド・ゲーム」は全編を通して、スポーツの社会における役割を考えさせられるところもあった。最終回では、役員会で社長の島本が脇坂に対し「われわれ企業は営利目的の組織であると同時に社会的存在でもある。世の中のみなさんとつながり、ともに喜び合える何かが必要だ。アストロズがその役割をはたしてくれるなら、こんなすばらしいことはないじゃないか」と諭し、君嶋がこれまで進めてきたラグビー部の地域貢献活動を評価した。企業におけるスポーツのあるべき姿を、このセリフは的確に示している。このほか、アストロズの最終戦の舞台に、今春、東日本大震災以来8年ぶりに再開した福島県のJヴィレッジが選ばれたのも、スポーツの力を表すうえで象徴的だった。

妻から見たサラリーマン出世物語
ノーサイド・ゲーム」は、君嶋と妻・真希(松たか子)と二人の息子という家族によるホームドラマにもなっていた。これは原作小説にはまったくない要素である。

最終回では、長男の博人(市川右近)は、アストロズジュニアチームのキャプテンに選ばれて悩んでいた。「僕、何も決められないよ」と言う博人に、君嶋は「それでいいんだよ」と励まし、こう続ける。「チームにはさ、いろんな人がいて、いろんな意見があるんだ。それをまとめるのはとっても難しいことなんだよ。悩んで当然なんだ。大事なのは、みんながよりよくなるためにはどうすればいいかなーって考えること。それさえ忘れなきゃ、きっと答えは見えてくる。博人なら絶対できる」。それはアストロズのGMの経験から君嶋が学んだことでもあるのだろう。それを息子にわかりやすく、やさしく伝えられる君嶋はつくづくいい父親だと思う。

妻の真希も、これまでなぜか頑なにアストロズの試合を観に来ようとしなかったのが、ついに最終戦にいたって観戦に赴く。それも自分でチケットを買って。その試合中、真希は、後ろに座っていた藤島(阿部純子)や星野(入江甚儀)が君嶋のGMとしての貢献を話しているのを耳にして、思わず驚きの声をあげる。家では頼りない夫が、同僚からこれほど慕われているとは知らなかったのだろう。アストロズが優勝を決めると、彼女は君嶋としっかり抱きしめ合い、喜びを分かち合うのだった(自宅では君嶋が抱きつこうとするとあんなに拒んでいたくせに!)。

真希は、君嶋に対しときに厳しい態度をとりながらも、褒めるべきところはしっかり褒め、やる気を引き出したりと、見事に夫をコントロールしていた。君嶋が脇坂から本社復帰を求められたのを断ったときには、あっさりその選択を受け入れ、いざとなったら自分が稼ぐと口にする頼もしいところもあった(そういえば真希はよくテーブルでパソコンを広げていたが、家で何か仕事をしているのだろうか?)。こうして振り返ると、このドラマは、妻から見たサラリーマンの出世物語でもあったことに気づく。ナレーションが真希によって語られていたのは、その何よりの証拠だろう。(近藤正高)

イラスト/まつもとりえこ